働き方ASU-NETでは、2023年11月14日に「第31回つどい」として、「フーデリワーカーの現状と課題~ウーバーイーツユニオンの闘いの最前線から~」をテーマに、シンポジウムを行うことになりました。そして、このシンポジウムを受けて、11月17日に、Zoomを通じての労働相談を実施する予定です。全国から多くの皆さんのご参加をお願いしています。
この企画では、日本のウーバーイーツ弁護団の川上資人弁護士や、ウーバーイーツに詳しい伊藤大一さんが話をされます。日本では、十分な法的規制がないために多くの問題がありますが、世界では、既に関連する法規制が進んでいます。そうした法規制を生み出す背景には、プラットフォームを通じて働く労働者、とくに、二輪車で食品(料理)を宅配する「フードデリバリー(food delivery)労働者」の権利保障をめぐる運動があります。そこで、関連した運動と法規制の動向を調べることにしました。
この連続エッセイでは、既に、イタリア・ミラノの事例やボローニャ市の事例を紹介しましたが、最近、注目すべき「条例」を制定し、フードデリバリー労働者の多くの権利を保障するアメリカ・ニューヨーク市の事例を調べました。今後、それに続いてスペインやEUの新たな動きも紹介する予定です。(2023年11月5日 SWakita)
Worker’s Justice Project
コロナ・ウィルス(covid-19)の世界的感染(パンデミック)の時期に感染リスクがあるにもかかわらず、主に二輪車(自転車、バイクなど)を使ってプラットフォーム(アプリ)を通じて各個人・家庭に食品(料理)を届ける労働者が、外出制限された大都市ニューヨークを駆け回る姿が見られました。しかし、そのほとんどが「自営業者」とされるために、労働法・社会保障法などの適用を受けることができません。また、労働条件も、低賃金、不安定であるだけでなく、各個人がスマフォのアプリを通じて仕事の指示を受けて働き、顔が見えない「アルゴリズム」によって管理される働き方です。
ニューヨーク市で、フードデリバリー労働者の権利実現に大きな役割を果たしたのが「Worker’s Justice Project」(略称「WJP])という団体でした。このWJPは、2010年に設立されました。当時、ニューヨークには、中南米、アジア、アフリカから多くの移民労働者が集まっていました。不安定な仕事で低賃金の移民たちは、高い失業率をともなう経済危機に直面していて移民たちが住む地域は「食の砂漠」と呼ばれる一方、ケアや福祉に関する情報はほとんどなく、労働者としての権利もほとんど理解されていませんでした。この問題に対処するために、WJPは、意識の高い若者によって、ブルックリン地区の移民が多く住む地域で、トレーラーで運営される「学習センター」として設立されました。
2020年、コロナ・ウィルスによるパンデミックが発生すると、ニューヨークの移民が集中する貧困地域は大きな打撃を受けました、WJPは、移民たちに食料やフェイスマスクを配り、家賃が支払えない労働者に現金を支給する救済活動も展開したということです。当初、WJPは会費制の小さな組織でしたが、ニューヨーク市議会やいくつかの地域財団から資金提供を受ける組織に規模を拡大していきました。2023年現在、WJPは1万5千人の会員を抱え、ブルックリン地区に2つのセンターを設置して、日雇い労働者や家事労働者の雇用を紹介するなど、従来からの労働者教育活動を含めて事業を拡大しています。(Nadhia Rahman, Los Deliveristas Unidos and the Ideals of Worker Justice)
WJPによる配達労働者の組織化
WJPは、パンデミックが始まったばかりの2020年3月に配達労働者の組織化を始め、他の組合とも連携を深めました。とくに、SEIU(国際サービス従業員組合)の32BJ支部や運輸労組と提携しています。とくに、32BJ SEIUは、2015年にニューヨークのファストフード労働者の最低賃金15ドル達成で大きな役割を果たした強力な労働組合です。WJPは、ニューヨークで事業を展開するGrubHub, DoorDash, Uber Eatsその他のプラットフォーム企業(現地では、「アプリ(app)」と呼ばれています)で働く労働者を組織し、新たに「Los Deliveristas Unidos(LDU)」という集団を結成しました。これは、「配達員労働組合」を意味するスペイン語ですが、配達員の大多数をスペイン語話者が占めていることを反映しています。このLDUは、組合員だけを代表するのではなく、ニューヨーク市で働く6万5千人以上のアプリ配達労働者を対象として活動しています。(Los Deliveristas Unidos Fights for Equality Among Delivery Workers)
