働き方改革、進んでる? 昨年4月施行、企業に順次適用 (2/23)

働き方改革、進んでる? 昨年4月施行、企業に順次適用
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202002/0013138931.shtml
2020/2/23 09:00 神戸新聞NEXT

〔写真〕K&P社会保険労務士事務所代表 吉松正人氏

 多様な働き方を目指す「働き方改革関連法」が昨年4月に施行されました。年5日の有給休暇の取得などが企業に義務づけられ、今年4月からは「同一労働同一賃金」が大企業で適用されます。改革の内容と、どんな影響があるのかをまとめました。(塩津あかね)

■生産性向上、格差是正狙う

 日本の人口は減り続けています。このままでいくと、2048年には1億人を割って9913万人となり、ピーク時の08年の1億2808万人から23%減り、企業の人手不足はますます深刻になります。一人一人の生産性を上げないと、今後、日本経済は縮小の一途をたどりかねません。

 一方で、雇用者全体に占める非正規労働者の割合は19年で平均38%ですが、その平均年収は正社員の36%(18年)にとどまっています。こうした格差を是正し、どんな働き方を選択しても納得のいく待遇で長く働いてもらうことが必要です。15年に大手広告代理店の女性社員が過労自殺したことも、働き方改革を推し進めるきっかけになったといえます。

■「同一労働同一賃金」や残業時間の上限規制

 「同一労働同一賃金」は働き方改革関連法の柱の一つです。大企業と派遣労働者は今年4月から、中小企業は来年4月から適用されます。能力や経験、貢献度が同じなら正社員やパートなどの雇用形態にかかわらず、企業は同じ賃金を支払わなければなりません。派遣労働者の場合は、派遣先の正規社員と同じ賃金を払う必要があります。派遣労働者の賃金が正規社員を下回る場合、その差額分を派遣会社側が負担するのか、派遣労働者を受け入れる企業側が負うのかは、難しいところでしょう。

 待遇に差がある場合は、なぜなのかについて労働者が納得できるよう合理的な説明をしなければなりません。「パートだから」「将来の役割が違うから」という抽象的な理由は認められません。

 また、残業時間の上限規制は、大企業では昨年4月に導入され、中小企業は今年4月から義務化されます。過労死を防ぐため、残業時間を原則月45時間かつ年360時間以内にするものです。特別な事情がある場合は年720時間以内・月100時間未満で、これを超えると刑事罰の適用もあります。特別な事情は「年度末だから忙しい」は認められず、リコールなど想定外の理由が必要です。

■中小企業により大きな影響

 残業時間の上限が設けられたからといって、仕事が減るわけではありません。職場で残業ができなくなり、持ち帰り仕事が増えたとの声も聞かれます。残業手当がなくなり、給料が減った人も多いのではないでしょうか。

 有給休暇(有休)は労働基準法で勤続年数や所定労働日数などによって規定されています。年間10日以上の有給休暇が与えられる従業員は5日間の取得が義務化されました。今回の改革で、パートでも有休取得が可能なことを初めて知った人もいるなど、労働者の認識が変わりました。

 働き方改革で特に大きな影響を受けるのは、中小企業です。従業員の長時間労働に頼る事業所では、残業を減らしたり、休暇を取得させたりすることにより、仕事が回らなくなる恐れもあります。

 実際、中小企業で働き方改革に取り組む企業は大企業に比べて少ないようです。帝国データバンクの調査によると、大企業は75.7%が働き方改革を実践しているのに対し、中小企業は56.7%にとどまっています。大企業が先行して適用されたこともありますが、中小企業には余裕がないことの表れでもあります。

 短い時間で同じ仕事をこなすためには、ITを活用して業務を効率化させるなどの対策が必要になるでしょう。

【教えて!先生】

■K&P社会保険労務士事務所(尼崎市)代表 吉松正人氏

 働き方改革について何から手を付けたらいいのかわからないという声を中小企業の経営者から聞く。ただ、放っておくのが一番良くない。まず労働時間の把握から始めてほしい。

 社員が手書きで出勤簿を付けていたり、タイムカードを実際の退勤時間よりも早く打刻していたりといった時間管理は認められない。勤怠管理ソフトなど客観的な手法を使うべきだ。現場のことは社員の方がよく知っているので、残業時間を減らすには、無駄な作業がないかなどを社員全員で点検することだ。

 経営者が取り組む「同一労働同一賃金」への第一歩は、正規と非正規の待遇内容を洗い出して、差があるかをチェックすること。差があれば、合理的で納得できる説明が可能かどうかを検討し、対応しなければならない。

 今後、中小企業の人材採用はさらに厳しい時代になる。今回の法改正を前向きに捉え、社員の働きやすさを追求する機会にすれば、人材の流出を防ぎ、社員の士気が上がって、生産性も向上するだろう。 

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