「インフレ不況と『資本論』―新しい福祉国家という出口戦略」を学んで(労働時間研究会)

かわちの自営業者

はじめに 

働き方ASU-NET「労働時間研究会」は2025年5月~11月、「インフル不況と『資本論』―新しい福祉国家という出口戦略」(関野秀明著、2024年、新日本出版社)をテキストに、各章を分担して発表し、討論するゼミ形式で学びました。

1.本書第5章から学んだこと

私が担当した第5章(アベノミクス「インフル不況と『資本論』―中央銀行信用バブルとインフレ調整」はこの本の要となる章だと思います。そこで述べられている点は次のとおりです。

①急激な物価高騰をもたらした原因は歴史的な円安と日本の「ものづくりの力」の低下が合わさって、円安→輸入インフレ→貿易赤字→ドル支払のための円売り→円安のループに陥ったことによる。

②アベノミクス量的金融緩和・ゼロ金利政策によるインフレ下に「利上げ」を実行すれば、「架空の需要」の消滅(金融危機)と「現実の需要」の減退(恐慌)につながるため、物価高騰対策のために「利上げ」をおこなうことができなかった。

③アベノミクス・バブルは、『資本論』におけるバブル(商業信用+銀行信用による「架空の需要」の創造・「流通過程の短縮」)に加えて、株式市場を動員した「資本の過多」の動員、さらに中央銀行信用による「架空の需要」の創造・「流通過程の短縮」がもたらしたものである。

④かつて「インフレ不況」からの脱却を達成した第一次石油危機時には、大企業はより低い利潤率、より少ない内部留保にもかかわらず、積極的に賃上げを実施し、危機の克服に努めたが、現在はより高い利潤率、空前の内部留保にもかかわらず、賃上げを怠り、危機を拡大している。

⑤アベノミクス「インフレ不況」からの脱却は大幅賃上げでこそ実現できる(後述)。

2.アベノミクスの正体は『資本論』に立ち返ることで分析できる

本書は10年間に及んだアベノミクスの「実績」に向き合い、『資本論』に立ち返ることにより分析を試みています。

その方法はまず、日本経済の状況を可視化するため、最新の統計から著者のオリジナルの図表を作成して提示します。

次に「アベノミクス金融バブル」「アベノミクス不動産バブル」「アベノミクス通商政策」の性格(現象)を明らかにします。

そして、それぞれの現象に映し出される本質を『資本論』の「恐慌の運動論」「不動産バブルの論理と地代、土地価格と架空資本の論理」「信用・世界市場論」との関わりから考察します。

こうした方法により、『資本論』からアベノミクス解明の「答え」を導き出すだけでなく、アベノミクス解明の過程で『資本論』を発展・豊富化することに挑んでいると感じます。

3.アベノミクス「インフレ不況」からの脱却は大幅賃上げでこそ実現できる

本書では第5章第3節(アベノミクス「インフレ不況」からの脱却)において「大幅賃上げの必要性と正当性」を示し、第6章第2節(最低賃金全国一律1500円実現の方法)において最賃1500円実現に不可欠な中諸企業支援策を検討し、第8章第3節(「賃金主導型経済政策」と「新しい福祉国家を支える財源論」)において、「具体的な30兆円の財源提案」「実現可能な30兆円の福祉施策」を提示しています。

第6章第2節では労働組合のナショナル・センター(全労連)の行動計画と財源論の検討に加え、著者独自の視点からの提案もあります。

例えば、中小企業支援策を「社会保険料70%減免」に一本化し、大企業「租税特別措置」等廃止5.1兆円廃止による中小企業社会保険料減免財源プランを掲げています。

財源論は革新政党の政策(選挙公約)にも見られますが、本書はその政策が必要とされる背景や実施による効果を丁寧に示しているので説得力があります。

4.『資本論』そのものを読むことの重要性

本書には『資本論』からの引用が随所に見られます。例えば第5章には『資本論』第3部からの引用が13箇所あります。

これらは著者が『資本論』の原典にあたって、要約してくれているのですが、実際原典を読むと文章の流れがよくわかり、内容をより掴み取ることができます。

つまり、著者がおこなったように、『資本論』そのものを学ぶことによって、その内容を理解し、現代の諸課題にもあてはめて考えることが可能になるということでしょう。

 『資本論』の独習はたやすいものではありませんが、改めて『資本論』そのものへの学習意欲を喚起されました。その点からも本書は、理論と実践の両面から注目に値する著作だと思います。

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かわちの自営業者