前回は、厚生労働省の派遣労働に関する「専門26業務適正化プラン」を取り上げて、そのおかしなところを問題にしました。同プランは、「専門26業務」以外の派遣の期間制限を免れるために、実際は単純業務でありながら、「専門業務」であると偽った違法派遣が「散見」されるとして、「事務用機器操作」と「ファイリング」を例に、どんな業務が専門業務に該当するかを周知する目的で策定されたものです。
「事務用機器操作」については次のように言います。
「事務用機器操作」とは、「電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれに準ずる事務用機器の操作」とされているが、現在の実情に沿って解釈すると、「オフィス用のコンピュータ等を用いて、ソフトウエア操作に関する専門的技術を活用して、入力・集計・グラフ化等の作業を一体として行うもの」と解されるところであり、迅速・的確な操作に習熟を要するものに限られる。
具体的には、例えば、
? 文書作成ソフトを用い、文字の入力のみならず、編集、加工等を行い、レイアウト等を考えながら文書を作成する業務
? 表計算ソフトを用い、データの入力のみならず、入力した数値の演算処理やグラフ等に加工する業務
? プレゼンテーション用ソフトを用い、図表・文字等のレイアウトを考えながらプレゼンテーション等に用いる資料を作成する業務
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?はワードや一太郎などのソフトを使って文書を作成することですが、今日の大学生や高校生なら、そうした文書作成ソフトを利用できない人はほとんどいません。できないという人は携帯やパソコンで電子メールを利用していない人と同じ程度に少数になっています。
?の入力した数値の演算処理やグラフ等への加工の技術は、ソフトに組み入れられて、いわばブラックボックスになっているので、それを操作する人間に求められるわけではありません。それに今日の高校や大学では、?の操作能力の習得はたいていの場合必修となっているか、習得済みのものと見なされています。
?はパワーポイントなどのソフトを用いてプレゼン資料を作成することです。これは?や?より一見高い操作能力が求められるようにみえますが、、私のゼミナールの学生たちを見ていると、発表用のレジュメをさしたる準備もなくそうしたプレゼン資料に加工しています。したがって、それができるからといって、専門的な技能や知識を有しているとはいえません。
今日では?〜?の能力は、職業生活を含む社会生活に必要な基礎的な読み書きそろばん能力の一部になっています。それは車の運転能力がそうなっていることとかわりません。しかも、「専門26業務派遣適正化プラン」で見過ごせないのは、?〜?のすべての能力を要するような「機械機器操作」を専門業務としているわけではなく、三つのうちの?だけでも、専門業務とみなしていることです。
これでは「単純に数値をキー入力するだけの業務」以外の業務はすべて「専門業務」としての「事務用機器操作」である、と言っていることになります。またこれでは専門業務としての「事務用機器操作」の仕事内容をわざわざ限定する意味はありません。こんなややこしいことを言うより、あっさりと「事務用機器操作」は専門業務ではないことを明らかにして、「専門26業務」から外すべきです。もっと押し広げて言えば、「専門26業務」を抜本的に見直し、「専門業務」という理由で派遣を許可し、そのうえ派遣の制限期間を外すという現行法の規程を廃止するべきです。(次回につづく)