ユニクロ 疲弊する職場

東洋経済オンライン2013/3/4

by 風間 直樹 

 「ユニクロの服を着ている人はスタンドアップ。こういう人が、選考の第1候補だ」
 
2月8日、東京・六本木のミッドタウン・タワー。カジュアル衣料大手のユニクロやジーユーを傘下に持つファーストリテイリングの東京本部で、新卒採用イベント「ユニクロ・ジーユー希望塾」が開かれた。同社の柳井正会長兼社長が開口一番こう語りかけると、800人弱の学生たちで埋め尽くされた会場は、どっと沸いた。
 
「世界一へ。グローバルリーダー募集」と大書された採用パンフレットには、多くの社員たちの笑顔が並ぶ。「入社1年半でフランスに赴任」「バングラデシュでソーシャルビジネスを起業」といった内容に、学生たちは目を輝かす。
 
だがこの日のイベントでも、採用パンフレットでも、決して明かされなかった事実がある。この数年間、ユニクロの新卒社員の3年内離職率は実に5割前後で推移している。数百人単位で新卒社員を採用する大企業としては、極めて異例の高水準だ。日本を代表する急成長企業の裏側で、いったい何が起きているのか。

ユニクロ全店長の月間労働時間一覧(ネット不掲載)

■ 終わらぬ膨大な作業 ユニクロ一色の生活
 
「日曜日は毎週徹夜でしたね。店を閉めてから、朝までレイアウトの作業計画を作っていました」。元社員(20代女性、以下Aさん)は話す。別の元社員(20代女性、以下Bさん)も言う。「とにかくマニュアルを覚えることと、大量の業務に追われていた。ひたすら品出し(陳列作業)と商品整理の毎日だった」。
 
ユニクロは多くのアパレルとは異なり、在庫があるかぎり、商品は全色・全サイズを店頭に並べている。そのため、「店舗での作業量はほかのアパレルとはまったく異なる多さ」と、元店長(20代男性、以下Cさん)は断言する。
 
「ユニクロ一色の生活だった」。Bさんは当時を振り返る。その実情は、「長いときは、開店から閉店業務までずっと店舗にいる。それは正社員ならザラですね」(Bさん)。「最初に配属された大型店のときはそうでもなかったが、社員数の少ない小型店では、毎日14時間拘束が普通だった」(Aさん)。

 
■ 新人店長は「名ばかり」管理職の可能性も
 
同社は現在、社員の月間労働時間を最長240時間と定めている。これは月80時間程度の残業を前提にした数字だ。「上限240時間」は、繁忙期だろうと新店オープンだろうと絶対破ってはならない「鉄の掟」とされている。
 
社員の間でも、もしこの上限を超過したら出勤停止処分となり、厳しく指導されると認識されている。現役店長のDさんは、昨年の12月、1日12時間で23日間勤務し、276時間ほど働いたという。Dさんは、「そのまま報告すれば、出勤停止となり降格処分も受けかねないので、240時間内で打刻している。残りはサービス残業だ」と打ち明ける。

  ユニクロが文芸春秋との訴訟で裁判所に提出した、2010年11月の全店長の月間労働時間一覧(下画像参照)によれば、新人店長の労働時間は、ほぼ240時間の上限ギリギリだ。
 
240時間以内で業務が終わらない場合、処分を回避するためには、必然的にDさんのように、サービス残業でこなすしかない。ただ同社では、サービス残業も厳しく禁じられている。サービス残業が発覚した場合には、降格、店長資格剥奪など人事による懲戒処分が行われる。実際、長期間にわたりサービス残業を強要・黙認していた店長には退職勧奨が行われた。
 
仕事は多いが、残業には上限がある。こうした矛盾を一身に背負うのが店長だ。同社は店長を「独立自尊の商売人」であるとして、労働時間管理を不要とする労働基準法上の「管理監督者」として一律に扱っている。そのため、そもそも店長にはサービス残業うんぬん以前に、残業代そのものがいっさい支払われていない。
 
だが店長の役割を見ると、いわゆる「名ばかり管理職」である疑いが消せない。同社が示す店長の「月次・週次モデルスケジュール」によれば、店長が責任を負う「管理業務」は週60時間超が課されている。会社は、部下やスタッフ(準社員やパート、アルバイト)への権限委譲を進めれば十分こなせる水準だというが、そもそも小型店だと、「管理業務を行える部下がおらず、委譲しようにもできない」(Cさん)。
 
さらに店長の仕事のうち、モデルスケジュールの示す管理業務はほんの一部だ。Cさんは「管理業務と現場業務の比率は大体4対6で、現場業務のほうが大きい」と語る。
 
そのうえ店長の権限は決して大きくない。什器の設置や商品の陳列の方法などは色の並び順まですべて決まっており、店長の裁量権はせいぜい在庫の発注とスタッフの採用ぐらいだ。ただし募集時の時給額も本部が決めている。あとは本部の指示、直属の上司で複数店舗を統括するスーパーバイザー(SV)の指示、そしてマニュアルに従って働く。
 
管理・現場業務にフル稼働する一方で、給料については「店長になっても年収400万円程度だった」(Cさん)。新人店長の給与グレードは、採用パンフレットにある18ランク中、下から4番目にすぎない。
 
*この特集記事の全編は3月4日(月)発売の「週刊東洋経済」に掲載しています(全9ページ)

 

この記事を書いた人