「パワハラ」って何? ~その1 パワハラ防止法制定!~

1 パワハラ防止法制定の背景!

 2020年(令和2年)6月1日、「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法、以下「パワハラ防止法」)を改正する法律が施行されることにより、日本で初めてパワーハラスメント(以下「パワハラ」)の防止対策が法律に基づき実施される予定です。

 この法律改正は、パワハラに対する社会的関心の高まりを背景にしていると考えられます。

例えば、近年の精神障害の主な出来事別の労災認定件数では、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が60~80件台(2017年度は506件中80件[1]、2018年度は465件中69件[2])に上ります。

また、全国への労働局への相談件数は、年々増加の一途を辿っており、平成24年度は5万1670件となり「解雇」や「労働条件の引き下げ」を上回り最多となりました。平成30年度には8万2797件にのぼり、7年間で3万件以上増加しました。

このように、パワハラを原因とする自殺事案が後を絶たないほか、パワハラに苦しむ人が増加していることに加えて、これらの問題に対する社会的関心が高まっていることも背景として、パワハラ防止法は、社会的な関心の高まりを背景にしてできたといえるでしょう。

2 パワハラ防止法の内容

 パワハラ防止法は、次のような内容です。

 (1)国の施策に「職場における労働者の就労環境を害する言動に起因する問題の書行けるの促進」(ハラスメント対策)を明記しました。

  今回の改正により、4条の「国の施策」の条項が「(前略)次に掲げる事項について、総合的に取り組まなければならない。」とされたところ、取り組む事項として、「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。」が明記されました。

  これにより、日本国政府に、パワハラ対策を行うことが義務付けられました。

 (2)事業主(経営者)が行うべきパワハラ防止対策を明記しました。

  まず、30条の2として「雇用管理上の措置等」という条文を設け、第1項で小粟腹を定義しました。

 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

  まず、この条文では、パワハラを

 「職場において行われる」

 「優越的な関係を背景ととした言動」

 「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」

 と定義しました。

 この定義は、日本におけるこれまでのパワハラの定義に関する議論を踏まえたものですが、法律上パワハラの定義が明記されたことは大変重要なポイントです。

 そのうえ、同条は、事業主に対して、パワハラがあったとされる場合に①当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、②その他の雇用管理上必要な措置をとることを義務付けています。

 (3)相談等をした労働者に対する不利益取り扱いの禁止

  次に、30条の2第2項では、事業主に対して、パワハラのための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)を新設しています。

  「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

 これは、パワハラを受けた労働者が相談したり、その相談に協力した労働者がいたとしても、企業はそのことを理由に解雇などの不利益な処分をしてはならないということを定めたものです。

 当然のことですが、パワハラを告発したことによる報復を恐れる労働者に配慮した規定といえるでしょう。

 (4)国・事業主・労働者の責務

 法30条の3では、「国、事業主及び労働者の責務」が規定されています。「責務」といっても、法律上の「義務」とは異なり守らなくても罰則や損害賠償をされることはなく、「養成」といった趣旨と考えるほうがよいでしょう。

 まず、第1項は、国の責務です。

 「国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。」

 国はパワハラ問題の広報活動、啓発活動などを頑張ろうと言っています。例えば、埼玉労働局が、ハラスメント防止セミナーを開催して、ハラスメントに関する法制度を開設するなどしています[3]

 第2項は、事業主の責務です。

 「事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。」

 企業は、パワハラに関する研修の実施やそのほかに必要な配慮をするように要請されています。今後、社内研修を実施する企業が増えていくのではないでしょうか。

 第4項は、労働者の責務です。

 「労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。」

 労働者の側も、パワハラについて関心・理解を深めて、他の労働者(同僚や上司、部下など)にハラスメントととられる言動をしないように要請しています。

(5)厚生労働省の指針

  30条の2第3項以降は、この措置を講ずるために厚生労働大臣が指針を定める規定がおかれています。2(1)~(3)で見たように、パワハラ防止法には詳細な規定がないため、実際の運用は厚生労働省が作る指針に委ねられることになります。令和2年1月15日厚生労働省告示第5号が告示されました。また、指針案の内容も公表されていますが、この内容は次のコラムで紹介したいと思います。


[1] 厚生労働省ウェブページ「平成29年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00039.html

[2] 厚生労働省ウェブページ「平成30年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05400.html

[3] 労働新聞社「ハラスメントの防止対策措置へ 埼玉労働局 2020.1.9.」https://www.rodo.co.jp/news/85948/

この記事を書いた人

中西翔太郎