(情報)EUのプラットフォーム労働条件指令関連News・論説(2021.12.11)

・EU(欧州連合)では、各国で増大するプラットフォーム労働をめぐって、その弊害が問題となっています。
そして、各国での裁判や労働運動などでの取り組みを反映した世論が高まってきました。その結果、2021年12月9日、欧州委員会が、関連した指令(Directive)の最終草案を決定して、その内容を発表しました。世界各国がこれに注目しています。日本では、岸田首相が2021年11月、「新しい資本主義実現会議」でフリーランスの保護を目的に法制定(法改正)の検討を課題として提起しました。日本でも、このEU指令案を踏まえた議論が必要です。
・EUでの議論について、英語などの外国語情報を仮訳の形で掲載し、また、関連した日本のマスコミ報道や論説などを幅広く集めることにしました(外国語訳については、訳者の能力の限界があり、本格的なものではありません。あくまで「仮訳」です)。また、関連情報については翻訳作業などを経て、継続して更新していく積もりです(2021.12.11 文責:swakita)
欧州労連(ETUC)書記の談話(仮訳)の追加など、更新(2021.12.12)

指令案関連の情報(EU)

プレスリリース2021年12月9日ブリュッセル
デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々の労働条件を改善するための欧州委員会の提案
本日、欧州委員会は、プラットフォーム労働における労働条件を改善し、EUにおけるデジタル労働プラットフォームの持続可能な成長を支援するための一連の措置を提案します。
この新たなルールは、デジタル労働プラットフォームで働く人々が、彼らが受けるべき労働者の諸権利や社会的給付を享受できるようにします。また、アルゴリズム管理(つまり、職場の管理機能を支援し、または代替する自動化システム)の利用に関しても、追加的な保護を受けることになります。EU共通の一連のルールは、法的確実性を高め、デジタル労働プラットフォームが単一市場の経済的潜在力と公平な競争の場から十分な恩恵を受けることを可能にします。
本日の一括対策の一部として、委員会は次のことを提案します。
・ プラットフォーム労働に関するEUの接近方法と対策を定める意図(communication)。これらは、各国当局、労使団体代表(social partners)、その他の関係当事者(actors)がそれぞれのレベルでとるべき行動によって補完されます。また、質の高いプラットフォーム労働のための将来の世界基準に関する作業の基礎を築くことも目的としています。
・ プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令の提案。これには、デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々の雇用上の地位を正しく判断するための措置や、アルゴリズム管理に関する労働者と自営業者双方の新しい権利が含まれています。
・ 労働条件の改善を求める単独自営業者の労働協約に対するEU競争法の適用を明確にするガイドライン草案。これには、デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々も含まれる。
プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令
・ 雇用上の地位(Employment status)
提案された指令は、デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々が、実際の仕事の取り決めに対応する法的な雇用上の地位を確実に与えられることを目指しています。この指令案では、プラットフォームが「使用者(employer)」であるかどうかを判断するための管理基準のリストを提供しています。プラットフォームがこれらの基準のうち少なくとも2つを満たしていれば、法的には使用者であると推定されます。したがって、プラットフォームを通じて働く人々は、「労働者(worker)」の地位に付随する労働者の諸権利および社会保障上の諸権利を享受することになります。これは、労働者として再分類された人々が、最低賃金(存在する場合)、団体交渉、労働時間と健康の保護、有給休暇の権利や労働災害に対する保護の改善、失業給付と疾病給付、拠出型老齢年金などの権利を享受することを意味しています。プラットフォームには、この分類に異議を唱えたり、「反論」したりする権利がありますが、雇用関係がないことを証明する責任はプラットフォームにあります。(欧州)委員会が提案する明確な基準は、プラットフォームに法的確実性が高まり、訴訟費用が削減され、事業計画の策定を容易にします。
・ アルゴリズムによる管理
この指令は、デジタル労働プラットフォームによるアルゴリズムの使用の透明性を高め、労働条件の尊重に関する人間の監視を保証し、自動化された決定に異議を唱える権利を与える。これらの新しい権利は、労働者と真の自営業者の両方に与えられる。
・ 施行、透明性、追跡可能性
各国当局は、プラットフォームとそれを介して働く人々に関するデータへのアクセスに苦労することがよくあります。これは、プラットフォームが複数の加盟国で運営されている場合にはさらに困難であり、プラットフォーム労働がどこで誰によって行われているのかが不明確になります。
委員会の提案は、各国当局への申告義務を明確にするとともに、プラットフォームに対し、その活動やプラットフォームを通じて働く人々に関する重要な情報を各国当局が利用できるようにすることで、プラットフォームの透明性を高めるでしょう。
委員会は、「より強い社会的欧州のために、より良い労働条件で:仕事の未来のためにデジタル化の恩恵を最大限に活用する」という意図(communication)の中で、各国当局、労使団体代表(social partners)、その他の関係当事者(actors)にに対して、プラットフォーム労働における労働条件を改善するための具体的な方策を提示するよう呼びかけています。その目的は、デジタル変革の利益を利用して、欧州の社会的市場経済を守ることです。EUはまた、模範を示し、質の高いプラットフォーム労働のための将来の世界基準に寄与したいと考えています。プラットフォームは国境を越えて運営されており、国境を越えた規制アプローチを保障します。