ニューヨーク市のフードデリバリー労働者の実態
上の動画は、ニューヨークのブルックリン地区に拠点を置くBricTVが2021年6月にYoutubeにアップしたものです(設定でスペイン語と英語の字幕(自動作成)で内容が分かります)。以下、約15分の動画で注目される部分を要約してみました。
- 従来5000人規模の配達労働者ですが、パンデミック時に8000人規模に急増しました。レストランが休業して宅配需要が増えたこと、また、レストランで働いていた人が休業のためにやむなく二輪車で配達することになる場合もありました。2019~2020年に電動自転車の盗難が166件から328件に増加した話、2020年に9人の配達員が強盗や交通事故で死亡した話などが放映されました。
- 次に、グァテマラ出身のミゲルさんの話です。彼は、週6日、Uber、GrubHub、DoorDash、Relayなどのアプリに接続し、事前にシフトを予約して仕事をしています。日によって300~400ドルを稼ぐときがあれば、逆に80~100ドルにしかならない日もあるとのことです。
- 配達員には雇用主がいません。報酬をトラブルが多く、銀行口座への支払いがないこともあり、請求しても返事がないこともあります。企業は、莫大な利益を得ていますが、配達員は最低賃金さえ得ていません。労働時間や賃金をめぐって話が違うと、会社を訴えた事例もあります。自転車には多くのお金がかかるのに、すべてが自前です。ライト、ヘルメットなど、かなりの出費になりますが、会社は負担してくれません。配達員は寒空の中、また、積もった雪の中を配達しますが、感染を恐れるレストランは、配達員がトイレを利用することを拒否します。
- ワーカーズ・ジャスティス・プロジェクト(WJP)は、配達員を組織するLos Deliveristas Unidosの拡大に取り組み、メキシコ、グァテマラなどから来た労働者たちを組織する一方、一般市民にも食料を支給しています。そして、2020年秋には、800~900人のデモを組織化するまでになりました。これに対して、2020年12月、大手PF企業の一つであるDoorDashが、「労働者がレストランのトイレを利用できるようにし、新たな安全対策を講じ、来年には自転車用具を無料または割引で提供する」と発表しました。
- また、配達員たちは、企業に対して労働システムの改善を要求しています。今こそ団結する時です。顧客もそれを理解しています。そして、2021年4月21日、「今日は配達しない! 今日は配達しない 2000人以上の労働者がタイムズスクエアからフォーリースクエアまで行進し、より安全で尊厳のある労働条件を求めました」。さらに、2021年5月初旬には、配達員が殺害された事件などをきっかけに、PF企業だけでなく、市議会に対して改善の働きかけを強めています。
Cornel大学+WJP共同の配達員調査
Cornel+WJP調査 ニューヨーク市で働くフードデリバリー労働者は、6~8万人の規模とされるが、労働者がCOVID-19パンデミックの間、低賃金、安全設備の欠如、健康被害への暴露、暴力など多くの困難やリスクに直面してきた。Los Deliveristas / Worker’s Justice Projectは、労働者センター「Worker’s Justice Project(略称「WJP」とコーネル大学ILRスクールの研究所(Worker Institute)とが共同して実態調査を行い、その報告書を発表した(左図)。
この報告書は、デジタルプラットフォーム(「アプリ」とも呼ばれる)を利用して、ニューヨーク市の消費者にレストランの注文料理を配達するデリバリー労働者500人を対象としてフォーカス・グループ、個人インタビューなど、一次調査と二次調査の両方を実施した。それによると、これらの配達労働者は多くのレストランや消費者の生存にとって不可欠な存在であったが、Grubhub、DoorDash、Uber Eatsといった彼らを雇うオンラインプラットフォームによって搾取され、保護されてこなかった。
報酬の低さ 調査参加者の配達員らが最も懸念していたのは、アプリベースの仕事で受け取る報酬の低さであった。配達員の収入から経費を差し引いた推定額は、チップを含めて月2,345ドルである。ほとんどの配達員が週6日以上、どの曜日も6時間以上働いていることを考えると、チップを含めた時給は約12.21ドルである。配達員らの収入の平均44%を占め、非常に不安定な収入形態であるチップを除くと、アプリベースの配達労働者の平均手取りは7.87ドル、中央値は7.94ドルであった。
