厚生労働省は2月8日、世にも奇妙な「専門26業務派遣適正化プラン」と称する行政指針を出しました。
現行の労働者派遣法では、「専門26業務」以外は、派遣可能期間に原則1年、最長3年の制限が設けられています。にもかかわらず、この制限を免れるために、契約上は「専門26業務」を装って、実際は「専門26業務」以外の業務に派遣したり、受け入れたりするケースが拡がっているといわれています。このたびの「適正化プラン」は、そうした「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣」に対して、厳正な指導監督を行う目的で策定されたものです。
これが奇妙きてれつだという理由は、二つあります。
第1に、この「適正化プラン」は、もともと特別な熟練や専門的知識を必要としない「事務用機械操作」や「ファイリング」を専門業務であるかのように言い立てて派遣許可業務とした、派遣法制定当初からの制度設計の誤りを、まったく不問に付していることです。
派遣法の生みの親と言われる高梨昌氏(信州大学名誉教授)は、最近のインタビュー(『都市問題』第100巻第3号、2009年3月)において、当初の派遣対象業務にビルメンテナンスとファイリングという2つの単純労働ないし不熟練労働を入れてしまったことが、専門的な知識や経験をもった業務の派遣を認めるという論理の破綻を招き、「それがのちにポジティブリストからネガティブリストに変わっていく一つの道筋になってしまった」と告白しています。ここには「事務用機械操作」は挙げられていませんが、通常のパソコン操作であれば、事務用機械操作は今ではファイリングと同様に特別の熟練や技能を必要としなくなっています。
第2に、この「適正化プラン」は、パソコンを触るのは単純業務であるが、パソコンを使うのは専門業務である、あるいは、書類の整理を機械的に行っているだけの場合は単純業務であるが、考えながら行っている場合は専門業務である、と言っているに等しいような奇妙な理屈で単純業務と専門業務を区別して、派遣とその受け入れの合法・違法の判断基準としようとするものです。
しかし、こうのような区別の仕方には、鼠を捕らない猫を単純ネコ、捕る猫を専門ネコと区別するのに似た無理がついて回ります。そのそも猫という動物は鼠を捕るのがふつうであって、猫にとっては鼠を捕ることは専門能力でもなんでもありません。現代では都会の飼い猫は鼠を捕らない、あるいは捕れないからといって、猫にとって鼠を捕ることは、子猫のころに覚えればすむことで、専門的な技能や知識を必要とするわけではありません。それは現代人のほとんどが一定の年齢になれば自転車に乗れるようになることと同様です。(次回につづく)