<過労社会 働き方改革の行方> (3)働かせ放題 残る抜け穴

東京新聞 2017年4月4日 朝刊

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201704/CK2017040402000112.html

 的場さんのタイムカードに印字された遅刻を示す「チ」の文字。遅刻分は「遅早調整」として給与からカットされた
 労使が合意すればいくらでも働かせることができる協定(三六(サブロク)協定)の抜け穴をふさぐために、残業時間の上限規制が導入される。ところが、政府がまとめた働き方改革の実行計画には、一部の働き方を残業代支払いの対象から外すことによる、別の抜け穴が用意されていた。

計画は「柔軟な働き方」をうたい、時間に縛られずに働ける制度の早期導入を掲げる。労使で定めたみなし労働時間を超えても残業代が払われない既存の裁量労働制の拡大や、高収入の専門職で働く人を残業代支払いの対象外とする「高度プロフェッショナル制度」の新設だ。上限規制をのむ条件として経済界が「自律的に働きたい労働者への対応も考慮すべきだ」と実施を迫っていた。

「政府は労働者の自己実現を支援するためと言うが、実態を分かっているのか」。二年前まで裁量労働制で働き、制度を悪用されたという的場健さん(43)=仮名=は、改革の先行きに不安を抱く。

当時は、仏画やふすま絵などの制作、修復を手掛ける職人として京都市内の工房で働いていた。団体交渉で残業代を請求すると、経営者側の弁護士がこう言った。「うちは裁量労働制なので、残業という概念はありません」

「ポカーンですわ」。自分がそんな働き方だったことすら知らなかった。裁量労働制では仕事の進め方や出退勤時間は本人に任されるが、「でも裁量なんてなかった」。出退勤の時間を細かく指示され、遅刻すると給与をカットされた。

手帳にメモした労働時間を計算すると、残業が二百五十時間の月もあった。それでも給与は一日七時間のみなし労働分だけ。経営者は「できんのは能力が足りんからや」と言い張った。

的場さんは過労などからうつ病となり、工房を辞めた。「人件費を減らしたいだけ。残業代もなく、ボロ雑巾になるまで酷使された」と悔しさをにじませた。

経営者は本紙の取材に「スタッフの個性を生かせる働き方だと思って導入した」と話す一方、遅刻早退に罰金を科すことには「好き勝手やって人が育つんですか」と持論を唱えた。
 行政による監視の目は届きにくく、裁量労働制の乱用は後を絶たない。労働政策研究・研修機構(東京)の二〇一三年調査では、裁量労働制とされながら出退勤の自由がない人が四割を占めた。

働き過ぎを助長する懸念もぬぐえない。正社員三人に一人に適用する損保大手では一六年度、みなし時間より平均で月二十時間も長く働いていた。中には百二十時間の人も。社員の一人は「裁量労働制になったら上司から早く帰れって言われなくなった」と明かしており、人事担当者は「労働時間短縮は道半ば」と話す。

裁量労働制は深夜休日に働いた分の賃金は追加で支払われるが、高度プロフェッショナル制度はそれすらなく、「全く歯止めのない働かせ放題の制度」と労働者側はより危険視する。

両制度を盛り込んだ労働基準法改正法案は、既に国会に提出済み。裁量労働制に詳しい兵庫県立大学の松浦章客員研究員は「今でも長時間労働・サービス残業の隠れみのになっているのに、さらに抜け穴を広げれば、上限規制が有名無実になってしまう」と訴える。

<裁量労働制> 労使で定めた労働時間(みなし時間)分の賃金を支払う代わりに、仕事の進め方や出退勤を労働者の裁量に委ねる制度。雇用主は深夜や休日を除き、みなし時間を超えて働かせても追加で賃金を支払う必要はない。みなし時間に残業分を含めるかも労使の協議による。年収制限はないが、職種や業務内容で適用できる人は限られる。

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