以前にコロナ自宅待機期間、どのように過ごしたのかをレポートした。
コロナ自宅療養・待機体験記・2022年1月https://hatarakikata.net/16324/ である。
今回は、家族を含めた、濃厚接触者として自宅待機した期間、就業できなかった期間の賃金の取り扱いについてレポートしたい。
まず、Bは就労移行支援A型による就労で、社会福祉法人KRでサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のキッチン等でフルタイム勤務している。
Cは、NPO法人の放課後デイサービスHKで勤務しているが、非常勤職員である。
ふたりとも、福祉関係職員であることが、特徴である。
このことが、自宅待機期間の延長問題を引き起こした。
1月13日から23日の期間、自宅待機をした。保健所から連絡が滞っていたことは、先の記事に述べた。19日にPCR検査の検体を郵便で送付したが、検査数の増大とともに通知が遅れた。また、陽性結果の方から優先的に通知していたと思われ、陰性確認の結果通知は後回しにされていた可能性があった。
結果、自宅待機期間終了後の23日(日)に保健所担当者から電話で陰性の通知がなされた。
自宅待機期間は22日(土)までであったため、24日(月)からの就業について、BC両名の事業所とのやり取りがあった。
困ったのは、両事業所としては、京都市保健当局からの指導で、従業員のPCR検査陰性確認がなされてから、就業させるように指導が行われていた、ということである。
つまり、21日(金)の時点で、土日は役所が休みであることから、23日(日)までに検査結果が出なければ、24日(月)の就業差し止めは、「確定」したようなものである。
BCともに濃厚接触者であったが、無症状であった。なんの症状もない者であっても、福祉労働者は検査の結果が求められ、就業する権利を奪うことができるのか、そこから沸々と疑問と怒りが湧き上がってきた。
濃厚接触判明当初の事業所側見解と指示
濃厚接触が判明した日に事業所に連絡した。BC両名の事業所とも、「自宅待機期間は就業できません。休業補償がないので、有給休暇を取ってください。」とのことであった。Cは非常勤職員なので、無給である。
幸いなことに23日(日)に陰性確認が取れたため、24日(月)から勤務できることになったが、自宅待機期間内の有給休暇処理や無給であることについて、調べてみた。
まず、企業法務専門の弁護士(経営者側弁護士)らの見解を調べたところ、「濃厚接触者で陰性の者の休業補償は必要」という見解が示されていた。また、厚生労働省のホームページに以下のようなものがあり、「労働基準法においては、平均賃金の100分の60までを支払うことが義務付けられていますが、労働者がより安心して休むことができるよう、就業規則等により各企業において、100分の60を超えて(例えば100分の100)を支払うことを定めていただくことが望ましいものです。なお、休業手当を支払った場合、支給要件に合致すれば、雇用調整助成金の支給対象になります。」と記載されていた。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1
また、平成20年3月1日から施行された労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)では,「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。」と規定されている。
つまり、今回の自宅待機は、感染症法上の就業制限には当たらず、労働契約法第5条の安全配慮義務にあたり、使用者都合の就業禁止と考えられた。
○無症状かつ陰性の労働者
そこで、無症状であり、陰性であった者の濃厚接触者としての待機期間は、保健所の指導があったとしても、就業禁止を行うのは使用者であり、労働契約法第5条の安全配慮義務を使用者が果たしたものである。したがって、使用者都合の就業禁止に当たることから、休業手当もしくは賃金補償の検討を強く要請した。
Cの事業所では、零細NPO法人であるので、翌日には「賃金補償する」との回答があり、勤務すべき時間数に対する賃金の支払いが約束された。
Bの事業所は、大きい法人であるので、精査し回答する、との返事があった。
2月4日(金)に回答があり、全額休業手当を支給し、有給休暇処理を変更する、とのことであった。
○今回の就業禁止命令の要点
① 前提として、家族は濃厚接触者として扱われる
② 濃厚接触者は、全てPCR検査の対象になる
③ 福祉労働者は、地方自治体の指導により陰性確認を求められる
④ 福祉事業所は、地方自治体の保健福祉部の指導により運営される
⑤ 福祉事業所は、行政の指導を法律上の指導と考えている
⑥ 厚生労働省は、休業に関して補償することが望ましいと見解を示している
⑦ 福祉事業所は、行政からの指導により、使用者都合の休業命令とは考えていない
⑧ したがって、福祉事業所は労働者に就業禁止を命令するが、有給休暇処理を命ずる
○今回の就業禁止命令の問題点
① 就業禁止決定は、あくまでも事業所の判断であることは、厚生労働省が見解を示しているが、福祉事業所は行政からの要請答えているだけ、としか考えていない
② 労働契約法第5条の安全配慮義務による、感染予防に関する使用者責任の自覚が事業所にない
③ 労働者が法律を知らないため、休業補償を求めない
④ 障害者(特に知的障害者)は、労働組合の存在や、労働者としての権利補償に関する知識や理解がないために、要求できることすら理解していない
⑤ 障害者や障害者の親は、雇用があることに感謝しているために、労働者としての要求をすることすら考えていない
⑥ 障害者雇用に関する労働相談や、障害者雇用の労働条件に関する支援組織がないために、障害者自身または親が相談することができない
⑦ したがって、法律で保護されるはずの労働者としての権利すら、障害者及び親に理解されず、使用者も理解していないという事態がある
⑧ 付言するが、障害者雇用に取り組む事業者は、社会正義に基づき障害者の雇用を促進する事業者が多い。特に就労移行支援A型に踏み切る事業所は、障害者の自立や働くことの意義を理解し、現実に障害者を労働者として認める、支援を行う人たちであることが多い。それらのひとも労働法や厚生労働省の見解を知らないことが多いため、使用者としての責務を理解していないことから、障害者の労働者としての権利行使を支援することができずに、「ブラック経営者」と同じような手法に陥る。
このような問題点を解消することで、障害者の雇用を安定させ、支援する社会資源として働く障害者を安定的に支援する事業所が増えるのではないか、と考える。