・ EU競争法の適用に関するガイドライン草案
委員会は、本日、単独自営業者(完全に自分で仕事をし、他人を雇用しない人)の労働協約へのEU競争法の適用に関するガイドライン草案公開協議を開始します。このガイドライン草案は、法的確実性をもたらし、特定の単独自営業者が、交渉力の著しい不均衡に直面するなど相対的に弱い立場にある場合に、報酬を含む労働条件を集団的に改善しようとする努力を、EU競争法が妨げないようにすることを目的としています。ガイドライン草案は、オンラインとオフラインの両方の状況を対象としています。
・ カレッジメンバーのコメント
デジタル時代に適した欧州(A Europe Fit for the Digital Age)を担当するマルグレーテ・ベスタガー(Margrethe Vestager)執行副会長は、次のように述べています。「デジタル労働プラットフォームによってますます多くの仕事が生み出されている中で、そのような仕事から収入を得ているすべての人に、適正な労働条件を保証する必要があります。我々が提案する指令は、プラットフォームで働く偽りの自営業者が、自らの雇用上の地位を正しく判断し、それに伴うすべての社会的権利を享受できるようにするものです。プラットフォームで働く真の自営業者は、その地位に関する法的確実性が強化されることで保護され、アルゴリズムによる管理の落とし穴に対する新たな保護措置が講じられることになります。これは、より社会的なデジタル経済に向けた重要な一歩です」と述べています。
ヴァルディス・ドンブロスキー(Valdis Dombrovskis)氏(人々のために働く経済担当執行副大統領)は、次のように述べています。「デジタル労働プラットフォームは、イノベーションをもたらし、雇用を提供し、消費者の需要を満たすのに役立つため、我々の経済において重要な役割を果たしています。このビジネスモデルの中心にいるのは人々であり、彼らには適正な労働条件と社会的保護を受ける権利があります。このような理由から、私たちは本日、新しい規則を提案します。これは、デジタル労働プラットフォームが成長するための確実性を高め、プラットフォーム経済で働く人々の権利を保護し、誰もがこの機会を最大限に活用できるようにするためのものです」。
雇用・社会的権利担当委員のニコラ・シュミットは次のように述べています。「私たちは、デジタルプラットフォームの雇用創出の可能性を最大限に活用しなければなりません。しかし、デジタル・プラットフォームで働く人々が安心して将来の計画を立てられるように、不安定さを助長しない質の高い労働であることを確認する必要もあります。欧州委員会の提案では、プラットフォームが使用者であるかどうかを判断するための明確な基準が設定されており、使用者である場合には、その労働者は一定の社会的保護と労働権を受けることができます。技術の進歩は、公正で包括的なものでなければなりません。そのため、本提案では、プラットフォームのアルゴリズムの透明性と監視についても取り上げています。」
・ 次のステップ
委員会が提案した「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令」は、今後、欧州議会と理事会で審議される。採択後、加盟国は2年以内に同指令を国内法に移します。
EU競争法の適用に関するガイドラインの草案は、利害関係者からのフィードバックを集めるために8週間の公開協議を行い、その後、欧州委員会によって採択されます。ガイドラインは、その後のEU競争規則の解釈と施行において欧州委員会を拘束します。
・ 背景
デジタルプラットフォーム経済は急速に成長しています。現在、EUでは2,800万人以上の人々がデジタル労働プラットフォームを通じて働いています。2025年には、その数は4,300万人に達すると予想されています。これらの人々の大部分は、純粋な自営業者です。しかし、550万人は自営業者として誤分類されていると推定されます。2016年から2020年の間に、プラットフォーム経済の収益は、推定30億ユーロから約140億ユーロへと、約5倍に成長しました。
デジタル労働プラットフォームは、企業、労働者、自営業者に機会をもたらし、消費者にとってはサービスへのアクセスを改善します。しかし、新しい働き方には新たな課題も伴います。人々の雇用上の地位を正しく分類することがますます難しくなり、場合によっては労働者の権利や社会的保護が不十分になることもあります。また、プラットフォームを使った仕事では、アルゴリズムの使用により、説明責任や透明性に疑問が生じます。
フォン・デア・ライエン会長は、政治的ガイドラインの中で、「デジタル変革は、労働市場に影響を与える速い変化をもたらす」と強調しました。彼女は、「プラットフォーム労働者の労働条件を改善する方法を検討する」という公約を掲げました。欧州委員会のワークプログラム2021では、社会的パートナーとの2段階の協議を経て、2021年末に向けて、プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する立法措置を発表した。この提案は、「欧州社会権の柱」行動計画の重要な取り組みの一つです。
TFEU第154条2項に基づき、欧州委員会は、欧州の社会的パートナーとの2段階の協議を行いました。第1段階の協議は2021年2月24日から4月7日まで行われました。第2段階の協議は6月15日に開始され、2021年9月15日に終了しました。さらに、欧州委員会は、この取り組みを伝えるために、プラットフォーム企業、プラットフォーム労働者の団体、労働組合、加盟国の代表、学界や国際機関の専門家、市民社会の代表との専用の会合など、多くの関係者との交流を行いました。協議プロセスの結果は、指令の提案に付随する影響評価の附属書に掲載されています。
・ より詳しい情報
 質問と回答:プラットフォーム労働における労働条件の改善
 ファクトシート:プラットフォーム労働における労働条件の改善
 プレスリリース EU競争法の適用に関するガイドライン案
 質疑応答集 EU競争法の適用に関するガイドライン案
 プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令の提案
 より強力な社会的ヨーロッパのためのより良い労働条件に関するコミュニケーション:仕事の未来のためにデジタル化の完全な利点を活用する
 立場の弱い単独自営業者へのEU競争法の適用に関するガイドライン案

