NPO法人・働き方ASU-NET懸賞論文・小論文の審査結果について
代表理事
森岡 孝二(関西大学名誉教授)
岩城 穣(弁護士)
【1】 募集の経緯
働き方ASU-NETは、2006年9月に市民団体「働き方ネット大阪」として設立され、2013年7月末にNPO法人に認証されました。この懸賞論文・小論文はNPO移行を記念して実施されたものです。
募集テーマは、学生および社会人を対象にした論文の部(8,000〜10,000字)では、「若者の雇用と労働をめぐる現状と課題について、任意に論題を設定して論述する」としました。また、学生を対象にした小論文の部(2500〜3000字)では、あらかじめ「私はこんな職場で働きたい」という論題を指定しました。
2014年4月1日にホームページに掲載した募集のお知らせでは、締め切りを2014年9月16日としておりましたが、途中で学生の応募者を増やすことを意図して10月15日に延期しました。その結果、締め切りまでに後掲の一覧表に示した31編の論文(うち5編は学生)と、5編の小論文(うち1編は社会人)の応募がありました。ご応募くださった方々にはこの場を借りてごお礼を申し上げます。
【2】 審査の手続き
論文の部については、ASU-NET代表理事の森岡と岩城が予備選考を行い、応募のあった31編のなかから比較的出来栄えのいい10編を選んで、委嘱審査委員の熊沢 誠氏(甲南大学名誉教授)、竹信三恵子氏(和光大学教授)、西谷 敏氏(大阪市大名誉教授)にお送りし、各論文について、?募集テーマとの照応性、?論点の重要性、?主張の独創性、?論旨の明確性、?資料の適切性などに留意して、総合評価をSA(最優秀賞レベル)、A(優秀賞レベル)、B(佳作レベル)、C(選外)で判定していただきました。そして3氏の総合点を合計して、森岡と岩城で順位付けを行い、受賞者を決定しました。この場を借りて、審査の労を取ってくださった3人の先生方にお礼を申し上げます。
小論文については応募者が5名にとどまったために、委嘱審査委員にお願いすることなく、森岡と岩城が査読して評価を出し、順位付けを行ったうえで、受賞者を決定しました。
【3】 審査の結果
論文の部については以下のように優秀賞2編および佳作3編を入選作としました。
(上をクリックすれば論文が読めます)
本論文は、若者を疲弊させている長時間労働の実態と要因を、労働者が自発的に長時間働いているかのように言う議論や、筆者が従事してきた損保会社における「私的時間」(談笑・喫煙・化粧直しなど社内非就労時間)を入力させる労働時間管理の手法にまで分け入って考察し、現在、政府が進めようとしている「新たな労働時間制度」が「長時間労働の固定化」と「サービス残業の合法化」を意図したものであることを明らかにしている。本論文は、社会人研究者の道を歩む筆者が自己の従事する損保業界の労働実態を踏まえて執筆した点に独自性が認められる。
優秀賞: 北出 茂「破壊される雇用法制―地域労組おおさか青年部の労働相談活動から見えてきたもの―」
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本論文は、今日の青年労働者の長時間・低賃金労働をめぐる現状を考察し、ブラック企業が労働基準法を守らず、労働者を使い潰している実態と重ねて、政府が導入しようとしている新たな労働時間制度や、解雇の金銭解決制度の狙いを具体的に批判している。筆者は地域労組おおさか青年部の書記長として、多くの労働相談を受け、当事者とともに団体交渉に加わってきた。その経験が事実素材として生かされている点に本論文の強みがある。
佳作: 小山 治「大学は学生の就職活動を改善するためにどのような教育を行うことができるのか―レポート・論文を書く力の育成に着目して―」
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本論文は、大学は学生の就職活動を改善するためにどのような教育ができるかと問い、大学が導入する可能性の低い本田、森岡、橘木らが提唱する急進的なカリキュラム改革に代えて、穏健で実行可能な提案として、レポート・論文を書く力の習得を到達目標とする改革案を提唱している。
佳 作: 脇本 忍「若年企業従事者の職業ストレスに関する調査研究」
