1万人超え 急速に広がる感染死亡者
新型コロナ感染症による国内死者が1万人を超えた。その約80%は去年12月以降に死亡しており、1月23日に5000人を超えてからわずか3ヵ月で2倍にまで急増したことになる。
大阪で未曾有の感染急増
感染拡大は、ほぼ日本全体で急増しているが、とくに、大阪では医療が逼迫して非常事態とも言える状況に達している。
大阪府、第2回緊急事態宣言の期限1週間前解除を要請
大阪府の吉村知事は、2月19日、重症患者用病床の使用率が減少してきたことなどを理由に、政府が発出していた「第2回緊急事態宣言」(期限3月7日)を大阪については期限前(2月末)に解除する方針を決めた。そして、京都、兵庫と共同して関西3府県の知事が、同月23日、政府に対して3府県に対する宣言を1週間早く、2月末で解除するよう要請した。それに応じる形で、政府は、3府県に対する緊急事態宣言を期限1週間前に解除することになった。
大阪府、まん延防止等重点措置の適用を政府に要請
ところが、その後、大阪では新型コロナ感染症の「変異株」が3月20日過ぎから急激に増加したため、緊急事態宣言解除からわずか1ヵ月の4月1日、吉村知事は、今度は、感染再拡大を理由に、政府にたいして全国の都道府県で初めて、改正新型インフルエンザ特措法に基づく「まん延防止等重点措置」の適用を求めることになった。そして、政府がこの要請に応じたことから、大阪府については4月5日から5月5日の1ヵ月間、「まん延防止等重点措置」が適用されることになった。
大阪府、第3回緊急事態宣言の発出を政府に要請
しかし、「まんえん防止等重点措置」が適用されても、大阪府の感染者は急増を続け、第2波、第3波の最大時を超え、さらには連日1000人を超えるまでに増えた結果、PCR検査で陽性が判明しても、4月19日現在、自宅療養者が8149人、宿泊療養者が1100人にまで急激に増加することとなった。新型コロナに感染しても、入院して適切な治療を受けることができない状況が拡大して、大阪の医療は未曾有の危機的状況に陥ることになった。
大阪府は、4月20日、新型コロナウイルスの対策本部会議で、府内での感染急拡大のために医療の逼迫が深刻になっており、さらに強い対策を講じる必要があるとして、政府に対して、緊急事態宣言の発出を要請することを決定した。
政府は、大阪府、兵庫県、京都府だけでなく、東京都からも緊急事態宣言発出の要請を受けて、4月23日、新型コロナ対策本部で、3回目の緊急事態宣言の発出を決定した。その対象地域は、東京都、京都府、大阪府、兵庫県で、期間は4月25日から5月11日までとされた。しかし、いずれも市民の行動自粛を軸に、施設や店舗の営業を制限することが主な内容で、病床確保やPCR検査数を大幅に増やすという本来の行政としての目立った施策は示されていない。とくに、期間が17日ときわめて短く、急増した感染者数を抑制するには不十分だとして、宣言の効果には最初から疑問がマスコミや専門家から指摘されている。
大阪の医療崩壊状態
従来とは大きく異なる変異株
大阪の医療の厳しさが、関係者から異口同音に伝えられた。
2021年4月に入ってから、コロナ病棟に肺が真っ白になった患者さんが次々と運び込まれてきました。対応した医療従事者の多くが「これまでより重症が多いな・・・」と感じていました。さほど基礎疾患がない患者さんでも広範囲の肺炎を起こしていることが多く、第3波以前には経験したことのない現象でした。報道されている通り、変異株(特にN501Y変異)が悪さをしているのだと直感しました。
倉原優「大阪府コロナ第4波、医療現場はどうなっているのか? 医療逼迫の原因、対策は」(Yahoo News 2021.4.29)
第4波の変異株の威力はなかなかすさまじく、あっという間に重症病床が埋まってしまいました。私の記憶が正しければ、4月7日時点で「重症病床はもう”待ち“が発生していて、転院できません」と言われました。
重症病床の逼迫で死亡者数急増 4/29は44人と最悪の数字に
大阪府のコロナ医療状況は、急激な感染拡大で重症病床数が限度に近づき、4月21日現在、90%に達したが、実際には重症化しても重症病床に移ることができず、中等症病床などに留まっている例が増えて、きわめて深刻な状況に陥った。とくに、4月29日には、大阪府の死亡者が44人と発表されたが、これは前日の14人を30人も上回っており、感染者が連休中も増加することが予想される中、死亡者の急増が危惧されている。
入院できず自宅療養に追い込まれる感染者
4月28日、大阪14人、兵庫5人、京都3人、奈良、和歌山各1人、合計24人の死亡が確認されたが、このうち、大阪府では1人が自宅療養中に死亡、兵庫県明石市では自宅療養中の80代男性が死亡(26日)、西宮市の特養ホームで、90代女性2人が入院できないまま死亡したことが判明した。(NHK Web 「新型コロナ 関西で火曜として最多の感染者数」 2021.4.28)
