「社会・企業の変革とSDGs―マルクスの視点から考える―」を学んで(労働時間研究会)

かわちの自営業者

はじめに 

働き方ASU-NETに昨年5月に入会し、昨秋から「労働時間研究会」に参加しています。今年1月から「「社会・企業の変革とSDGs―マルクスの視点から考える―」(小栗崇資著、2023年、学習の友社)をテキストに、各章を分担して発表し、討論するゼミ形式で学びました。SDGsとマルクスの企業変革論の関連を学んでみたいと思い、同著をテキストに推薦しました。

1.本書から学んだこと

次の点が印象に残っています。

①持続可能な社会をめざすことは「世界を変革すること」に通じる

②「SDGs社会」を本気でめざすEUと「SDGsウオッシュ(もどき)」の日本は根本的な違いがある

③マルクスの社会理論によってこそSDGsの全体像が把握できるという指摘は納得できる

④マルクスは資本論第1・2・3部を通じて企業変革論について述べ、「株式会社論」を深く研究した

⑤企業の変革(資本主義社会の変革)とSDGsの取り組みにより、企業の社会性・公共性を高めていく(企業の変革)を通じて(資本主義)社会の変革が促進されていく

⑥真のSDGs推進のために中小企業も大きな役割を果たすことができるし、社会保険労務士も貢献することが出来る

2.SDGsの重要な意義を覆い隠す日本の「取り組み」

小・中・高校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれ、若い世代を中心にSDGsへの理解が広がっているようです。それでも、SDGsのバッジを付けている人に会うと、「見かけだけでは?」と勘ぐってしまいます。それは、日本の取り組みが「SDGsウオッシュ(もどき)」だからです。

世界の中で遅れた日本に気付くことは、枚挙に暇がありません。長時間過密労働、最低賃金、男女差別撤廃条約への姿勢(ジェンダー不平等)等々、特に労働分野に集中しているように思えます。その上、「働き方改革」にも期待できません。「日本型同一労働同一賃金」が本来とは全く異なる意味(正規と非正規の不合理な待遇差の解消)で使われている様に、「日本型SGDs(もどき)」がSDGsの意義を矮小化し、国民の関心を逸らしていると感じます。

「SDGsは大衆のアヘン」という斎藤幸平氏は、SDGsの理念は良くても、政府や大企業から環境団体まで多様な集団がつながる結節点になってしまうことから、「資本主義のシステム」の否定(変革)につながらないと断じています。確かに、社労士会の研修によって養成された「ビジネスと人権(BHR)推進社労士」が 「ビジネスと人権は労働組合・経団連・国・国際機関からのバックアップ付きの喫緊のビジネスチャンスです」と自身の顧客確保のための手段と捉えているのですから、斎藤氏の指摘どおりとも言える現状があります。しかし、本書ではSDGsを肯定的に捉えています。

3.社会発展の推進力となりうるSDGs

マルクスの社会理論を「矛盾論的統一」 「疎外」 「陶冶」 「自己否定」などの概念の説明から始め、「自然と社会の階層的構造」などのオリジナルな図にまとめています。さらに「自然と人間社会の関係を基礎に置くという点ではマルクスの社会理論とSDGsは共通」 「マルクスがその社会理論で提起した要素が、SDGsとなって顕在化」 「現実がマルクスの理論の示した方向をたどりはじめている」ことを必然的な方向として論じています。

マルクスの企業変革論(第5章)は最も関心のあるテーマだったので報告を担当し、時間をかけて図表によるレジュメを作成しました。これにより、マルクスの株式会社論①株式会社は社会資本(直接に結合した諸個人の資本)の形態をとっており、「私的所有としての資本の廃止へ」と至った存在である。②株式会社は新たな生産形態(脱資本主義)への通過点であり、労働者(結合された生産者)が会社を実質的に所有することになる。③株式会社は株主のものでも経営者のものでもなく、人間が長い矛盾を乗り越えて構築しようとしている「社会的・公共的なものである」などの理解が深まりました。

マルクスの変革論に現実が追いつき、SDGsの進展とともに企業の変革が進むことが期待されますが、SDGsに消極的な日本は資本主義の改革、民主主義の発展の運動で後れを取ることになるのではないかという不安もあります。

4.企業の変革、社会の変革と社会保険労務士

本書の後半部分を学んでいた頃、過労死防止学会の分科会(自由論題)の発表内容を準備する中で、社会保険労務士法第1条「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上」について改めて考えてみました。

これまでの理解は、企業と労働者のどちらの立場にも立てる社労士の資格を生かして、①企業をサポートするときには労働トラブルの防止、メンタルヘルスの発生防止、過労死防止などにつながる仕事を心がける ②労働者や年金受給希望者の相談にも積極的に応じるというふうに、やや図式的に捉えていました。

現時点では、企業も人間と同様、何歳になっても発達できる(人格の発達に完成はない)し、生まれ変わること(自己変革)もできる。「事業の健全な発達」には、会社はどうあるべきかを追求していくことが含まれる。株主や経営者だけでなく、従業員、消費者、コミュニティ、環境などの「ステークホルダー」に貢献することも含まれる。とりわけ従業員(労働者)の幸福を大切にすることが重要だと考えています。

私自身、自営業者からスタートして今は経営者の立場にあることから、「健康経営」など目に見える目標設定から始めて、SDGsにも貢献できる社労士事務所をめざし、変革を進めます。同時にSDGsにとりくむ中小企業を増やし、サポートしていきたいと思います。それは矛盾を深める現体制の維持・延命のためではなく、世界と日本の大多数の人々の願いに応えるためでありたいと思います。そのことを考える機会となった本書を高く評価するとともに、働き方ASU-NETと「労働時間研究会」に参加してよかったとの思いを強くしています。

この記事を書いた人

かわちの自営業者