賃金不払い増加 調査結果はまた、基本給の未払いやチップの不払いなど、すでに不安定だった配達員の労働条件が、パンデミックの間、悪化の一途をたどっていたことも明らかにした。WJP-コーネルの調査に参加した労働者の約42%が、チップの未払いや未払い、支払いの遅延、1週間分の収入の未払いなどを経験したと報告している。
アルゴリズム管理の不透明さ アプリのアルゴリズムによる管理は、報酬だけでなく、その業績評価システムが、主に労働者の注文の受け入れと消費者の評価に依存しているために、配達員が注文を拒否しすぎたり、消費者から低評価を受けたりすると、アプリでのランクが下がり、アプリと接続できる時間帯が減ったり、不利になったり、さらにはアカウントが停止されたりする。
事業場の安全衛生 配達員にとって事業場は、街路、食品を受け取るレストラン、顧客の玄関、ビルのロビーやエレベーターである。しかし、職場における保護措置や衛生的条件が整っていない。最も基本的なニーズとして、レストランや公共スペースでのトイレ利用については、調査対象の83%がレストランでのトイレ利用を拒否されたことがあり、公衆トイレは、30%が「利用したことがない」、53%が「たまにしか利用できない」と答えた。配達員が直面する最も深刻な危険は、電動自転車や原付バイクを使用中に、暴力的な暴行の被害に遭うことである。54%が自転車の盗難を経験し、そのうち約30%が強盗から暴行を受けたと回答した。配達員は有色人種や移民が多く、差別や虐待の経験や司法へのアクセスで独自の困難がある。
規制のない業界 配達労働者は独立請負契約者に分類され、雇用労働者が享受する基本的な労働・雇用保護がすべて欠如している。ニューヨークで独立請負契約者に対する保護は、最も差し迫った問題に対処していない。時給の最低保証や事業場の安全基準といった基本的な保護がない。
なお、肥田美佐子「『最低賃金も稼げない』米国ギグワークの衝撃実態」(東洋経済ONLINE 2021年11月30日)は、ニューヨーク在住のジャーナリストである筆者が、インスタカート買い物代行人(ショッパー)として働く若者の実態を紹介し、料理宅配人についても、LDUの組織化などについても言及しています。
フードデリバリー労働者の権利・保護法案、可決(2021年9月)
ニューヨーク市議会は、以上の動画や報告書で指摘された、Grubhub、DoorDash、Uber Eatsなどのオンライン第三者食品(料理)配達サービスや第三者宅配サービスで働く配達労働者の権利を保護するための一連の法的措置を導入することになりました。この地方法の内容については、日本でも、①JIL(日本労働・研修研究機構)のサイトで「フードデリバリー従事者の『最低報酬』を制定-ニューヨーク市」、②中川かおり「【アメリカ】料理宅配ギグワーカーの保護に関するニューヨーク市条例」『外国の立法』No.290-1(2022年1月)20頁以下で詳しく紹介されています。
以下、これら2文献と、American Legal Publishingの法律規定集を基に、規制内容を整理してみました。
2021年9月23日にニューヨーク市議会で、フードデリバリー労働者を保護する8つの法案〔提案番号2020年1846番(成立法律番号2021年110番)=Int.1846-2020 (Law Number 2021/110)ほか、7法案〕が可決され、これらは、ニューヨーク市行政法典(The New York City Administrative Code)の規定として同年10月24日に成立しました。
ニューヨーク市行政法典(The New York City Administrative Code)は、第33編(title)からなる膨大な法規集ですが、その第20編「消費者・労働者保護」(Title 20: Consumer and Worker Protection)に第15章「第三者サービス労働者(Chapter 15: Third-Party Service Workers)」が含まれています。この第15章では、労働者に保障される権利などに関する一連の規定として、第1章 総則(第20-1501条 定義、第20-1502条 援助活動と教育、第20-1503条 報告、第20-1504条 報復、第20-1505条 権利の通知、第20-1506条 記録、第20-1507条 強制執行、第20-1508条 労働者に対する救済、第20-1509条 民事罰、第20-1510条 企業顧問による執行、第20-1511条 私的訴因、第20-1512条 違反のパターンまたは慣行に対する法人弁護士による民事訴訟)と、第2副章 食品配達労働者(第20-1521条 配達距離およびルート、第20-1522 最低支払額、第20-1523条 労働者への支払い、第20-1524条 食品配達用保温バッグ、第20-1525条 火災安全材料)が定められています。
