労働News 国連自由権規約委、2023年11月3日、韓国に労働人権侵害を止めるよう警告

韓国では、尹錫悦政府による労組弾圧が大きな問題になっていますが、2023年11月3日、国連自由権委員会が、2022年から韓国国内で進められている労働弾圧について審査した結果、結社の自由侵害を改めるように韓国政府に厳しい勧告を行いました。民弁(民主社会のための弁護士の集い)が緊急の声明を発表し、民主労総が詳細な資料をWebにアップしています。
韓国の状況は日本とも類似しており、公務員、非正規労働者、自営業形式労働者などの団結権・団体行動権を認めるようにというい国連の勧告は日本にとっても大きな意味があると思います。取り急ぎ、民弁の声明を試訳してみました。引き続いて関連情報をアップしたいと思います。2023年11月7日 SWakita
 2023.11.7 韓国の国家人権委員会委員長も、国連の最終見解について声明を発表しました。これを試訳しましたので、これを追加します。2023年11月8日 SWakita

国家人権委員会委員長、2023.11.7 声明

国連自由権委員会第5回最終見解に関する国家人権委員長の声明

担当部署 : 国際人権課 登録日 : 2023-11-07

国連自由権委員会、大韓民国に対し、包括的な差別禁止法の制定、集会の自由の完全な保障、
すべての労働者の結社の自由を保障するよう勧告

□ 国家人権委員会委員長(ソン・ドゥファン)は、国連市民的及び政治的権利委員会(以下「自由権委員会」)が2023年11月3日に発表した大韓民国の自由権規約履行第5回国別報告書に関する最終見解(concluding observations)を国内に知らせ、最終見解に盛り込まれた勧告事項の忠実な履行を政府に促すため、声明を発表します。

□ 市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「自由権規約」)は、国際権利章典と呼ばれる中核的な国際人権条約の一つであり、自由権委員会は、自由権規約を批准した国の規約義務遵守状況を定期的に検討し、改善が必要な事項について勧告します。

□韓国は1990年に自由権規約を批准した後、規約に基づき、計5回にわたり自由権規約の履行状況に関する国別報告書を自由権委員会に提出しました。自由権委員会が発表した今回の第5回最終見解は、政府が提出した第5回国別報告書に対する自由権委員会の審議(2023年10月19日~10月20日)の結果であり、韓国の自由権保障状況に対する国際社会の評価と言えます。

□自由権委員会は今回の最終見解で、韓国の良心的兵役拒否代替兵役制度の導入と強制失踪防止条約、障害者権利条約選択議定書及び国際労働機関条約第29号、第87号、第98号の批准などを肯定的な変化として評価しました。

○一方、自由権委員会は29の争点、合計58項目に及ぶ内容の懸念及び勧告を韓国に提示しました。

○具体的には、①企業の人権デューデリジェンスを法制化すること、②包括的な差別禁止法を制定すること、③性的マイノリティに対する差別を禁止する法律と政策を設け、性的マイノリティの法的性別訂正要件を緩和すること、④死刑制度を廃止すること、⑤軍隊内の人権保護システムを強化すること、⑥良心的兵役拒否の代替服務期間を短縮し、服務領域を多様化すること、拘留施設内の過密収容を解消し、医療アクセス性を強化すること、⑦拘留施設内の過密収容を解消し、医療アクセス性を強化すること、⑧外国人保護制度等に基づく移民に対する移住拘留の期間を最小化し、児童に対する移住拘留を禁止すること、⑨外国人児童の出生登録が実質的に行われるように関連法律及び制度的装置を設けることなどを勧告しました。
○その他、△2022年10月に発生した梨泰院惨事に対する真相究明調査と被害者支援、△政府の女性家族部の廃止計画に関連し、人権影響評価の実施などが必要との見解を示しました。
○とくに、自由権委員会は、△包括的差別禁止法の制定及び嫌悪表現に対する対応、△集会及びデモに対する権利の完全な享受の保障、△すべての労働者の団結権及び団体交渉権など結社の自由の保障を強調し、韓国政府が2026年11月3日までに当該勧告の履行経過を自由権委員会に報告するよう要請しました。

□このような自由権委員会第5回最終見解は、国家人権委員会がこれまで政府などに勧告し、意見表明した内容のうち、未解決の課題の内容を相当数含んでいます。

□これにより、政府は自由権委員会の勧告を積極的に履行することで、大韓民国の自由権状況に対する国際社会の懸念を解消することを願っています。国家人権委員会は、政府及び市民社会と協力し、自由権規約の国内履行を促進するために持続的に努力していきます。

2023.11.7
国家人権委員会委員長 ソン・ドゥファン

民弁、2023.11.6 声明

[論評]

