http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF1300R_T10C13A8MM8000/?dg=1
日本経済新聞電子版 2013/8/14
政府は1日8時間、週40時間が上限となっている労働時間の規定に当てはまらない職種を新たにつくる方針だ。大企業で年収が800万円を超えるような課長級以上の社 員が、仕事の繁閑に応じて柔軟な働き方をできるようにして、成果を出しやすくす る。新たな勤務制度を2014年度から一部の企業に認める調整を始め、トヨタ自動車や三菱重工業などに導入を打診した。
労働基準法は時間外労働への残業代の支払いのほか、休日や深夜労働に伴う割増賃金の支給を企業に義務づけている。この労働時間の規定を、いわゆるホワイトカラーの一部に適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション」を企業が実験的に採用できるようにする。秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。
新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)の対象は、大企業の課長級の平均である年収800万円超の社員で、勤務時間を自分の判断で決められる中堅以上の社員を想定している。一般の部長、課長相当級の社員だけでなく、高度な専門知識を持つ人材や、エンジニアらも含まれる。本人の同意と労使合意が前提となる。政府は新日鉄住金やIHIなど大企業にも導入を呼びかける。
新制度を導入すると、企業は対象の社員に一定の年俸と成果に応じた給与を支払う。一方、働く側は繁忙期に休日返上で働き、閑散期にはまとめて休むといった働き方を選べるようになる。1日あたり、1週間あたりの労働時間の制約がなくなるため、在宅勤務も広がる可能性がある。
企業は研究開発での効果も見込む。経済界からは「本当は技術者が時間を気にしないで働きたいと思っても、労働時間の規定があるので思い切って働けない」(自動車大手幹部)との不満が出ていた。規定を外せば、新製品の開発時期に人材を集中して投入することも可能になる。
労働時間の規定の対象外となっているのは、一般企業ではすでに労働組合員ではなくなった管理職らだ。ホワイトカラーにまで広がれば、働き手の生産性を高め、日本経済全体の競争力強化につながる可能性がある。
新制度には労働界などから反発も予想される。07年の第1次安倍政権でもホワイトカラー・エグゼンプションを盛り込んだ法案提出を検討したが、野党から「残業代ゼロ法案」などと批判されて取り下げた経緯がある。政府は全国一律ではなく、導入対象をひとまず一部企業に限ることで、労働界の理解を得たい考えだ。
現在も、一定時間の残業をしたとみなして賃金を支払う「裁量労働制」があるが、対象は研究開発職やデザイナーなど一部に限っている。今回の新制度は、通常勤務、裁量労働制と異なる「第3の働き方」となる。