この規制では、配達労働者たちが要求していた多くの項目が受け入れられました。主なものとしては以下の権利があり、
- 6回配達すると、保冷バッグが無料で支給される。
- 配達距離やルートの制限を設定し、ペナルティなしで配達を拒否したりキャンセルしたりできる。
- 配達を引き受ける前に、集荷先の住所、配達にかかる時間と距離の概算、チップ、給与を事前に通知する。
- 注文を受け取る際、レストランのトイレを利用しやすくする。
- 給与とチップに関する詳細な情報と、手数料なしで最低週1回の支払い。
- 配達時間の最低賃金は時給17.96ドル(チップは含まれない)であり、毎年4月1日に引き上げられる。
- 権利行使に対する報復からの保護。
他方、第36章 「第三者食品(料理)配達サービス(Third-Party Food Delivery Services)」では、PF企業に対する義務などを定める一連の規定として、第20-563条 定義、第20-563.1条 免許、第20-563.2条 免許の発行および第三者食品(料理)配達サービスの行為に対する一定の制限、第20-563.3条 手数料の上限、第20-563.4条 電話注文、第20-563.5条 電話番号リスト、第20-563.6条 無許可の記載、第20-563.7条 顧客データ、第20-563.8条 記録、第20-563.9条 免許の拒否、更新、停止、および取消、第20-563.10条 強制執行、民事罰、および返還、第20-563.12条 私的訴因、第20-563.13条 施行が定められています。
この新たな法規制の「第20-1505条 権利の通知」では、「(消費者・労働者保護)局長(commissioner)は、第三者食品(料理)宅配サービスまたは第三者宅配サービスが、配達労働者に対し、本章の下で保護される権利を知らせる通知を発行し、利用可能(available)にする。当該通知は、市のウェブサイト上でダウンロード可能な形式で利用可能にし、本章の要件に変更が加えられた場合、またはその他局長(commissioner)が適切と判断した場合、更新されるものとする」との規定があり、これに従って、次のような権利の通知が、英語、スペイン語など多くの言語で出されました。ただ、日本語の通知はなかったので、以下、2022年4月に出された通知を翻訳してみました。
最低支払額に関する第20-1522条
今回の法改正で最も注目されたのが、「第20-1522条 最低支払額(Minimum payment)」の規定でした。最低報酬を決定する前提として、消費者・労働者保護局(DCWP)は、「食事配達労働者の労働条件を調査しなければならない」としています。そして、調査を行うにあたり、DCWPは、協力できる他の機関、組織、または事務所と調整することができると規定し、さらに、調査には、最低限、食事配達労働者が受け取る報酬およびその決定方法、労働者が得る総収入、労働者の経費、業務遂行に必要な設備、労働時間、1回の配達移動の平均走行距離、労働者が使用する移動手段、労働者の安全状況およびその他の適切なテーマについての考察が含まれるとしています(同条a.1.項)。
さらに、調査を進めるため、DCWPは、PF企業から労働者に関するデータ、文書その他の情報の提出を要求し、または提出命令(subpoenas)を発することができると規定しています。この情報には、労働者の識別子、労働者が対応可能な時間帯、労働者が利用する移動手段、配達の提供または割り当て方法、労働者の配達に関するデータ、労働者が受ける報酬と謝礼、完了した配達およびキャンセルされた配達両方に関する情報、労働者との合意方針、労働者の連絡先情報、事業所および消費者が支払う料金設定その他DWPが関連するとみなす情報が含まれます。PF企業は、適用法および規則に従い、情報を原文のまま、または読み取り可能な電子形式で提出しなければなりません。
さらに、DCWPは、この調査結果に基づき、遅くとも2023年1月1日までに最低支払額を決定する方法を規則により定めるとしています(同条a3項)。このDCWPが決定する最低支払額には謝礼(チップ)は含まれません(同条b項)。そして、DCWPは、2024年2月1日以降、毎年2月1日までに、最低支払額の更新が必要であると判断した場合、その更新を公表するとしています。この更新は、公表後の翌年4月1日に発効します(同条c項)。さらに、2024年9月30日およびその後2年以内に、最低支払基準とその影響に関する報告書を、市議会および市長に提出するとしています(同条d項)。
