米、雇用ショック不可避に 「4月に200万人就業減」 (3/20)

米、雇用ショック不可避に 「4月に200万人就業減」
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日経新聞 2020/3/20 3:37

〔写真〕新型コロナウイルスの感染拡大で米国ではレストランの閉店を迫られる事例も相次いでいる=ロイター

【ワシントン=河浪武史、ニューヨーク=大島有美子】新型コロナウイルスの感染拡大で、米国は「雇用ショック」が避けられなくなってきた。トランプ政権元高官は「4月だけで就業者数は200万人減る」と予測。一部の州では失業や一時帰休を迫られる労働者が30倍超のペースで増える。旅客や外食などサービス業だけでなく自動車も生産を一時休止し、米経済は2桁のマイナス成長に陥るリスクすらある。

全米最大のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルは19日、米国内の一部従業員のレイオフ(一時解雇)や無給休暇に踏み切ると決めた。足元の売上高は前年同期比75%減と急落しており、雇用調整の対象は数万人に達する可能性がある。アーン・ソレンソン最高経営責任者(CEO)は「危機対応に踏み切らざるを得ない」と表明した。

米国では非常事態宣言が出た13日以降、レイオフや解雇の動きが強まる。米中西部オハイオ州は19日、失業給付を求める人が18日の一日だけで3万3千人に達したと明らかにした。1週間前の11日(990人)と比べ、30倍超のペースで雇用情勢が悪化する。現地紙の報道では、ミネソタ州でも16、17日だけで3万1千人が申請し、既に前週1週間の10倍だという。

ニューヨーク市では16日から飲食店の営業が大幅に制限されたが、ウォール街のレストランで働く30代女性は18日に解雇を言い渡された。失業保険の手続きが殺到してオンラインは接続できず「1時間半待ってようやく電話がつながった」という。同市の飲食店従業員は31万人。ニューヨーク州労働当局には失業保険の問い合わせ電話がこれまでの10倍のペースに急増した。

コンサートなどの中止も相次ぎ、テキサス州オースティンのイベント運営会社は150人いる従業員の3分の1を解雇。カジノを運営するサハララスベガスも従業員の大幅な解雇を余儀なくされた。感染者が目立つ西部ワシントン州では、著名ワイナリーの「ジェイブック・ウォルター・ワイナリー」が繁忙期にもかかわらず従業員20人を解雇した。

米国では19日、感染者が1万人と日本の10倍を超え、死者も150人に達した。人の往来が途絶えて、ライドシェア「ウーバー」の運転手の収入は8割も減ったという。自動車大手も一斉に北米での生産を一時休止。「供給ショック」は幅広い産業に広がり、トランプ政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたケビン・ハセット氏は19日、米テレビ番組で「4月の雇用は過去最悪になる。200万人の就業減となりそうだ」と強い警鐘を鳴らした。

リーマン・ショック後の雇用の落ち込みは2009年3月の80万人が最も多い。200万人シナリオはこれを大幅に上回る規模となる。

2月の就業者数は27万人増え、失業率も3.5%と50年ぶりという歴史的な低水準を保っていた。200万人の就業減となれば、失業率は一気に5%近くに跳ね上がる計算だ。雇用ショックが起きれば、個人消費を冷やして米景気は一段の悪化が避けられない。

〔写真〕ラスベガスではカジノが閉鎖され、街が閑散としている=ロイター

そのため民間金融機関は18〜19日、4〜6月期の米成長率(前期比年率換算)が2桁のマイナスになると大幅に予測を引き下げた。JPモルガン・チェースはマイナス14%、ドイツ銀行は同13%、バンク・オブ・アメリカは同12%と悲観シナリオがずらりと並ぶ。2桁のマイナス成長となれば、金融危機直後の08年10〜12月期(8.4%減)よりも大幅な落ち込みだ。

トランプ米大統領は19日の記者会見で「米経済は一時的に落ち込んでも、その後に急回復する」と強調した。民間調査機関も景気悪化の「谷」を4月から5月とみており、JPモルガンなどは7〜9月期にはプラス成長に戻ると見込む。通年でみればリーマン危機直後の09年(マイナス2.5%)よりも小幅な落ち込みで済むとの見方も多い。トランプ政権は国内総生産(GDP)の5%弱にあたる1兆ドルの景気対策を検討し、景気の底割れの回避へ必死だ。

もっとも、景気悪化の深さと長さは、新型コロナの感染拡大に歯止めがかけられるかにかかっている。米労働市場は日欧に比べて柔軟で、一時帰休や無給休暇を余儀なくされても、先行き不安がなくなれば職場に復帰するのが難しくない。感染拡大のペースが収まり、雇用の落ち込みを短期にとどめられれば、景気のV字回復も可能だ。
 

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