エコノミスト 2016年8月2日号
バーニー・サンダース『バーニー・サンダース自伝』萩原伸次郎監訳、大月書店、2,300円+税
「はぐれ者」の軌跡に見る米国経済・社会の問題点
これは昨年来のアメリカ大統領民主党予備選挙で若者の熱狂的な支持を受け、ヒラリー・クリントンを相手に大接戦を演じたあの「社会主義者」サンダースが自らについて縦横に語った。
タイトルに「自伝」とあっても普通の意味の自伝ではない。ニューヨーク市の下町の労働者家庭に育ったことや、シカゴ大学でベトナム反戦運動や公民権運動に参加したことなどにも触れているが、ほとんどのページは、バーリントン市長(81〜89年)とバーモント州選出下院議員(91〜07年)であった時期の政治活動とメディア批判に割かれている。
かといって狭い政治の本ではない。目に入るのは、彼が長年変えようとしてきた富の不平等な分配構造と働く人びとの報われない経済生活である。こうした視点の背景には、政治の民主主義がまともに機能するには経済に民主主義がなければならないという思想がある。
彼の選挙への挑戦は、地域小政党の自由連合党に推されて、1971年、30歳で上院議員に立候補したときから始まるが、30代は州知事選挙も含め惨敗続きであった。しかし、81年に地域の進歩的運動のリーダーとして、無所属でバーモント州バーリントン市の市長選に出馬し、わずか14票差で当選したときから潮目が変わった。彼はその後3期市長を務め、無所属のまま91年には同州選出の下院議員に当選した。07年に上院議員に当選したときの得票率は65%であった。アメリカの二大政党制の歴史のなかで、サンダースほど長く24年も無所属で議員を務めた者はいない。
この本には、今回の大統領予備選におけるサンダースの公約――全国最低賃金(時給)15ドルへの引き上げ、公立大学の授業料無料化、全国一律の公的医療保険制度の創設、TPP交渉からの撤退、金融業界規制の強化、政治資金規制の厳格化、地球温暖化対策――のもとがぎっしり詰まっている。貧困解消のための最賃の大幅引き上げは、国民皆保険制度の創設と並んで、下院と上院を通じた彼の一貫した主張であった。彼は金持優遇税制の改革や金権政治の打破を説き続け、ブッシュのイラク戦争にも議会演説で一人敢然と反対した。
サンダースは本書で自らをアメリカ議会の「はぐれ者(アウトサイダー)」と称している。評者は勇ましく大胆にふるまう人という意味で、アメリカ政治に波風を起こす社会主義者の「あばれ者」と言いたい。本書を読まずして今日のアメリカ政治は語れない。