 国連、韓国政府に「働くすべての人と労働組合に対する人権侵害状況」厳重に警告 – 政府は労組法2条、3条改正の必要性と正当性を確認した国連の勧告を受け入れるべきである
 -国連自由権規約委員会の第5次大韓民国政府に対する最終見解発表について-

 国連自由権規約委員会(UN Human Rights Committee)(以下「委員会」という。)は2023年11月3日、2015年以降約8年ぶりの大韓民国に対する第5次市民的政治的権利に関する国際規約(略称「自由権規約」)審査に対する最終見解を発表し、2022年から国内で進行中の労働弾圧実態に対して深刻な憂慮を示し、結社の自由侵害状況に対する早急な解決を促した。最終見解の主な内容は以下の通りである。

 第一に、すべての公務員、教師、特殊雇用労働者、自営労働者、プラットフォーム労働者を含め、各種非定型契約形態で働いているすべての労働者も労働組合を自由に結成し、団体交渉権およびストライキ権 を完全に行使できるよう労働組合法改正など状況解決に乗り出すことを促した。これは国内企業が漫然と濫用している元請け、派遣、期間制、請負など間接雇用労働者の労働権侵害状況を確認したもので、現政権の労働政策だけでなく立法と司法を通じても労働権保障がなされていない状況を指摘するものである。

 第二に、全国建設労働組合に対する事務室押収捜索、公正取引委員会の課徴金付与、労働組合員に対する検察および警察の召還調査、労働組合活動を理由とする裁判所の拘束と刑事処罰など司法的弾圧と社会的烙印を押すことを含め、自由権規約に違反する政府の全方位的労組弾圧実態に対する深刻な憂慮を示した。特に今回の最終見解は全国建設労組に関する個別事案を異例的に比重を置いて扱い、国際社会で決して容認できない状況を扱い強力に批判したものである。

 第三に、公務員と教師の政治的活動を禁止する国家公務員法、地方公務員法、公職選挙法などの改正を促し、大韓民国の公務員と教師が市民として結社の自由と公的生活に参加する権利を侵害されていることを指摘した。

 第四に、結社の自由に関する自由権規約第22条の留保撤回を要求した。大韓民国政府はすでに自由権規約第22条より具体的かつ厚く結社の自由を保障している国際労働機関(ILO)の基本条約である「第87号結社の自由及び団結権保護条約」と「第98号団結権及び団体交渉権条約」も批准しており、さらに国連自由権規約は世界各国の普遍的に承認された国際人権章典として国際慣習法的地位を獲得したという点で、留保の意思にもかかわらず、これ以上この条項による国際法的義務を回避することは難しい。したがって、委員会が1999年の第2次最終見解から繰り返し第22条の留保撤回を強く勧告してきたように、すでにその意味をかなり失った従来の留保意思を撤回し、人権規範を完全に履行する意思を明らかにすることが妥当である。

 以上のような大韓民国政府に対する委員会の今回の最終見解は、尹錫悦政府の労働弾圧が国際人権基準に反する深刻な水準であることを確認したものだ。特に委員会は2021年労働組合法改正にもかかわらず依然として解決されていない特殊雇用労働者、下請労働者、自営労働者、プラットフォーム労働者など非定型労働者と共に公務員、教師の労働権確保が必要であることを指摘した。これは現在、国会本会議に付議された労働組合法第2条、第3条改正の必要性と当為性を確認するものであり、ひいては依然として労働権を制約している公務員法、公職選挙法などの早急な改正を促すものである。

 労働に対する弾圧はもはや政争の道具や手段にはなれない。全国建設労働組合事態に代表される現尹錫悦政府の労働政策は、国際社会で容認できない明白な国際人権規約違反状況だ。 特に今回の委員会で指摘された労働権侵害に対する立場は単純に国連自由権規約違反にとどまらず、これと同一またはより高い水準の労働権保障を要求している国際労働機関の批准条約および二国/地域貿易協定上の義務違反につながりうる深刻で危険な状況であることが強調されなければならない。政府は労組弾圧をはじめとする国内人権状況に対する国際社会の強力な批判の声が繰り返されていることを直視し、今からでも問題の深刻性と一抹の恥を感じることを願う。

 また、委員会の勧告に歩調を合わせてすべての労働者が労働組合を結成し加入する権利、団体交渉権、ストライキ権を完全に行使できるよう直ちに労組法第2条、第3条を改正しなければならない。少なくとも大韓民国が国際社会とすべての交易と交流を断絶して孤立する状況を招かないためには、国際社会で資格のある構成員に求められる最小限の義務水準でも遵守するための努力に直ちに乗り出すことを望む。

2023.11.6.(月)
民主社会のための弁護士の集い
会長 チョ・ヨンソン

この記事を書いた人