働き方ネットが2006年9月にスタートして2年余りが経ちました。当初の目的は「残業ただ働き法案」と言われた「ホワイトカラー・エグゼンプション」を阻止することでした。さいわい同法案は、労働界の強い反対と世論の猛反発で、2007年1月にいたり、当時の安倍首相が国会上程を見送ることによって棚上げされました。
しかし、働き方の問題がこれで解決したわけではありません。それどころか、ホワイトカラーに対する労働時間規制の撤廃が政治問題化した頃から、「過労死」と「ワーキングプア」をキーワードに、働き方をめぐる議論が堰を切ったように高まってきました。また、そうした情勢を受けて、働き方ネットでは、この間、ワーキングプア、派遣労働、名ばかり管理職、生活保護、子どもの貧困などのをテーマに集いを重ねてきました。
2008年春以降は、アメリカでサブプライムローンに関連した住宅バブルの崩壊にともない金融危機が深刻化し、秋にはそれが世界金融危機と世界同時不況に転化して、日本も新たな不況に突入しました。この不況は、経済がどん底の危機的状況に落ちる速さと深刻さにおいて、たんなる不景気や不況というより、恐慌と呼ぶべきです。2008年恐慌についてはこのブログの働き方講座の最近の集中講義を参照してください。
今回の不況の発端はアメリカの金融危機ですが、日本の不況を深刻な恐慌にまでした一因は、近年の自公政権の下で進められてきた雇用の破壊にあります。1990年のバブル崩壊以降、大企業を中心に正社員の絞り込みが進み、非正規雇用比率は、かつての1割台から今では4割近くまで高まりました。
2002年からの景気回復で大企業は空前の利益を上げました。しかし、その一方で、労働者の賃金は抑えられ、労働分配率(付加価値に占める人件費の比率)は2002年以降ずっと下がり続けてきました。国税庁の統計によれば、給与所得者の平均給与(男女計税込み年収)は、1998年を100とすると2006年は87.7まで下がっています。
こうして「少ない人員と低い賃金でもっと働かせる」式の働かせ方が強まった結果、経済の安定装置(消費の下支え装置)が破壊され、そのあげくに生じたのが今回の恐慌です。したがって、経済を立て直すには、働き方/働かされ方を政治の力で変えるしかありません。当面急がれるのは、派遣労働の規制、最低賃金の引き上げ、賃金不払残業の解消を中心とした、ディーセント・ワーク――まともな雇用、まともな賃金、まともな時間――の実現です。
最後に手前味噌の案内ですが、1月2日(金) NHKラジオ第1放送「日本のカルテ 希望の国への処方箋」 第2夜「揺れる雇用 働き方」午後9時30分〜10時55分(ニュースを挟んで85分)に出演します。現場取材を聞いて、ゲストの3人(全国ユニオン会長の鴨桃代さんと、富士通総研経済研究所の渥美由喜さん 富士通総研経済研究所主任研究員と私)がコメントを述べ意見を交わします。番組案内はこちら。
同日は、NHKの「ラジオあさいちばん」の新年インタビューでも、私が10分ほど雇用と働き方の現状と課題について話をします。時間は7時15分からと聞いています。たまにはラジオもお聞きください。
(働き方ネット大阪 会長 森岡孝二)