大阪市立桜宮高校で体罰を受けた男子生徒(17)が自殺した問題を巡り、今春の入試で同高体育系2科の募集中止を求める橋下徹大阪市長が発言をエスカレートさせている。
同高教員の総入れ替えや廃校の可能性まで言及。在校生や受験生の思いをなおざりにした対応に批判が上がる。
「炎の源は教員であり、生徒の意識であり、保護者の意識だと思う。この炎を消すために、まずは教員を入れ替え、生徒、保護者の意識を改めていく」
18日に開かれた市議会文教経済委員協議会で、橋下市長は、体罰問題を火事に例え、意識改革のために教員の総入れ替えを訴えた。
高校時代に自らも厳しいラグビー部生活を送った橋下市長は、問題発覚後も「試合中にビンタすることはあり得る」などと体罰を容認する発言を続けた。だが、12日に遺族宅を弔問した後、「スポーツ指導での体罰は一切認めない」と一転。3日後には同高の体育科とスポーツ健康科学科の募集中止を打ち出し、「場合によっては廃校もある」とまで踏み込んだ。
入試が2月下旬に差し迫った時期だけに、市議会からは「市長の発言が事態を混乱させている」と批判が相次ぎ、「教員を入れ替えろと言うなら、まずは体罰を容認してきた自分が責任を取るべきではないのか」との声も上がる。
募集継続を求める市立中学校長会の動きには、橋下市長は「教育者失格。そういう校長はいらない」と一蹴した。ある中学校長は「桜宮高校を目指してきた受験生たちの夢を一方的に摘み取るのは、暴力そのものだ」と憤る。
梶田叡一・前兵庫教育大学長は、「解体的な出直しが必要な問題で、橋下市長の発想は間違っていない」としながらも、「この時期に募集を中止すると、受験生の選択が大きく狂う。感情的に対処すべきではない」と懸念を示す。
市教委が募集を中止しない場合、市長権限で関連予算を執行しない可能性を示したことにも反発が大きい。
大嶽秀夫・同志社女子大教授(政治学)は「予算を盾にした手法は汚い。これを機会に教育委員会をたたいておこうという考えなら短絡的すぎる」と指摘する。
波紋は東京・永田町にも広がる。17日の自民党文部科学部会では、「橋下マジックに引っかかってはいけない。頑張ってきた子どもたちのことを全く考えず、教育委員会に責任転嫁しても問題解決はできない」などと批判が続出した。下村文部科学相も18日の記者会見で、「良く言えば発信力があるが、厳しく言えば、騒動を起こすきっかけになっている」と橋下市長に冷静な対応を求めた。
ただ、当の橋下市長はどこ吹く風だ。19日、記者団に「新しい教育方針が固まっていない段階で、新しい生徒をお迎えする方が無責任だ」と語るなど、一歩も引く構えは見せていない。