今野晴貴さん「コカ・コーラ下請会社で最大月200時間の残業で、労基署から是正勧告」 (3/12)

コカ・コーラ下請会社で最大月200時間の残業で、労基署から是正勧告
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200312-00167395/
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。2020/03/12(木) 12:11

 3月5日、日本コカ・コーラの自販機業務を請け負うシグマロジスティクス(株)(従業員数:約2千人)の二つの営業所で労働基準法違反が確認されたとして、大田労働基準監督署が同社に対して是正勧告を出した。監督署によれば、最長で月200時間もの残業が確認されたという。

 この営業所はコカ・コーラボトラーズジャパンベンディング(株)の建物の一角にあり、同社が下請業者であるシグマロジスティクスの長時間労働の実態を把握していなかったとは考えづらく、コカ・コーラグループのコンプライアンス意識にも疑問符が付く。

 今回労働基準監督署が法違反を認定したことをうけて、世界No.1飲料ブランドを謳い高いコンプライアンス基準を持つコカ・コーラグループが下請企業の法違反・過重労働の問題に対してどのように対応するかが問われている。

労働基準監督署が4項目もの法律違反を認定
3月5日、大田労働基準監督書は、シグマロジスティクスの大田営業所と羽田営業所について、4項目の労働基準法違反を認めて是正勧告を出した。同じ会社の複数の営業所で4項目もの法違反が認められることは異例のことだ。

 監督署が指摘した法違反の内容は次のとおりだ。

1、一部の労働者に対して労働条件を明示していなかった点(労働基準法15条違反)

2、労使協定で定める残業時間の上限を超えて残業をさせており、最長で月に200時間もの残業をさせていた点(同法32条違反)

3、法定の1日60分の休憩を取らせていなかった点(同法34条違反)

4、適切に残業代を支払っていなかった点(同法37条違反)。

 特に際立っているのが長時間労働の問題だ。月に200時間残業していたのは営業所の管理職だが、一般のルートドライバーの多くも繁忙期には月に100時間を超えて残業していたという。

 次に、シグマロジスティクスで働く現職ルートドライバーたちの話をもとに、こうした長時間労働が蔓延する過酷な労働現場の実態とその背景に迫っていきたい。

コカ・コーラの自販機のルートドライバーの過酷な労働実態
シグマグループ(シグマロジスティクスとシグマベンディング)で働くルートドライバーの有志が所属する産業別労働組合の自販機産業ユニオン によれば、街中で見かけるコカ・コーラのロゴが入った赤色のトラックを運転して自販機の補充業務を実際に行っているのは、多くの場合、シグマグループなど下請業者のルートドライバーだという。

 ルートドライバーの主な仕事は、飲料を満載したトラックを運転して、街頭や駅、オフィスビル等にある自販機に飲料を補充したり、自販機内の現金の回収や併設のゴミ箱のゴミを回収したりすることだ。

 シグマロジスティクスの場合、繁忙期には朝7時半頃に出勤し、朝礼に参加してすぐにトラックに乗って自販機の巡回に出かける。担当するルートにもよるが、トラックで1日20台〜35台程度の自販機を巡回して飲料を補充し、売上金やゴミの回収を行う。

 この間、休憩らしい休憩は取れない。19時過ぎに営業所に戻った後も、倉庫内作業(翌日補充する飲料をトラックに載せる作業)や事務所内での事務作業(日報作成や翌日の巡回スケジュールの作成等)がある。退勤する時間は21時を回ることも多々あるという。

 昨年の夏も、多くのルートドライバーは月に2〜3回の休日出勤を求められ、月の残業は100〜150時間にも達していたという。また、彼らを束ねる管理職にあたる労働者は月に200時間残業もの残業をしていて、まる一ヶ月間休みが無い月もあったという。

 自販機産業ユニオンによれば、こうした長時間労働の背景には、業務量過多と恒常的な人手不足があるという。人手不足の原因は、新規応募者が少ないだけでなく、せっかく採用・入社まで漕ぎつけても、過労死ラインの月80時間残業を優に超える長時間労働や残業代不払いに耐えられなくなり、辞めていってしまうことにあるという。

 ここまでシグマロジスティクスの過酷な労働環境についてみてきたが、実はコカ・コーラの自販機業務の下請会社で過重労働の問題が取り沙汰されたのは今回が初めてではない。別の下請会社では、長時間労働・過労の結果として、労働者が死にまで追い込まれてしまった。

コカ・コーラ下請の別会社では過労死も
関西地区で、コカ・コーラの下請配送を行う日東フルラインという会社では、2008年8月、入社からわずか4か月の27歳の若い労働者が過重労働を原因として自ら命を絶っている。彼の死の直前には、複数の従業員が「しんどい」「まじで無理」「倒れそうです」などと会社の日報に書き残していたという。

