労働者派遣法の抜本的改正を求める大阪弁護士会会長声明

 数々の違法行為を繰り返していた派遣業界最大手の株式会社グッドウィルが、本年7月31日に廃業し、更にその後、労働安全衛生法違反による書類送検や事業停止命令を受けていたフルキャストホールディングスも、10月3日に「2009年9月までに日雇い派遣からの撤退」を表明した。このように、日雇い派遣の業界大手2社が、違法行為を繰り返したあげく事業から撤退するという事態が連続したことは、日雇い派遣労働において派遣事業主の法令遵守がないがしろにされていることを強く示すものであると同時に、日雇い派遣労働者の人権が侵害されているとの批判の高まりに対して両社とも撤退せざるを得なくなったと考えられる。

このような状況の中で、労働者派遣法の改正が重要な政治課題となり、すでに各
政党や労働諸団体などから幾つかの法改正案が提示されている。そして、本年9
月24日、厚生労働省の労働政策審議会は厚生労働大臣に対し労働者派遣制度に
関する建議を行い、厚生労働省は、その建議の趣旨に従い次期国会において労働
者派遣法改正案を提出する予定でいる。
同建議は、日雇い派遣の原則禁止や派遣手数料の開示を義務化するなどの一定の
改善方向を示してはいるものの、労働者の人権侵害状態を解消するためには極め
て不十分な内容である。一方で建議は、常用型派遣に関して現行の雇入れ申込み
義務規定の撤廃や、事前面接を解禁することなども含んでいるが、これでは「直
用代替は許さない」とする労働者派遣法の趣旨に重大な変質を加える方向性も示
しており、厳しく批判されなければならない。
労働者派遣制度は、1985年に労働者派遣法が成立して以降、規制緩和政策に
よる度重なる法改正によりその対象業務を拡大し、使い勝手のよい労働力確保の
手段として用いられてきた。非正規労働者数は今や全労働者の35.5%と過去
最高に達し、現行法規制をも潜脱する「偽装請負」「二重派遣」等の違法な労働
者供給が蔓延するに至った。その結果、低賃金・不安定・過酷な労働が拡大し社
会保障制度の不備も相まって、いわゆる「ネットカフェ難民」に象徴される「食」
「住」の確保すら困難な「ワーキングプア」を拡大させている。

このような就労・生活を強いることは、憲法の25条、27条にも反する重大な
人権侵害行為である。「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための
必要を充たすべきものでなければならない」(労働基準法第1条1項)のであっ
て、そのための法的規制を抜本的に強化する必要がある。
現在の非正規労働者の不安定で劣悪な就労実態の改善のためには、最低賃金の大
幅な引き上げとともに、細切れ有期契約の規制、公共職業紹介制度・職業訓練制
度の充実、失業保険その他社会保障の整備などが必要である。特に、間接的な雇
用形態である労働者派遣については、雇用責任があいまいになりがちであること
から、とりわけ厳格な法規制と違法行為に対する制裁が求められる。
具体的には、雇用は直接雇用が原則であり、派遣労働は直用代替の危険がない臨
時的・一時的業務に対するものを例外的に許容するものであることを明記するこ
と、派遣可能業種を専門業種のみに限定すること、不安定な雇用形態である登録
型派遣そのものを原則禁止すること、派遣禁止業務への派遣、派遣可能期間を超
える派遣、偽装請負など労働者派遣法の規制を逸脱する違法行為が行われた場合
には派遣先への直接雇用があったものとみなす「みなし雇用制度」を導入するこ
と、派遣先労働者との均等待遇を認めること、派遣先に派遣労働者の労働条件に
関する団交応諾義務があることを明文化すること、行政による監督権と罰則の強
化などの規制が盛り込まれるべきである。
 
当会は、現在の深刻化する貧困と格差の問題を放置することは、重大な人権侵害
行為にあたるとの認識のもと、労働者が「人たるに値する生活を営む」ことので
きる労働条件の確立をめざし、全力を尽くす決意である。
                  2008年10月  日

                      大阪弁護士会
                         会長  上 野  勝

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