第84回 奇妙きてれつな「専門26業務派遣適正化プラン」 その3

同じテーマを3回目もつづけてすみません。今月は今日まで更新が中断していた埋め合わせのためもあるのでお許しください。
 
「専門26業務派遣適正化プラン」は「専門業務」としての「ファイリング」についてつぎのように書いています。
 
○「ファイリング」は、高度の専門的な知識、技術又は経験を利用して、分類基準を作成した上で当該分類基準に沿って整理保管を行うもの等に限られる。
○具体的には、例えば、書類が大量に発生する事務所において、書類の内容、整理の方法についての専門的な知識・技術をもとに、書類の重要度、内容等に応じた保存期間・方法を定めた文書管理規程を作成し、この文書管理規程に基づいて、書類を分類・整理・保存・廃棄することにより、事務所内職員が書類の所在を把握できる仕組みを維持する業務等が、「ファイリング」に該当する。
○一方で、例えば、既にある管理規程に基づき、書類の整理を機械的に行っているだけの場合や、単に文書を通し番号順に並び替え、それをファイルに綴じるだけの場合、管理者の指示により、背表紙を件成しファイルに綴じるだけの場合は、「ファイリング」に該当しない。
 
罫線で囲んだ第1と第2の段落は、いかにも高度な専門的スキルを有するファイリングについて言っているようです。しかし、多少ともオフィスらしいオフィスなら、「書類の重要度、内容等に応じた保存期間・方法を定めた文書管理規程」が存在しないところがあるとは考えられません。また、どんなにありふれた文書管理でも、「事務所内職員が書類の所在を把握できる」ようになっていなければ、役に立ちません。
 
とすれば、基本的にほとんどの文書管理(ファイリング)は「専門業務」だということになり、逆に言えば、単純業務として派遣を禁止すべき文章管理業務はほとんど存在しないことになってしまいます。
 
また、第2段落は専門業務としてのファイリグ派遣は「書類の重要度、内容等に応じた保存期間・方法を定めた文書管理規程を作成」することもできなければならない、と言っているようにも読めます。それほど重要な規程の作成を派遣に担当させる会社があるとも思えません。
 
上記のこととは別に無視できないのは、派遣の「専門業務」の適正化に関する厚労省の行政指針は、「専門業務」の説明の際に、「高度の専門的な知識、技術又は経験を利用して」という言い方をしていることです。「高度の」という表現は、指針の作成者が専門性を強調しようと今回加えたものでしょうが、「専門的な知識、技術、経験を必要とする業務」という表現は、もともと派遣法制定時の法案の趣旨説明で繰り返し言われており、なにも目新しいものではありません。
 
しかし、ちょっと考えてみれば、特定の業務に関する専門的な「知識」や「経験」は、当該業務に従事する派遣労働者が持っているとしても、「技術」(テクノロジー)は、労働手段としての道具や機械やソフトに備わっているものであることが分かります。労働者が持っているのは技術ではなく、その技術を操作する技能(スキル)です。
 
今日のように技術進歩が激しい時代にテクノロジーとスキルを取り違えると、労働過程や労働市場の変化についての認識を誤ることになります。今日の情報通信技術は、新しい専門的・技術的職業を生み出しましたが、実はそれ以上に多くの産業と職業において熟練を不要化し労働を単純化して、正規雇用の多くを非正規雇用に置き換えることを技術的に容易にしてきました。近年増大してきた派遣労働者の多くは、新しい情報通信技術によって増大してきた、専門的技能を要さなくなった単純労働に従事しています。
 

以上に述べてきた理由から、現代のオフィスにおける最たる単純労働である「ファイリング」はどのように定義しようとも「専門業務」にはあたりません。(次回につづく)

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