 2010年06月、大阪西労働基準監督署がこれを労災認定した。労基署は、自殺の原因が月100時間以上にものぼる長時間労働にあると認定したのだ([my news Japan,12/28 2011,http://www.mynewsjapan.com/reports/1536 「コカコーラ配送「日東フルライン」で新入社員が過労自殺 猛暑、パワハラ、無理なノルマ…」])

 この過労死事件からすでに10年が経過しているが、再びコカ・コーラの下請企業でいつ過労死が起きてもおかしくない労働環境が生まれてしまっている。

 コカ・コーラの製品を運び自販機に補充する下請労働者の命や健康に対して、コカ・コーラグループに責任はないのだろうか。

問われるコカ・コーラの社会的責任
残念ながら、日本の元請企業の多くは下請企業の労働問題に関して、別会社の問題だから「関係も責任もない」という主張をすることが多い。

 だが、多重下請け構造が広がる日本の運送業などでは、元請の大企業が納期や請負価格で無理を言うために下請企業の労働者の労働条件が悪化する構図があり、元請企業の「関係も責任もない」という主張には無理がある。

 実際に、国際社会では、元請企業には下請企業が人権侵害を行うことを防ぐ努力をする責任があることが法的な規範となっている。

 2011年に国際連合人権理事会で「ビジネスと人権指導原則」が採択され、企業は、供給業者等の取引先が雇用する労働者の人権侵害についても「負の影響を引き起こしたり、助長することを回避」し、「人権への負の影響を防止または軽減するように努める」ことが求められることが明記された(同原則13参照)。

 こうした国際規範に則れば、コカ・コーラの飲料を運搬・補充する下請会社のシグマや日東フルラインなどの労働者の人権に対して、コカ・コーラグループは「企業としての社会的責任」があるといえ、そうした責任を踏まえて適切に対処することが求められているといえよう。

 そして、世界でビジネスを行うコカ・コーラグループは、下請業者の労働者の人権について、自社に「企業としての社会的責任」があることをすでに認識しているようだ。

 コカ・コーラボトラーズジャパンは、同社と「取引のあるすべてのサプライヤーに適用され」る「サプライヤー基本ポリシー」を定めて、サプライヤーに次のことを遵守することを求めている。

.1.法令の遵守

当社グループの製品および供給品の製造と流通において、また、サービスの提供において、適用されるすべての現地および国内の法令、規則、規制、要件を遵守すること。

2.結社の自由・団体交渉の権利

報復、脅迫、嫌がらせを恐れることなく、法令に従い、労働組合に参加・不参加、または労働組合を結成することができる社員の権利を尊重すること。また、社員が法的に認められた労働組合の組合員である場合には、社員の自由意思によって選ばれた代理人と建設的な対話を持ち、誠意を持って交渉に臨むこと。

6.労働時間と賃金

賃金、労働時間、時間外勤務、福利厚生に適用される法令に準拠して事業を運営すること。

 さらに、「サプライヤーが、サプライヤー基本ポリシーに違反した場合、当社グループは、是正措置の実施を求めることができます」「サプライヤー基本ポリシーを遵守していることを示せないサプライヤーとの契約を終了できる権利を留保します」と定めているのだ。

 このように、コカ・コーラグループは、国際規範を意識した高い水準の「サプライヤー基本方針」を定めている。

企業を動かすのは消費者である私たち
以上を踏まえれば、いまコカ・コーラグループに求められていることは、この「サプライヤー基本方針」を実際にサプライヤーに適用するよう指導し、是正措置を実施させることだ。

 また、コカ・コーラがサプライヤーが適切な指導を行う上では、「消費者の目線」も重要な要素になる。これまでにも児童労働を使うアパレル製品が消費者から強く非難され、「企業の社会的責任」からこれを是正するように大手ブランド企業が動かざるを得なくなるなど、消費者目線を意識した「元請け企業」の改善事例は枚挙にいとまがない。

 同じように、消費者である私たちが、過労死ラインを超える長時間労働や違法な労働条件でシグマグループの労働者を働かせることで自販機に補充されたコカ・コーラ商品にNOを表明すれば、コカ・コーラグループは「サプライヤー基本方針」を遵守することを強く指導することが予想される。

 自販機産業ユニオンでは、シグマグループの労働環境や団体交渉の経過をブログで報告している。多くの人がこうした情報発信に注目することで、大企業にサプライヤーも含めたコンプライアンス遵守の活動が促されていくだろう。

今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。 

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