フードデリバリー労働者への最低支払額大幅引上げ決定
DCWPは、最低支払額の決定について、関連した調査を実施し、一般に公開されているデータなどを基にその調査結果を発表する一方、2022年11月16日に決定方法について第一次案と「NY市におけるアプリ利用のレストラン配達労働者のための最低支払率(Minimum Pay Rate)」という報告書を公表しました。2022年12月16日に公聴会が開催され、配達労働者、食事配達サービス企業3社(Uber Eats、Grubhub、DoorDash)と宅配サービス1社(Relay)、労働者擁護団体、輸送安全擁護団体、レストラン、研究者、選挙された公務員、消費者、一般市民などから何千ものコメントが出されました。
DCWPは、パブリックコメント期間中に提出されたすべてのコメントを綿密に検討し、労働者の所得を大幅に向上させるとともに、業界と労働者のフィードバックに応える最終レートを設定するために、独立請負契約者である配達労働者が経費を自己負担し、労災保険や有給休暇を利用できず、メディケアや社会保障費を多く支払わなければならないことも考慮することにしました。そして、DCWPは、多くの意見を慎重に検討した結果、2023年3月7日、第2次規則案を発表しました。
この第2次規則の最終結果に掲載されていた最低支払額の計算方法と、実施年次計画です。2025年4月1日に、フードデリバリー配達員への最低支払額を19.96ドルに引き上げるという画期的な内容です。
この規則改正については、その経過を含めて詳細な研究の対象になると思いますが、その時間的余裕がないので、結論を要約的に示す表1と表2を以下に示します。
これらの項目と数字は、詳細な調査に基づいたものであり、公聴会やパブリックコメントを経て決定されたものです。多くの参加者の意見を反映する民主的で開かれた過程に改めて感心させられます。この表に出てくる「マルチアッピング」は、DoordashやUbereatsなど複数のアプリ(PF企業)に登録していることを意味しているのだと思いますが、これを最低支払時給計算でマイナスにする意味や根拠についてはよく分からないので引き続き調べたいと思います。
市当局者の説明によれば、新たな規則によって、次のような変化が生まれることになります。
- 2023年7月12日に施行される賃金率は17.96ドルで、2025年4月1日に段階的に完全導入される際には19.96ドルに引き上げられます。
- 最低支払率はインフレ率に応じて毎年調整されます。
- PF企業は、労働者が平均して19.96ドルの最低賃金を稼ぐ限り、配達員に対して1回の配達ごとに支払うか、1時間働くごとに支払うか、または独自の計算式を開発するかは、選択することができます。
- 労働者がアプリに接続しているすべての時間(配達の提供申し出(trip offer)を待っている時間と配達(trip)時間)に対して賃金を支払うPF企業は、2023年には少なくとも時給17.96ドル(チップを含まず、1分あたり約0.30ドル)を支払わなければなりません。
- 〔配達(trip)時間(配達オファーを受けてから配達物を置くまでの時間)に対してのみ支払いを行うアプリは、2023年に少なくとも配達(trip)時間1分あたり約0.50ドルを支払わなければなりません(チップは含まれない)。〕
- DCWPの調査によると、労働者は労働時間の約60%を配達の移動に、40%をオンコール(待機)に費やしています。例えば、ある日、ある労働者は4時間配達(trip)のオファーを待ち、6時間配達をするために待機しているかもしれない。この労働者のアプリが配達の移動(trip)時間に対してのみ支払われる場合、この労働者は、2023年に最低支払率が施行されたときの配達(trip)時間料率に基づいて17.96ドルを稼ぐことになります。代わりに、その労働者のアプリが移動時間とオンコール時間の両方に支払われる場合、その労働者の収入は17.96ドルとなります(これらの分単位のレートは概算)。PF企業は、規則に従って正確な報酬を計算しなければなりません。
新たなフードデリバリー労働者への通知文(2023年7月)
2023年6月11日 ニューヨーク – ニューヨーク市のエリック・アダムス市長とニューヨーク市消費者・労働者保護局(DCWP)のビルダ・ベラ・マユガ局長は、ニューヨーク市がアプリを利用したレストランのデリバリー労働者に対し、業界で初めて最低賃金を設定したことを発表しました。完全に実施されれば、現在平均時給7.09ドルのニューヨーク市の6万人以上のデリバリー労働者は、最低でも時給19.96ドルを得ることになります。これは約3倍近くの大幅な引き上げになります。
