朝日新聞 2012/09/04
福島第一原発で事故が起きた昨年3月、東京電力が被曝線量を測る線量計「APD」をつけないで働かせた作業員が延べ3千人を超え、全体の4割にのぼることがわかった。緊急対応として作業班の代表者だけに装着させ、全員が同じ線量を浴びたとみなしていた。だが、作業員が代表者と離れて働いていた事例が朝日新聞の取材で判明。正しい被曝記録が残っていない人が相当数いる可能性が出てきた。
東電によると、福島第一に5千台あったAPDの多くが3月11日の津波で流され、約320台しか残らなかった。12、13日に他の原発から約500台を取り寄せたが、「充電器が足りない」として使用しなかったという。15日以降は作業班の代表者だけにAPDを持たせ、その被曝線量を作業班全員の線量として記録する運用を始めた。こうした対応について、31日になって厚生労働省に報告した。
原発構内は爆発で高線量のがれきが飛び散り、1?離れただけでも線量が大きく違う場合がある。厚労省は一人ひとりの被曝線量が正しく記録されない恐れがあると判断し、ただちに改善するよう口頭で指導した。東電は4月1日から全員にAPDをつけさせる運用に切り替えた。
東電は3月15日からの17日間で働いた作業員は延べ7766人で、うちAPDの貸し出し記録がないのは4割にあたる延べ3077人と集計。一度でもAPDをつけないで働いた実人数は「膨大な記録を突き合わせる作業が必要」で把握していないというが、数百人以上にのぼるとみられる。
東電は「代表者のAPDで作業員の線量は十分把握できていた。労働安全衛生法に基づく規則で認められている『測定器での測定が著しく困難な場合は計算で値を求められる』に該当し、法違反ではない」と説明。これに対し、厚労省は31日まで改善しなかったことを問題視し、「もっと早く全員がつけることができた」として同法違反で5月30日付で東電に是正勧告をした。
APDをつけないで働いた複数の作業員は朝日新聞の取材に「代表者は10?以上離れた場所にいた」と証言した。彼らの被曝記録は不正確な可能性が高く、「本当の被曝線量が分からず不安だ」と漏らす人もいる。
作業員は自らの被曝線量を記録する放射線管理手帳を持ち、がんなどの病気になった際の労災認定や訴訟で重要な証拠となる。正しい被曝記録がなければ、十分な補償や救済が受けられない恐れがある。(青木美希)
<用語解説>線量計「APD」
体の外から浴びた放射線量を刻一刻と表示し、設定した値に達すると書報が鳴る。男性は胸ポケットに入れて働く。東電は福島第一原発で働く作業員全員に毎朝貸し出し、その日の作業が終わると返却させている。大量の放射性物質が放出された事故直後の現場では作業貞に危険を知らせるため特に重要な装備で、作業員が浴びた累積線量のデータにも使われている。