はじめに
森岡孝二さんは、この働き方ASU-NETのホームページに多くの記事を残されました。また、個人のホームページである「森岡孝二のホームページ」にも、多方面の様々な文章を書いていました。森岡さんのエッセイ集『教職みちくさ道中記』にも、この個人ホームページの『気まぐれバーディング』から、いくつかの文章を載せていますが、すでにこの個人ホームページは閉鎖されています。ご家族のご好意により、個人ホームページから、『気まぐれバーディング』の一部をここに転載いたします。
2004年5月23日 高槻市番田の水路脇の人工池に今年もカルガモ一家
わが家から近い高槻市番田の水路脇の人工池に今年もカルガモが子育て中です。今年は2組の親からそれぞれ10羽と11羽のヒナたちが誕生し、5月17日頃から可愛い姿を見せるようになりました。それを新聞やテレビが報じて、近所はもちろん遠方からも大勢の人が見物に来ています。
(母親と11羽のヒナ)
昨年、本欄に「近くの池に11羽のカルの子誕生」と書いたのは6月22日のことでした。実はこれより何週間か前に、同じ池に別の親から生まれた子どもたちが10羽ほどいたようです。生まれたばかりの11羽を私が見たときには、前に生まれた10羽は4羽に減って、もうヒナとはいえないほど大きくなっていました。
今回インターネットで検索したところ、高槻市の公式サイトに一昨年(2002年)6月4日付けで、「番田の流域下水道高槻処理場敷地内にある公園の池にカルガモの一家。こどもは12羽。散歩する近所の人たちに温かく見守られながら育っています」という寿町の足立道成さんの写真付き投稿が載っていました。
ここ3年間の例から考えると、カルガモはどうやら1回の子育てで10個から12個の卵を産むようです。大阪自然環境保全協会編『大阪の野鳥』(松籟社、1983年)にそれを裏書する次のような専門家の解説がありました。
「カルガモたちは5月に入ると、繁殖にとりかかる。かれらの巣場所は水辺の草の中。枯れ草をしいただけの粗末な巣に10~12個ものたくさんの卵を産む。卵は、いわゆる“アヒル”の卵で、かなり大きい。だから、2日に1卵しかうめない。産卵が完了するまでに、12卵だと23日もかかってしまう。さらに、卵を抱いている期間をあわせると50日にもなるから、親鳥が卵を外敵にとられないようにする苦労は大変なものである」。
20日以上もかかって卵を産んでも、順々に孵るというわけではありません。同時に温めはじめるからか、すべての卵が同じ日に孵化するのだそうです。子育てはもっぱらメスの仕事らしく、メスのそばをいつまでも離れないオスもいるようですが、オスはたいていは交尾をすませた後どこかへ行ってしまうようです。
1回の子育ての卵の数については、必ずしも「10~20個」というわけでも、「2日に1卵しかうめない」というわけでもなさそうです。慶応志木高校生物部制作の記録映画「カルガモ子育て日記」には「1度に18羽ものヒナが孵った」とあります。「カルガモは産卵期になると、卵を毎日数個づつ生み10個くらいになったところで生むのをやめ、卵を温めはじめます」という解説も付されています。ニワトリでも卵は毎日1個(まれに2個)なので、「毎日数個づつ」というのは本当でしょうか。
カルガモは生まれ落ちると同時に自分で泳ぎはじめます。歩くこともできます。食べ物も自分で採ります。それでもなお、ヒナの生育環境には厳しいものがあります。1回に10羽から12羽産まれても、カラス、タカ、蛇、イタチ?、猫?などに命を奪われて、無事に大人まで育つのは半数以下だと思われます。
話は変わりますが、カルガモの環境に関連してぜひとも書いておきたいことあります。今年の4月17日の東京での出来事です。前夜、水道橋のグリーンホテルに泊まった私は、翌朝、友人とJR水道橋駅に向かって東洋高校の近くを歩いているときに、カルガモの成鳥が路上で死んでいるのを見付けました。どこにも外傷はなく、触るとまだほの温かい感じがしました。
その場は、可哀そうに思い、道端の植え込みの脇にそっと移してやりました。その後、本郷から上野の方へ歩いているうちに、大阪(茨木市見山)で弱っていたところを捕獲されて死んだカラスを調べたら鳥インフルエンザに冒されていたという話を思い出しました。友人にその話をすると、彼は携帯で110番に電話して、警察に場所を伝え死んだカルガモを調べてほしいと頼みました。けれど、その後、何の発表もされておらず、友人にも何の連絡もありませんでした。ということは、単純な事故死か自然死だったのでしょう。そもそも鳥インフルエンザは関西での騒ぎでした。
人間はカルガモに危害を加える存在なのでしょうか。藤本和典『野鳥--ポケット図鑑』(主婦の友社、1992年)には、「人気のカルガモ親子だが、毎年、狩猟鳥として20数万羽が打(撃)ち落とされているという事実もある」と出ています。なかには私の好物のカモ鍋になっているものも少なくないでしょう。
しかし、今年も近くの人工池で子育てをしているカルガモたちは、人家の軒下に巣を作るツバメのように、あえて危険な人間に近づくことによって天敵から身を護る戦略をとっているのかもしれません。子どもの頃、わが家の土間には毎年ツバメが来て子育てをしていました。子どもも大人もツバメにやさしく、だれ1人としてツバメを虐める人はいませんでした。
カルガモ一家を見ようと集まってくる人たちも、カラスなどの天敵を気にしながら温かくヒナを見守っています。というより、平和なカルガモ一家に心を癒されて、みんなとてもやさしい顔をしています。人間がカルガモにやさしい心遣いをしているというより、カルガモが人間をやさしい心根にしてくれているのです。