以下の通知文(日本語訳)は、この改正を反映して消費者・労働者保護局(DCWP)が2023年7月に発表したものです。この通知文には、訴訟のために施行日が確定しないと赤い文字で記載されています。この訴訟とは、Uber Eats、Grubhub、DoorDash、Relayの4社が、以上の規則改正に反対して裁判所に差し止め命令を請求する訴訟を提起したことを背景にしています。
PF企業の差止め請求に対するNY州最高裁判決
この最低支払率を大幅に引き上げる規則改正に対して、2023年7月、ニューヨーク市で事業を展開する大手配達企業4社(Uber Eats、Grubhub、DoorDash、Relay)が、この規則改正の施行を止めるために、ニューヨーク市を相手に一時的差し止め命令(temporary restraining orders))を出すように裁判所に訴えを提起しました。このニュースは、日本でもUberやDoordashなど料理宅配事業が、2023年7月6日、「時給17ドル96セント(約2600円)の支払いを義務付ける市の法律はサービスの縮小につながると主張した」「ウーバーなどは、個人が単発で仕事を請け負う『ギグワーカー』の仕組みや、料理宅配事業の特性を当局は理解していないと反発している」「訴状で、当局が定める時給を適用すれば消費者が負担する配達コストは1回あたり6ドル近く上昇し、注文は18%近く減る虞がある」(日経新聞2023年7月7日)などと報道されました。
この訴えに対して、Nicholas Moyne判事は、審理の間、規則の変更を一時停止しましたが、2023年9月28日、Uber Eats、Grubhub、DoorDashの大手3社の訴えを退け、ニューヨーク市が進める最低支払額の引き上げを認めました。ただ、小規模のプラットフォームであるRelay社の訴えは認めました。これは、Relay社のビジネスモデルが他の3社とは異なるので、一時的差し止めを認めています。この判決を報じるニューヨークタイムズ(2023年9月28日)によれば、判事は、ニューヨーク市のフードデリバリー労働者の最低賃金引き上げの可能性があるとし、ギグ経済は進化しているとしました。その例として、2019年のInstacar社が変わったように、企業が収益を上げる秘訣の一つは広告会社(advertising company)になることなどが示されました。ただ、判事は、DCWPが、Relayが、注文を受けたレストランと直接契約し、そこに配達員を派遣するというビジネスモデルを採用しており、他の3社との違いがあるのに、ニューヨーク市がこれを十分に考慮していないとしています。
この判決を、ニューヨーク市は歓迎し、アダムス( Eric Adams)市長は、「私たちに有利な判決を下してくれた裁判所と、賃金と労働条件の改善を求めて声を上げてくれた配達員に感謝している」と述べました。これに対して、敗訴したDoorDashとUberはこの決定を批判し、市は最低賃金の算出に欠陥のある根拠を用いた」「この法律は何千人もを失業させ、業者は互いに競争せざるを得なくなる」(UBER)などと述べています。このニューヨークでの判決は、2023年初めに、ミネソタ州でUberとLyft社の運転手の最低賃金を定める法案阻止で成功していたギグ会社にとっては意外な敗北になったということです。アメリカ全体では、既にカリフォルニア州では、2020年のプロポジション22法案で、ギグ労働者を従業員として認めない(労働者性を否定する)代わりに、最低賃金とその他の福利厚生が限定的に認められています。また、シアトル市では2020年からギグ配達員の最低賃金法が施行され、ワシントン州議会でも同様の法案が可決されたということです。
最後に、アメリカでは、カリフォルニア、ニューヨーク、シアトルなど、民主党や労働組合が強い地域では、注目すべき州法、市条例などが生まれています。プラットフォーム企業(ギグ会社)側の莫大な資金を背景にした抵抗も尋常ではありませんが、ニューヨークのWJPやLos Deliberistas Unidosなどの新たな運動の広がりは、アメリカの他の地域、さらには世界各国の労働者の運動や法規制にも大きな影響を及ぼす動きだと思います。日本では、こうした動きはメディアでもほとんど報道されません。しかし、このブログでは、引き続き、韓国、EUなどのフードデリバリー労働者の権利実現の取り組みに注目し、紹介していきたいと思います。