連合と日本経団連の春季労使交渉をめぐるトップ会談が1月26日に行われました。報道では企業業績が低迷するなかで、労使はベアは困難との見方を共有し、定昇の扱いが焦点になると伝えられています。しかし、この1年余りは賃金がかってなく大幅に下がっているのですから、労働側はせめて下がった分を回復させる要求を掲げ、その実現のために闘うべきではないでしょうか。
昨年8月6日、この連続講座の第10回に「このままだと年間給与総額は10兆円の減収に」と書きました。これは昨年6月に支払われた給与総額が賞与を含め7.1%減少したという厚生労働省「毎月勤労統計調査」の発表をうけて、普通の月は1〜3月の結果をもとにマイナス3%、ボーナス月はマイナス7%と仮定し、それに失業者の減収分を加えて推計した数字です。
実は、内閣府の「国民経済計算」によれば、雇用者報酬は2008年7-9月期から2009年7-9月期のあいだに263兆1897億円から252兆9932億円へ、10兆円も下がっています。雇用者報酬は賃金とボーナスに、退職一時金および社会保険の雇用主負担分を加えた額ですから、さきの給与総額とは少し違いますが、10兆円のマイナスのほとんどは給与所得(賃金、ボーナス)の減少によって生じたものです。
日本経団連は昨年12月18日、大手企業のこの冬のボーナス(賞与・一時金)妥結額の最終集計を発表しました。それによると、平均妥結額は前年比15.01%減の75万5628円となり、1959年の統計開始以来最大の落ち込みを記録しました。同じ日本経団連の発表資料で昨年夏のボーナスを見ると、平均妥結額は前年比17.15%減の75万3500円でした。二つの数字をもとにした大手企業の昨年の従業員1人当たりの給与所得の落ち込みは、ボーナスだけでも29万円に達します。残業代が激減した製造業の年収の落ち込みはこれよりもっと深刻です。
雇用者報酬がこれほど下がっては個人消費が縮小するのも当然です。振り返れば、もともと個人消費という景気の足腰が弱かったところにもってきて、リーマンショック後の世界恐慌で輸出が落ち込むと、たちまち販売不振と過剰生産が表面化し、それが賃金と消費のいっそうの落ち込みを招いて大恐慌をきたした、というのが2008年秋以降の日本経済の動きでした。
最近ではしきりにデフレ脱却がいわれていますが、賃金を切り下げて景気を回復させようとしても、個人消費が縮小しデフレが強まるだけで、景気の浮揚は期待できません。デフレ脱却の鍵は賃金の引き上げです。労働界にはこの点をふまえて労使交渉にあたってほしいものです。