緊急アピール 賃上げこそデフレと円高を是正する最良の道

賃上げこそデフレと円高を是正する最良の道
  ──政府・民主党に対する緊急アピール──
 
 1.政府・民主党の追加経済対策案
日本経済はデフレが続くなかで急激な円高と株安に見舞われ、8月26日、政府・民主党は、円高阻止やデフレ脱却に向けて、9000億円(最大1兆7000億円)規模の追加経済対策を実施する方針を固めたと報じられています。その中身としては、「環境対策」では、住宅や家電のエコポイントを延長することに加え、電気自動車などの普及促進策や、環境関連の設備投資への税制優遇策を実施し、「雇用対策」では未就職の新卒者の試験的雇用や非正規労働者の正規化に取り組む企業への助成策を盛り込むとされています。また保育施設の整備促進などの子育て支援策や、円高に苦しむ中小企業への金融支援策も実施する方針も盛り込まれることになりそうです。
 
 企業に新卒未就職の雇用や雇用の正規化を求めることは重要です。しかし、デフレ脱却を言うなら、それにとどまらず、最低賃金の大幅引き上げを梃子に賃金の引き上げを奨励する政策が不可欠です。
 
2.デフレの原因は労働者の賃金の下落
 1990年代末以降、大企業を中心に正社員が減らされて、低賃金の非正規労働者が増やされ、正社員の賃金や福利厚生も削られてきました。その結果、国民経済全体の雇用者報酬(全雇用者の賃金とボーナスに退職一時金と福利厚生費を合わせた額)は、大幅に減少してきました。雇用者報酬は1997年から2009年のあいだに279兆億円から253兆円へ26兆円も落ち込んでいます。2008年秋からの世界恐慌の影響で2008年から2009年の1年間だけでも、264兆円から253兆円に11兆円も減少しています。
デフレの原因は労働者の賃金の下落にあります。賃金が下がれば、労働者の購買力が低下し、個人消費は低迷します。そうなると、企業は販売不振をコストダウンによる値下げで挽回しようと、人員の削減と賃金の切り下げに走ります。これでは、賃金の下落が物価の下落を招いて企業収益を悪化させ、それがさらに賃金の引き下げと価格の低下をもたらすというデフレ・スパイラルを止めることはできません。
 
 デフレが起こるのは、企業活動のグローバル化によって新興国や途上国から安価な商品が大量に輸入されるようになったからだという意見があります。しかし、グローバル化による低価格商品の流入は、アメリカやその他の先進国でも見られる現象ですが、深刻なデフレに見舞われてきたのは日本だけです。したがって、デフレの原因をグローバリゼーションに求めることはできません。
 
3.急激な円高の原因も賃金の下落 
急激な円高が問題になっていますが、円高の原因も、基本的には近年における賃金の下落にあります。それは、賃金の削減がコストの削減を可能にし、日本企業の輸出競争力を高め、円高を誘発するとともに、日本経済の外需依存体質を強め、日本経済を、個人消費という足腰が弱く、世界貿易や為替相場の変動の影響を過度に受けやすい構造にしてきたからです。為替相場は、短期的には投機的要因もありますが、長期的にみれば、自動車や電子・電機など日本の主力商品の輸出価格で決まる傾向があります。言い換えれば、これらの産業でコストダウンのための人員削減や賃金カットや雇用の非正規化が進めば進むほど、円高が進むことになるわけです。
 
4.賃金引上げと雇用改善で内需拡大を
国税庁の統計によると、1年間続けて勤務した給与生活者の1人当たりの平均給与は1999年から2008年の間に461 万円から430万円に下がっています。同じ期間に年収が200万円に満たない人は、1999年から2008年の間に804万人(17.9%)から1068万人(23.3%)に264万人も増えています。1年未満の勤続者を含めると年収200円未満の働く貧困層は1700万人にも達します。完全失業者数は時期による波はありますが、この10年間、平均すると300万人を超え、2009年7月は370万人(5.6%)に上りました。このように全般的に賃金が下がり、失業率が高いもとでは、内需拡大は不可能です。しかし、賃上げと雇用増で個人消費を拡大し、輸出依存・外需偏重を改めれば、円高円安に左右されない日本経済は可能です。
 
5.私たちの訴え
そこで、私たちは、政府・民主党に対し、次のことを要請します。
? 最低賃金の大幅引き上げを含む、賃上げ支援策を緊急経済対策に盛り込むこと。
? 政府や自治体が率先して人手不足となっている福祉分野で雇用を増やすこと。
? 中小企業への支援策を講ずること。
? 大手企業に国内雇用の優先と雇用の正規化を強く働きかけること。
同時に、私たちは、連合や全労連といったナショナルセンターに対し、次のことを呼びかけます。
? 政府・民主党に対してこれらの政策の実行を迫ること。
? 労働組合の本来の課題である賃上げと雇用改善にこれまで以上に積極的に取り組むこと。
 
2010年9月2日 
                                                                     働き方ネット大阪
                                                                       会長 森岡孝二
 
(8月30日に発表したアピールを一部修正しました。)

この記事を書いた人