「第32回つどい」 開催報告

これでええの?スキマバイト

体験談から「在り方」を考えよう!

2025年4月14日、NPO法人働き方ASU-NET第32回つどいを開催いたしました。前回・第31回つどい以来、1年半ぶりの開催です。

「スキマバイト」は、登録者数約2,800万人、現代のニーズに即した新しい働き方として注目されています。皆さんも、有名俳優・タレントが起用されたCMを毎日のように目にしているでしょう。

ちょっとした“スキマ”時間に気軽に働き、即日給料が受け取れるという便利さはなんとなく知られていますが、登録してから働いて給料を受け取るまで何の問題もなくスムーズに進むのか。その実態は世の中に知られていません。

第32回つどいではこの『スキマバイト』にスポットを当て、体験者の声からまずはその実態を知り、参加者それぞれの立場からその在り方を考えることにしました。会場・オンライン合わせて46名の方に参加いただきました。参加者はスポットワーカー(就業中含む)、会社員、研究者、労働組合員等多様でしたし、さらに今回は、テレビ局による取材も入りました。テーマに対する社会的関心の高さがうかがえました。

〇シンポジウムの内容

1.連合によるスポットバイト調査結果報告の紹介

①スポットワークで働こうと思った理由、1位は「生活の為に収入を得たい」

②求人応募の際の契約形態の確認状況「確認していない」39.4%

③「働く上での怪我や事故防止の説明を受けた事がない」34.4%

④仕事上の「トラブル経験あり」46.8%

⑤トラブルの具体的内容、1位「仕事内容が求人と違った」 2位「十分な指示や教育なし」

⑥トラブルの相談相手、1位は「労働相談やNPOなどの相談窓口」

⑦トラブルを誰にも相談しなかった人は19.2%。相談しない理由は「その日限りの仕事だったので我慢すれば良いと思った」30.0%

以上、有効サンプル1,000人の集計結果です。調査結果からは、労働者として本来保障されるべき各種権利が付与されない就業環境に不安を抱えながらも、日々の生活の為にスポットワークを選択している労働者の実態が浮き彫りになりました。

2.体験報告:池田 真一さん、大橋 直人さん(労働組合員)

池田さんからは、業界最大手であるタイミーでの就業トラブルについて、率直にかつ熱量をもって語られました。企業都合による労働時間の短縮指示(早上がり)・賃金カットが恒常的に行われたこと、アプリのレビュー欄にその事実を記載したところ、その企業の求人が以後閲覧不可(ブロック)となったこと。その理由も不審であること。「ブロックされることは生活の糧を喪うこと」との言葉が重く深く響きました。

池田さんの団体交渉を担当した大橋さんは、労働組合がスポットワークの就業トラブルに取り組むことの難しさを語ってくれました。労働者はまず相談に来ない点、就業先及び仲介者、関与する企業がともに雇用責任を逃れようとするという根本的問題に踏み込めない点を鑑みたとき、既存の労働組合活動だけでは限界がある、団体を超えた社会的な取組みが必要だとの提言がなされました。

3.体験報告:黒川 伊織さん(社会運動史研究家)

1年間にわたる、業界・職種ともに多種多様なスキマバイトでの就業体験の「リアル」を、黒川氏独自の視点で語ってくださいました。「正社員や個人事業主が副業として働くケースが大半を占めるが、人との繋がりを求め就業している方が中には居る」との報告がありました。「介護離職した方が介護の合間に働いている」との話に、現代社会の縮図をみました。

スキマバイトは『いつもの仕事とは違う「非日常」な体験を提供してくれる場』、『新たな自分を「発見」できる場』である―黒川さんからは、スポットワークの持つ可能性や展望といったポジティブ面の提示がありました。加えて若年層にとっては、正社員(或いは個人事業主)+スキマバイトの組合せによる、正規雇用/非正規雇用にとらわれない柔軟で新しい働き方が、1つの潮流となりつつあることも挙げられました。新しい働き方を前提としたワーカーの権利保護の必要性、その点が今後のポイントであることを示唆され、黒川さんのユニークな報告は結びとなりました。