EU指令案関連の記事・マスコミ報道(日本語)

日経新聞2021/12/09

EU指令案関連のマスコミ報道(外国語)

欧州労連_EUはプラットフォームのただ乗りを終了させる(2021.12.09)   Clickで仮訳

20211209_欧州労連_EUはプラットフォームのただ乗りを終了させる
09.12.2021
欧州委員会によるプラットフォーム労働の労働条件に関する指令の提案に対して、欧州労連(ETUC)書記のルドヴィック・ヴォエ(Ludovic Voet)は、次のように述べています。
「プラットフォーム企業は、あまりにも長い間、労働者、責任ある使用者、資金不足の公共サービスを犠牲にして、使用者としての最も基本的な義務を回避して莫大な利益を上げてきました。ウーバー(Uber)、デリバルー(Deliveroo)、アマゾン(Amazon)とその取り巻き企業のタダ乗り(free ride)は、ついに終わりを迎えようとしています。
「提案された指令は、単に、有給休暇や傷病手当(sick pay)など、この1世紀以上、他の労働者にとって標準であった諸権利を、労働者が利用できるようにするものです。賃金が保証された安定した契約は、労働者に偽の自営業(fake self-employment)よりもはるかに多くの自由を与えます。偽の自営業では、労働者は、仕事の合間に無給で待機するか、病気のときに働き続けるかの選択権をもちません。また、この指令は、真の自営業者が、プラットフォームへの従属から保護され得るように保証します。
「この指令は、労働者に待望の確実性を提供します。労働者は、雇用契約などの基本的なものを手に入れるために、多国籍企業を相手に裁判を起こす必要がなくなります。また、プラットフォーム(企業)との不公正な競争に直面していた、〔本来の法的〕責任を負っている企業に、公平な競争の場を提供するものです。
「労働組合運動は、過去2年間に、雇用関係の推定(presumption of employment relationship)と立証責任の転換(reversal of the burden of the proof)を強く要求してきたことを誇りに思います。欧州議会で支持された後、これらは指令の影響評価でも最も効果的であると判断された選択肢です。
「しかし、一部のプラットフォームはロビー活動に成功したようです。指令では、雇用の推定を活性化するために負担の大きい厄介な基準(burdensome criteria)が設定されており、その意味が失われてしまう可能性があります。実際には、基準は自営業者の従属を正当化する可能性があり、これは指令の目的を失わせることになります。今後の交渉でこの問題を解決しなければりません。
「プラットフォーム企業は、破綻したビジネスモデルを救うために必死になって、〔厳しい規制は〕雇用喪失につながるという神話を広めることをやめるべきです。本当に労働者のことを考えているのであれば、他の責任を負う使用者と同様に、労働組合と交渉のテーブルを囲み、団体交渉を行うべきです」と述べています。

ETUC(欧州労連)

「現在ブロック全体で活動している2800万人のギグワーカーのうち、約550万人が誤って「自営業」に分類されていると幹部は述べている。新しい指令は、170万から410万人のギグワーカーを普通の従業員に変え、残りは真に自営業であると認めることができる。最終的な数は、報酬、監督、労働時間、服装規則の問題を含む、使用者と見なされる5つの基準のうち少なくとも2つを満たすプラットフォームの数によって異なる。再分類された労働者は、保証付き休暇、育児休暇、最低賃金、老齢年金、安全保護、団体交渉などの一連の権利を即座に取得する。」

Europe Pushes New Rules Turning Gig Workers Into Employees(New York Times 2021.12.9)
(ヨーロッパはギグワーカーを従業員に変える新しいルールを推進)

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