さきの総選挙における民主党の圧勝を受けて、自公民政権に替わって、民主、社民、国民新党の連立政権がスタートします。有権者の間には、新政権は国民本位の政治を進めてくれるのではないかという期待があります。
働き方ネットにとってもっとも気になるのは、民主党の労働政策です。これまでの自民党の政策は、分野を問わず「財界言いなり」という点に特徴がありましたが、それがもっともきわだっていたのが労働政策でした。
民主党の労働政策を「INDEX2009」(マニフェストより詳細な政策集)で見てみると、財界言いなりの自民党のそれにくらべてずっと労働者寄りだと言えます。その点ではある程度期待してもよさそうです。しかし、労働環境や労働条件の改革に関しては、いくつかの無視できない不十分な点が含まれています。
まず気づいたのは、「長時間労働」という言葉はあっても、「働きすぎ」という言葉はどこにもないことです。長時間労働をもたらしている最大の要因はあまりにも長い残業ですが、「残業」や「時間外労働」という言葉は見あたりません。それだけでなく「サービス残業」あるいは「賃金不払残業」という言葉も出てきません。
言葉がないわけですから、サービス残業の「解消」も政策課題には上っていません。サービス残業は、被害人口と被害金額からみて最大の企業犯罪だといわれています。また、労働者の長時間労働と、過労死・過労自殺を含む健康障害の要因の一つになっています。サービス残業を解消することは、労働組合の課題であるだけでなく、政府・厚生労働省とその下の労働局および労働基準監督署の責任です。労働政策でこれに触れていないのは理解に苦しみます。
民主党の労働政策の「ワークライフバランスの実現」の項は次のように述べています。
「長時間労働によるメンタルヘルスの悪化、過労死・過労自殺などを防ぎ、健康・安全配慮義務が適切に履行されるよう労働時間管理の徹底を強化します。月60時間超の割増賃金率50%への引上げを着実に実施します。1日11時間の休息時間規制を設けるEUの労働時間指令を参考に、心身の健康確保のため、勤務と勤務の間の休息時間の導入に取り組みます。派遣・請負労働者も含め、安全衛生教育や予防、再発防止対策を強化し、労働災害を撲滅します」。
「過労死・過労自殺」はこの箇所に一度出てくるだけです。「労働時間管理の徹底」を強調していますが、残業の削減はどこにも言っていません。EU指令を参考に勤務と勤務の間の最低休息時間の導入に取り組むと言っているのはよいことですが、そう言っている一方で、EUで行われているような1日の労働時間規制(1日10時間または残業2時間)の導入には触れていません。
労働基準法は1週40時間、1日8時間を最長労働時間として定めています。しかし、同法の第36条にもとづく労使協定(36協定)を結んで労基署に届け出れば、法の規定を超えていくらでも時間外および休日に労働をさせることができます。これに歯止めをかけるには1日の残業を2時間までに制限するような規制が必要です。
しかし、民主党の労働政策には残業規制の観点はありません。それどころか、すでに法律が通った「月60時間超の〔残業〕の割増賃金率50%への引上げ」の実施をわざわざ謳っているところをみると、50%の割増賃金さえ支払えば、70時間でも80時間でも働かせてよいという考えに立っているのではないかと疑いたくなります。これでは過労死・過労自殺を防ぐことも危ういと言わなければなりません。
民主党の労働政策は、長時間労働の解消や年次有給休暇の完全消化などの課題を、もっぱら育児や介護の支援メニューの問題としてとりあげています。しかし、長時間労働の解消や年休消化の課題は、育児や介護に関わる者だけでなく、すべての労働者にとっての健康と余暇の問題です。
民主党と連立政権には、全労働者の見地から残業規制による働きすぎの解消を中心に、働き方の改革に取り組んでほしいものです。