4.スキマバイトの法律問題:村田浩治さん(弁護士)

村田浩治弁護士からは「ここ2年間でスキマバイトが急激な拡大をみせた背景の1つに、国や自治体がこの就労形態を肯定的に捉えて、法の下にお墨付きを与えた点がある」、「その裏付けとして、大阪府は業界最大手のタイミーと事業連携協定を締結している」という事実が指摘されました。

法的問題の切り口から考えた場合、総論として第一に、スキマバイトは職業安定法44条が禁止している「労働者供給そのものである」との指摘がありました。また、タイミーをはじめとする事業者側は、これは有料職業紹介だと主張しているが、職業安定法の趣旨や社会通念に照らせば、有料職業紹介の本来的役割を果たしていない、これは実態として日雇派遣であり、労働者派遣法にも違反の疑いありとの厳しい指摘がなされました。

法的問題各論としては、①労働契約〔労働時間、教育、安全配慮〕、②労災適用の問題が挙げられました。

「非正規社員は決して敗け組ではないのに、保障なきまま低賃金で働かざるを得ないことが問題」「誰がどういう風に働いても公平な対価を得られるシステムを構築すべき」と強調されました。

5.参加者による討論、質疑

・池田さんの資料にあるとおり、『労働者が使用者におもねる』レビューが中にはある。次の就業の機会を逃したくないが故にそうならざるを得ないのだろうが、複雑な思いだ。自身も早上がりを経験したが、本来は休業手当の対象となるはず。当事者が声を上げて、変えていく必要は感じている〔現・スポットワーク就業者〕

・日雇い労働者として長年働いてきた。(正規雇用を是とする社会の中で、)日雇労働者は長年悪とされてきた。ただ日雇労働者には、日雇労働被保険者制度があり、これで生活を繋いできた。スポットワークが拡がる中、この制度の適用が危うくなっている。新しい働き方に見合った労働者保護のしくみを早く整えてほしい。〔釜ヶ崎関係者〕

・60歳以上での日雇派遣で就業した際、直前に現場が飛び、仕事がなくなった。労働局に相談したところ「口約束では休業手当の請求は難しい」と言われた。回転寿司チェーン店でシフト勤務した際、早上がりを指示されたが、支払われたのは実勤務分だけだった。国は労働基準法を解体しようとしている。搾取され放題、使い捨ての労働が蔓延している〔Zoom参加者〕

・多様であることを方便として社会保障が蔑ろにされるのは心外なことである。労働者の権利や、適正雇用が確保されなければ、労働者はもちろん、使用者も企業の成長機会を失い、国は貧困化を予防できず、結果として日本全体が損失を余儀なくされる。〔大阪市大 木下名誉教授〕

・Q1)スポットワークには通勤災害含め、労災保険の適用があるのか?

 A1)本来は通勤災害含め、スポットワーカーにも労災保険は適用される。しかし、タイミーは保険適用外と回答している。〔村田弁護士〕

・Q2)スポットワーカーにおけるハラスメント対策の実効性についてお聞きしたい

A2)現状ハラスメントを規制する各法は、継続的雇用関係すなわち従前の日本型雇用を前提としている。また報告でもあったとおり、スポットワーカー自身、単日かつ短時間の就業であるため『自分が我慢すれば良い』『面倒くさい』という心理が働き、相談や訴えにつながらない。

結論として、スポットワークは、“雇用環境改善機会が無い働き方”であることは確か。〔村田弁護士〕

6.閉会挨拶でASU-NET共同代表の岩城穣弁護士は「まずは事実を知ることが大切である。私たちは今後、現状との接点を持ちつつ、スキマバイトに対する各種方策を検討していくこと、そして社会全体となって今日挙がったような声の“組織化”が重要となる」と述べられ、盛況のうちに閉会となりました。


 

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