イタリア360万人雇用危機 ドイツ200万人時短勤務も
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2020/3/20 18:30日本経済新聞 電子版
〔写真〕外出禁止が続くイタリアでは失業者の増加が懸念されている(ミラノ市内)=AP
【ベルリン=石川潤、イタリア=細川倫太郎、パリ=白石透冴】欧州でも雇用不安が高まっている。新型コロナウイルスの死者数が中国を超えたイタリアでは19日、コンテ首相が25日までの予定だった商店の営業禁止と4月3日までの外出禁止措置をそれぞれ延長する考えを示した。感染拡大に歯止めをかけるためだが、封鎖が長引けば経済は一段とマヒしかねない。同国では労働者全体の16%にあたる360万人の雇用が危機にさらされつつある。
需要の激減、これまでに経験したことのないサービスの停滞――。イタリアの労働顧問財団のリポートによると、ホテルや旅行会社、建設業で働く360万人が「倒産のリスク」と隣り合わせの状況に陥っている。製造業や企業向けサービスで働く800万人(全体の約36%)も、操業停止や需要の蒸発で不安定な状況に置かれており、雇用への不安が高まっている。
「人員削減はやめてほしい」。感染者が1万人を超えたフランスのペニコ労働相は企業に解雇ではなく時短勤務を導入するように呼びかけた。仏政府は対象となった従業員の給与を原則肩代わりするため85億ユーロ(約1兆円)を用意し、失業者の増加を防ぐため航空会社などの国有化の検討も始めたもようだ。
欧州最大の経済大国、ドイツも無制限の信用供与で企業の資金繰り支援を進めている。さらに、企業が時短勤務を導入しやすいように補助金のハードルを引き下げる考えで、時短勤務の利用者は215万人に達すると見積もっている。
国際労働機関(ILO)が18日発表した試算では、新型コロナウイルスの感染拡大で全世界の失業者は最大2500万人増加する。増加数は08〜09年の2200万人を上回る恐れがある。
失業の増加は労働者の所得の減少と裏表だ。ILOによると20年末までに最大3.4兆ドル(約370兆円)の所得が失われる可能性があり、消費の減少を通じて企業をさらに苦しめる悪循環にも陥りかねない。
大量の失業を避けるためには、経済の封鎖状態をできるだけ短くすることが欠かせない。独紙フランクフルター・アルゲマイネは18日、封鎖状態が1カ月続けば20年のユーロ圏の成長率は従来予想よりも2.1%低いマイナス1.3%に、3カ月続けばマイナス5%になるという欧州中央銀行(ECB)の試算をすっぱ抜いた。
「第2次大戦以来最大の試練」(メルケル独首相)を乗り切るためには、経済対策だけでなく、移動制限やワクチン開発などを含めた国際協調が求められる。自国第一で相互批判やワクチンの奪い合いなどに終始し続ければ、最悪のシナリオが現実味を帯びかねない。