2019年10月30日の「Asu-net第30回つどい」でシンポジウムの後、参加者一同で次のアピールを確認しました。
〈アピール〉 この“働き方“おかしくない!? 〜「雇用によらない働き方」を考える〜
雇用でなく、委託、請負などの契約での働き方が注目されています。企業や団体などに所属せず、発注元と個 人的に契約を交わして働き、報酬を受ける働き方です。個人請負・委託、一人親方、フリーランスなど以前からの 形式だけでなく、最近ではインターネットを通じて契約し情報を受けて働く、欧米発の「ギグ・ワーカー」と呼ばれる 働き方が日本でも広がってきました。
労働基準法、労働組合法など労働法の適用を受けず、労働者のための社会保険加入もなく、一般の労働者に 保障された権利はほとんど行使できません。毎日、長時間働いても過酷な仕事に見合う報酬を受けられません。 仕事に関連して負傷したり、病気になっても労災補償や傷病手当金なども受けられません。最低報酬や解雇制 限など発注者に対する規制がないので、仕事をいつ一方的に打ち切られても争うことが難しく、仕事を失っても失 業給付がありません。
本日の集いでも、音楽教室講師、放送番組制作者、保険外交員、ウーバー・イーツ労働者など多様な職種の事 例が取り上げられ、それぞれの深刻な問題点、とくに不安定な地位のためにハラスメントや不当な扱いを受けや すいことが指摘されました。
政府は、経産省主導で「雇用によらない働き方」と呼んで、このような働き方を「成長戦略」に積極的に位置づけ ようとしています。現在、労働政策審議会での議論が進んでいますが、全体として働かせる側の立場からの議論 が目だち、実際に働いている人の実態や要望は十分に反映されていません。
何よりも、対象となる労働者の人数や実態を正確に把握することが必要です。ILO は、2018 年の労働統計専門 家会議で、新たな状況を踏まえて「雇用によらない働き方」についても、より詳細に対象を分類して調査することを 加盟各国に求めています。
ところが、日本の従来の労働統計は「就業者」の中で、「雇用者(労働者)」と「自営業者」に大きく2つに分類す るだけで、その中間的な「雇用によらない働き方」の就業者の人数や実態が明確ではありません。内閣府では、 今年、フリーランス調査をしましたが、その規模を就業者全体(約6600万人)の5%程度に当たる約300万人と推 計しているだけです。
また、世界では「雇用によらない働き方」について、働く人の権利を保障する新たな法規制の動きが強まってい ます。例えば、アメリカでは、従業員を独立請負事業者とすることは、低賃金で失業給付を受けられない労働者を 増やす一方、企業による税金と社会保険料の負担逃れを許して社会的給付への公的財政負担を増やすことが 問題になりました。そして、これを規制しようとする動きが州単位で広がり、最近ではカリフォルニア州が企業に3つの要件を満たしたときにだけ請負事業者とできる法律が可決され、来年1月から施行されます。
これまで請負や委託形式で働く労働者が、労働基準法、労災保険法、労働組合法など、労働法適用を求める 企業や政府を相手とする運動や裁判が展開されてきました。団体交渉をめぐっては、最高裁が、企業側の団体 交渉応諾義務を認める判決を下しています。そして、労働組合が関連した事件を取り上げる例が増えており、最 近、ウーバー・イーツでは労働組合が結成され、企業側との団体交渉を求めています。
本集いに参加した私たちは、次のことを訴えます。
(1)政府は、「雇用によらない働き方」について、拙速な結論を避け、慎重に議論を進めること
(2)対象となる労働者の人数や実態を、ILO 基準に基づいて正確に把握すること
(3)アメリカや欧州で進展している新たな法規制の動向を踏まえ、働く労働者を実効的に保護する規制を実現すること
(4)何よりも、働く人の要望や主張を反映した、民主的に開かれた議論を展開すること
働き方 ASU-NET は、今後も、多くの団体や個人と連携して、この問題での議論と取り組みを進めていきます。
2019 年 10 月 30 日 NPO 法人働き方 ASU-NET 第30回つどい
「この“働き方“おかしくない!?〜「雇用によらない働き方」を考える〜」集会参加者一同