神戸新聞 随想 2015年7月6日
先頃、厚生労働省が取りまとめた昨年度の「過労死等の労災補償状況」公表された。
この資料で労災請求を見ると、過労死に係わる脳・心臓疾患はいくぶん減少したが、過労自殺に係わる精神障害は過去最多を更新した。1990年代末に比べ10倍近く増えている。
労災支給が決まった事案では、とりわけ若者の精神障害と自殺の増加が目立つ。
原因は想像を絶する労働時間である。月平均残業時間が「160時間以上」というケースがこの1年大幅に増えている。月4週、週休2日とすれば、1か月320時間以上、1週80時間以上、1日16時間以上働くことを意味する。
1週40時間、1日8時間までという基準はどこにいったか。世界の先進国で労働者がこれほど長時間働かされる国がほかにあるだろうか。
これでは、戦前の『職工事情』や『女工哀史』の時代とさして変わらないと言える。
いつの時代でも、1日は24時間しかない。健康を維持するには最低6時間以上の睡眠を必要とする。身心の限界を超えて、連日16時間も働かされれば人は斃(たお)れる。
就活を乗り越え希望をもって就職した若者の過労とストレスによる自殺はまことに痛ましい。
昨年6月に、過労死家族の会や過労死弁護団などの長年の運動が実って、「過労死等防止対策推進法」(過労死防止法)が制定され、11月に施行された。このほど過労死防止対策の「大綱」も定まり、過労死ゼロに向けて一歩を踏み出した。
しかし、残念なことに残業の上限規制と翌日の勤務までの最低休息時間の確保は盛り込まれていない。そこが超えられなければ、過労死ゼロへの道のりは遠いだろう