本日(13日)、東京出張で厚生労働省に立ち寄ったついでに労働政策審議会の労働条件分科会を傍聴しました。かねてから反対してきたホワイトカラー・エグゼンプション(ホワエグ)の審議の最終報告書が出ると聞いていたからです。
結果は残念というか、やっぱりというか、労働者側は最後まで反対姿勢を崩しませんでしたが、結局、使用者側とその意向を受けた厚労省に押し切られて、「今後の労働時間法制のあり方」というタイトルの報告が最終提案通り確認され、厚労大臣に「建議」されることになりました。今後は法案が条文化されて3月には閣議決定を経て国会に提出される運びになりそうです。
国会では積み残しの労働者派遣法の改定の審議との絡みもあって、どうなるか予断を許しませんが、反対運動の場が労政審から国会に移ることだけはたしかです。今後とも断固反対の声を上げ続けるためにも、取り急ぎ重要なことだけを書いておきます。
第1に、問題の「高度プロフェッショナル制度」の狙いは、一定の業務と年収の労働者を労働時間の規制から外し、労働基準法の根幹をなす8時間労働制に大穴を開けることにあります。これは第一次安倍内閣のもとで2006年にいったん骨子がまとまりながら、2007年1月に「国民の理解が得られていない」という理由で国会提出が見送られたホワエグ案の焼き直しです。
第2に、今回の進め方は、労働者側が入っておらず、使用者側だけで構成された産業競争力会議の発議を受けて閣議決定を行い、厚労省(労政審)に法案の骨子づくりを押し付けたという点でも、労働者の「健康」の問題である労働時間を「国際競争力」の問題として規制緩和の柱に据えたという点でも、まさに無理が通れば道理が引っ込むの見本のようなやり方です。ずばり言えば、労働者の「いのち」よりも会社の「もうけ」を優先させてきたのが今回の法案論議です。
第3に、政府が「日本再生戦略 改定2014」に「新たな労働時間制度」の名の下にホワエグ法の制定を盛り込んだのは、過労死防止法が参議院で成立し制定された2014年6月20日のわずか4日後でした。同法はいろんな経過がありましたが、最後は自民党案が超党派議連案となって、全会一致の議員立法として成立したものです。それだけに政府の姿勢には理解に苦しむところがあります。いうまでもなく、過労死の最大の原因は異常に長い残業です。その残業を規制するのではなく、逆に規制を外すホワエグ法案は過労死防止法の目的に逆行するものです。
第4に、今回の法案骨子にある高度専門職という業務要件は、いったん成立したらすぐに広げられると考えるべきです。経団連の榊原会長は全労働者の10%に広げるべきだと要求しています。今は1075万円以上となっている年収要件も、すぐに800万円、あるいはそれ以下に下げられるでしょう。そして遠からず、もともと経団連が提言していた400万円という線まで下げられることもありえます。そうなってから反対したのでは遅すぎます。蟻の穴から堤も壊れるといいます。労基法という堤はもう相当に壊れていますが、ホワエグ法が制定されると根幹から壊れてしまいます。だからこそホワエグ法を許してはなりません。
第5に、いまの提案どおり時間規制の除外対象者が「高度専門業務」で「年収1075万円以上」の労働者に限られるならまだましだ、ということにはけっしてなりません。厚労省の労災補償状況に関する資料によると、専門的・技術的職業従事者と管理的職業従事者を合わせた高度専門業務従事者は、すべての職業のなかで過労死(過労自殺を含む)が最も多発しています。1075万円以上の年収所得者は40代に多いと考えられます。この所得階層は過労死の多い年齢層とぴったり重なっています。その点で、今回のホワエグ法案は、業務から見ても年収から見ても、過労死のリスクの高い人々を狙い撃ちにしていると言えます。そういう過労死促進法はまっぴらごめんです。