朝日DIGITAL 2017年5月5日
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写真・図版:斎藤さんのタイムカードのコピー(一部)。2015年8月14日から亡くなる直前の11月12日まで1日も休まず働いていたことがわかる=松丸正弁護士提供(省略)
2015年に亡くなった女性会社員(当時50)について、山口労働基準監督署が労災(過労死)と認定したことがわかった。女性の残業時間の平均は国の過労死認定ライン未満だったが、死亡前の半年で4日しか休めなかったことなどを考慮した異例の認定となった。政府は残業時間の上限規制を進めているが、専門家は「休日労働規制に踏み込まない対策は不十分だ」と指摘している。
「この年では仕事もないし…」休日も出勤、やつれた母は
山口県内の弁当販売会社で配送を担っていた斎藤友己(ともみ)さん=同県防府市=は15年11月、自宅で急死し、死因は心臓疾患の疑いとされた。遺族側代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、斎藤さんは07年から同社に勤務。タイムカードをもとに計算した死亡直前1カ月の時間外労働(残業)時間は70時間11分で、直前2〜6カ月のそれぞれの平均は月あたり約71〜77時間だった。
国の過労死認定基準(時間外労働が発症前1カ月で100時間か、2〜6カ月の平均で月80時間)には達しないものの、遺族側は、発症前6カ月の間に4日しか休めていなかったと主張。特に15年8月14日〜11月12日は連続91日間も勤務したとして労災を申請した。山口労基署は今年2月17日、遺族側の主張を認める形で、斎藤さんの死を「過労死」と認定した。
労働基準法36条では、会社が従業員に時間外労働をさせる場合や法定休日(毎週1日)にも働かせる場合、事前に労働組合か労働者代表との間で協定(36協定)を結ぶ必要がある。そこでは残業時間や休日労働は実質的に上限なく設定でき、斎藤さんの会社での36協定にも法定休日労働の日数に限度はなかった。
厚生労働省の13年度調査によると、企業などの約半数が36協定を締結。うち2割強で、1カ月(4週間)のうち法定休日の4日間とも働くことを可能にする内容だった。
松丸弁護士は斎藤さんのケースについて「休めないことによる疲労の蓄積が大きかったとみるべきだ」と指摘。「36協定さえあれば事実上、延々と働かせられるのが現行制度。斎藤さんの死の教訓を社会で共有すべきだ」と訴える。(阪本輝昭)
■専門家「休日労働の規制を」
電通の新入社員・高橋まつりさん(当時24)の過労自殺を機に、「働き方」をめぐる論議が高まった。政府は関連法令の改正・整備に向け3月28日、残業時間の罰則付き上限規制などを新たに盛り込んだ「働き方改革実行計画」を決めた。
残業時間について、36協定の締結を前提に、繁忙期も含めた年間の上限を「720時間(月平均60時間)」と設定。繁忙期は「1カ月100時間未満」「2〜6カ月平均でいずれも月80時間以内」を上限とし、過労死ラインをぎりぎり超えない水準にとどめた。
ただ、年間上限「720時間」に休日労働は含まれず、斎藤さんのような法定休日をつぶす形の連続勤務に上限は設けられていない。休日労働抑制については事業者の努力義務とする方向で検討が進んでいる。
森岡孝二・関西大名誉教授(企業社会論)は「休日労働の規制に手をつけない『改革』では過労死を防げないことが証明された。国は議論の出発点に戻り、実効性ある対策を検討すべきだ」と話している。