PCRで陽性になっても感染者の1割しか入院できず、自宅療養に追い込まれた感染者が1万人を超えている。50歳代の男性の事例では、保健所からは「熱があっても意識があるなら自宅療養して下さい」と言われたが、パルスオキシメーター(血中酸素濃度計)が保健所から届くまでに1週間以上かかった。結局、症状が悪くなって救急搬送されたが、病院で撮ったCTでは肺が真っ白になって危険な状態だった。(4/28 朝日TV モーニングショー)
これ以上の医療崩壊を防ぐために
こうした医療崩壊の状況が現実化してしまった今、これを克服することは容易ではない。しかし、長期的な課題と当面の課題を考えてみたい。
まず第一に、政府や自治体が昨年からとってきた感染症対策は、その基本を根本的に見直すことである。一言でいえば、いのちを最優先に位置づけた科学的で一貫した対策をとることである。多くの論者が指摘しているとおり、日本の感染症対策は国際的にきわめて低劣な状況を示している。それは、各国が重視している「PCR検査」数と「ワクチン接種」数がOECD諸国のなかでも最低であり、OECD諸国外の国を含めて低位に位置している。改めて「検査」「追跡」「治療」の三つを原則とした世界標準の感染症対策に大きく転換することが必要である。
第二に、医療現場をひっ迫させてきた長年の政策を根本的に改めることである。長期的には1980年代後半から、政府は、保健医療部門などを削減する保健医療政策を続け、現在も病床削減を内容とする医療法改正を進めている。また、住民サービスのための地方公務員を削減し、非正規化、さらには外部化(民間委託化)を進めてきた。そのために、コロナ禍の中で、住民の生命と生活が危機にさらされたときに対応できる長年の経験と専門性を備えた職員が不足することになった。そして、これが新型コロナなどの未知の「敵」に対応することができなくなったのである。
こうした住民サービスを担当する公務員やエッセンシャルワーカーを削減し、不安定な劣悪条件の雇用形態で利用する政策は、人件費削減面に偏ったものであった。そうした労働尊重のない政策は、大阪府の与党となった「維新」の公共サービス担当の公務員削減や民間委託推進によっていっそう拡大され、住民の生命と生活を守る公共部門の人的力量が過度に縮小された。※
※保健医療部門についての問題点については、「エッセイ第40回 保健所機能の大きな後退を招いた政府の地域保健政策-新型コロナウィルスとの闘い(2)」参照。
政府や大阪府は、新型コロナの感染拡大に失敗したことを率直に認めることが必要である。この間の安倍政権や菅政権は、みずからの政策の誤りを率直に認めず、従来からの政策に固執したり、論点をすり替えることに終始してきた。これでは、政策の誤りを改めることにならず、感染の拡大を止めることはできない。それは、国民や府民の生命をより一層危険にさらすことになる。
五輪や万博・カジノは過去の「成功」に囚われた古臭い考え方である。公共サービス、エッセンシャルサービスを軽んじる「財政」「カネ」重視と裏腹な政策は、一部利権追求業者に肩入れする政治である。コロナ禍でその問題点や限界が明らかになった。現場で働く労働者、住民のために働く公務員を尊重することが重要である。それを「ムダ」として削減したり、劣悪労働に転換することは、結局、国民や府民の生命、生活、権利を危険にさらさすことになった。コロナ禍は、それを鮮やかに浮き彫りにした。
「君子は豹変す」。国政や府政を進める者は、偏狭な考え方に固執せず、周囲を見回し現実を直視して異論や批判に耳を傾けるべきである。大胆に政策の方向を正さなければならない。それができないのであれば政治家としての資格と能力がない。潔く政治の場から去るべきである。※
※神戸新聞などの報道によれば、明石市の泉市長は、「知事がやるべき仕事は、まず病床の確保」と強調。病床が不足する各地の状況を「確保に約1年間努力をしてこなかった知事のせいだ」「吉村知事は有害だ。辞めてほしい」と手厳しく批判した(神戸新聞 2021.4.26 明石市長「吉村知事は有害」 私権制限発言を批判)。この報道は、TVなどで吉村氏の主張をそのまま垂れ流す番組が多い中で大きく注目された。賛否あるが、筆者は明石市長の批判はきわめて的確だと思う。
第三に、感染症対策を徹底することである。早期に感染拡大を防ぎ、経済の維持にも大きく寄与する。台湾やニュージーランドなどの国がまさに模範である。後手後手の感染症対策では、感染症を抑えることもできず、経済を維持することにもできず、二つとも失敗した。この一年間を虚心坦懐に振り返ることが必要である。「感染症対策が経済と矛盾する」という考え方は誤っており、「Withコロナ」の中途半端な感染症対策ではなく、あくまでも「Zeroコロナ」を目指すという、感染症対策優先の考え方に転換しなければならない。
そして当面は、五輪や万博などの開催にこだわらず(その中止の可能性も前提に)、生命を守ることに集中して財政や人員を感染症対策にまわし、全力をあげて医療現場を支援することが必要である。