昨夜のNHKクロースアップ現代の「どう変わる?ハケンの働き方」を見て失望しました。というのは、事前に付き合いのある団体や個人からお知らせがあって派遣の実態に迫る番組ではないかという期待を持ち、それが裏切られたからです。
「ハケンの働き方」というタイトルも期待を抱かせるものでした。何かしら差別的な語感のある「ハケン」というカタカナ表記を強いて用いる場合は、派遣が劣った雇用身分であることをやんわりとさげすむか、あるいはまともな働き方からみた派遣の差別的実態を批判するかのどちらかだと推測されます。NHKが前者の立場から番組を作るとは考えられません。とすれば、後者の立場から付けたタイトルだと思いますが、番組を見て、あえて「ハケン」と表記した理由は理解できませんでした。
番組は何人もの派遣労働者に取材して、当事者の「不安なんてもんじゃないです」「 途方に暮れています」といった声を聞き出していました。しかし、残念ながら取材関係者のその努力は、編集とゲストのコメントによって打ち消され、私の印象では当事者の批判や怒りは視聴者にストレートには伝わって来ませんでした。
参議院厚生労働委員会における2015年8月26日の労働者派遣法改定案の審議で、15年同じ派遣先で働いてきた宇山洋美さんがハケンのひどい働かされ方について参考人として悲痛な訴えをしています。彼女の発言は録画で視聴することがでます。また同日の議事録で文章を読むこともできます。以下にその一部分を引用しておきます。
録画:http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/detail.php?ssp=22687&type=recorded
議事録:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/189/0062/18908260062029.pdf
「私の賃金は、派遣先における私より10歳若い女性正社員のそれの半分以下です。正社員に支給されるものが派遣には一切支給されないからです。賞与、退職金、手当てはございません。昇給、昇進はございません。交通費もございません。それにもかかわらず、担当する業務に差異はございません。」
「おなじ業務を担っていても、賃金において2倍も格差があるという点で、職務において何をするのかではなく、誰がするのかで賃金、処遇が決められる身分制度を感じざるをえません」。
労働事件に詳しい塩見卓也弁護士によれば、宇山さんは今回の番組で取材を受けたそうですが、結局、放映されませんでした。他にも取材を受けながら番組には反映されなかったという人の話も聞きました。収録された声が時間的理由などによって編集でカットされるのはよくあることで怪しむに足りませんが、今回はゲストのコメントと合わせて考えると、何か「政治的」な配慮や意図が感じられます。
労働者派遣制度は、そもそも労働条件の決定を派遣元と派遣先の商取引(派遣契約)に委ね、労働条件の決定から労働者を排除している点でまともな雇用とは言えません。賃金は労働者の働きぶりと不可分なはずですが、労働者の使用には関与せず、働きぶりについては知らぬ存ぜぬの派遣元が賃金を決めるというもの不合理です。派遣労働という、賞与なし、退職金なし、手当なし、昇給なし、昇進なし、交通費なし、有休なし、働きがいなし、尊厳なしの、「無い無い尽くし」の働かされ方については、ゲストコメントでは一言も触れられませんでした。
今回の派遣法改定によって、「専門26業務」の枠組みが廃止され、労働者は3年で切られるが、企業は人さえ替えれば同一事業所で業務内容に関係なく派遣労働者を受け入れ、派遣使用期間をいくらでも延長できるようになったことについても、ゲスト解説者は派遣労働者の処遇改善に役立つような口ぶりでした。
それもそのはず。ゲスト解説者の阿部正浩中央大教授は、厚生労働省の審議会や研究会の委員であるだけでなく、2007年には人材派遣会社のイーキュア株式会社の取締に就任したという経歴もあるようです。
こういう人のコメントが政府寄り、派遣会社寄りであることはあらかじめわかっていることです。そういう人をあえて登場させることに、最近「政府公報機関」になってきたのではないかと言われているNHKの弱腰を感じます。ネットでも広く批判の声が上がっています。私もこの場を借りて異議を述べました。