本論文は若年労働者の職場ストレスの要因を、性格特性と感情特性との関わりに留意して社会心理学的手法で検討し、職場ストレス要因は、三因子構造(負担因子・仕事のコントロール因子・雰囲気因子)であると推論を導いている。
佳 作: 小林美幸「移動時間の考え方とそのギャップを考察する」
本論文は、移動時間は労働時間ではないとする通説に異を唱え、自宅から数時間を要する営業先に直行した場合などを示して、情報通信技術等で労働環境が変化した現在においては、移動時間についても労働時間性を認めるべきケースがあると主張している。
小論文の部については以下のように優秀賞1篇および佳作1編を入選作としました。
優秀賞: 荒川隆太朗(大阪人間科学大学)「私はこんな職場で働きたい」
本小論文は、たんに生活と仕事のバランスが保たれていて、仕事にやりがいを感じられる職場で働きたいと言うだけでなく、「すき家」を対象としたワンオペチェックという社会運動に参加した体験を綴り、社会運動のあり方と働きたい職場の関係について考察している点で注目される。
佳 作: 前田冴恵(三重大学人文学部法律経済学科)「私はこんな職場で働きたい」
本小論文は、女性の社会進出が進んだとはいえ、依然として結婚・妊娠・出産・育児を契機に退職する傾向があることを問題にして、ワーク・ライフ・バランスの取り組みを推進している先進例として大手火災保険会社の育児休業制度や短時間勤務制度を紹介している。
なお、論文の部も小論文の部も残念ながら最優秀賞の該当作はありませんでした。
【4】 授賞式と発表予定
上記の入賞者(佳作を含む)に対する授賞式を2015年1月19日(月)午後6時よりASU-NET事務所において行います。また、優秀賞については入力ミスや不適切な表現を執筆者に修正してもらったうえで、後日ASU-NETホームページに掲載します。
【応募論文タイトル一覧】
(1) 現代日本の雇用慣行と若者の非正規雇用問題
(2) 学校から仕事への移行を考える―労働・勤労のための「基礎体力」―
(3) 若者の雇用と労働をめぐる現状と課題―教育と労働市場との連携を深め、キャリア教育を徹底しよう―
(4) 隠される若者の雇用・労働をめぐる問題―女性の活躍促進に関する政策は、なぜ推進されているのか―
(5) これからの日本の若者に未来はあるのか
(6) 新規学卒者の高水準離職率の要因に関する研究
(7) 適職イメージの早期形成による若年者の就業支援に関する考察
(8) 若者の雇用と労働環境
(9) 就職制度と職業の選択の自由
(10) インターンシップは大学生の就職活動にどのような影響を与えるのか
(11) 消防職員の人事評価制度と給与体系の変遷−働き方の行方−
(12) 若者の雇用と労働、教育への提案―愛媛若者サポートブラン(改訂案)、そしてアベノミクスを踏まえて―
(13) 社会性アクセス機会の拡大に向けて―現代のネメシス―
(14) 大学は学生の就職活動を改善するためにどのような教育を行うことができるのか―レポート・論文を書く力の育成に着目して―
(15) 若者の未来と長時間労働
(16) 若者の職業選択のあり方と労働
(17) “自分で働く”ということ―「労働者」概念を覆す―
(18) より実効性のあるポジティブ・アクションのために−情報開示の実効性と今後の方針−
(19) 社会人になるまでの準備と若者の職業選択
(20) 若者(大卒者)の雇用と定着について
(21) 就業困難な潜在的若者労働者の就業支援のあり方について―オルタナティブな就業支援施策の可能性に関する検討―
(22) 現有制度徹底活用で労働時間を均し、老若男女のワークライフバランスを
(23) 未来に輝く若者たちへ
(24) 小論文指導から読み解く―高校生の「働く」意識―
(25) 若年企業従事者の職業ストレスに関する調査研究
(26) 高齢者の美学―若者の雇用・労働環境の改善機運を高めるために―
(27) 移動時間の考え方とそのギャップを考察する
(28) 欲望の時代から人間の尊厳を守る理性の時代へ―「国民の安全保障」の観点から、若者の雇用と労働をめぐる現状と課題を考察して―
(29) 破壊される雇用法制―地域労組おおさか青年部の労働相談活動から見えてきたもの―
(30) 宅地建物取引契約と雇用契約の比較―契約における共通点と相違点の比較―
(31) “キャリア・フィロソフィ教育”の充実―若年労働者の安易な離職を防ぎ、人材の有効活用を図るために―