教員の働き方・公立学校でも残業代の支払いが行われている

 教員の長時間労働が問題となっている。しかし、教員の働き方について改善されたというニュースは少ない。

 関西では、不当解雇事件に発展した私立学校で、未払い残業代の支払いが行われ、残業代の支払い制度ができた。しかし、該当の学校では未だに「サービス残業」がなくならない。

 公立学校では、給特法があることにより、正規雇用や常勤講師の先生方には残業代は支払われない。「教職調整額」として給与の4%が支払われているが、これを残業代としている。しかし、「教職調整額」を超えた残業代は支払われない。「固定残業代」とも言えないのだ。単純に計算して給与の4%は月の労働時間に換算して約5時間程度だ。全ての残業を網羅した額とは言えないことは誰の目にも明らかだ。しかし、給特法という法律によって、この「労基法違反」状態は「合法」とされている。

 その公立学校で労基署から是正勧告が出され、残業に対する賃金が支払われたことが、2020年11月19日付中日新聞で報道されている。

 報道によると、名古屋市教育委員会が市立中学で働く非常勤講師5人に対し、未払い賃金を支払うと決めた、とのことである。以下、中日新聞の報道記事に触れながら、この問題を考えてみたい。

 労基署に申告をした先生は、週13時間の授業を受け持っていたが、一日あたりの勤務時間が4~5時間で週4日であったということだ。授業とその準備、提出物の点検、テストの問題作成と採点などの仕事をしていた。しかし、非常勤講師は労働時間管理がなされず、残業代は支払われなかった。2019年の7月から市民団体「臨時教員制度の改善を求める会名古屋支部」が作った表に労働時間を記録し、その勤務実態が認められたのだ。

 つまり、教員として働いた時間は「労働時間」と認められたのだ。しかし、このことは正規職員には当てはまらない。

 給特法が、明らかに労基法や労基署の見解に対して矛盾している状態になっているのだ。非常勤講師の先生は労働時間を申告すれば、賃金が適正に支払われる。しかし、正規採用の教員は月45時間以内の残業規制が図られているとはいえ、所定労働時間を超えた労働時間に対する残業代は支払われない。

 件の名古屋市教育委員会は、始業と終業時間を印字した勤務表に押印をさせるように方式を変更したが、勤務時間が延長されても、「申告」しないと調査しないとの姿勢である。一歩前進したように見えるが、勤務表の時刻の変更は容易ではなく、非常勤講師という弱い立場に付け込んだやり方であることには変わりがない。勇気を持って「申告」できる先生がどれだけいるのだろうか。教育の現場で立場の弱いものにしわ寄せをくらわせる状況なのだ。

 一方で、仙台市は「非常勤嘱託職員に時間外勤務を原則させない」という運用に無理があるとして2017年度から残業代を支払う制度を開始したそうだ。勤務の実態に合わせて賃金を支払う、当然の変更である。あるべき姿に前進する仙台市の施策は評価されるべきだ。

 社会の流れとして長時間労働が問題となっている一方、「働かせ放題」でも、労働時間管理から放置されているのである。公的機関で違法な残業が放置され、長時間労働に肉体だけでなく、精神的にも追い込まれている労働者がいる。

 そのような状況下、私立学校では労基署申告が相次いでいる。公立学校とは違い、私立学校の先生方は労基法が適用される。関西でも関西大学の併設校で残業代の支払いが始まっている。また、東京の私学教員ユニオンに加盟した先生方が労基署申告や裁判所への訴訟提起の行動を起こし、残業代を認めさせている。

 公立学校の先生方の中でも非常勤講師の先生は労基法が適用されることが今回の中日新聞の報道で喧伝されることになった。公立私立に関わることなく、教員はこのような社会の変化に敏感であるべきではないだろうか

 名古屋で労基署に申告した先生は「教員に非常勤はいらない。全ての教員を正規採用してほしい。無理なら残業をしないで済む教員配置やタイムカードの仕組みを整えてほしい」と語っている。教育は、「国家百年の計」と言われてきた。働いた時間分の給与が満足に支払われない労働実態の中で、「労基法」について教える社会科の教員がいる、就職や進路の指導をしている教員がいる、土曜日、日曜日、クラブ活動の指導をしていて家族との時間が持てない教員が家庭生活について語る、夜に学校に電話をして長々と話をする保護者の対応をしている教員がいる、このような教員が「国家百年の計」としての教育を担うことができるのであろうか。多くの疑問があることは間違いない。

この記事を書いた人

伏見太郎