中日新聞  <はたらく>低収入で待遇不十分 大学の非常勤講師

中日新聞 2012年3月2日 暮らし・健康

「大学の非常勤講師の窮状を知ってほしい」。こんな声が生活 部に届いた。大学教育を
支えているのに、生活を満足に支えられ ない収入に甘んじ、厚生年金をはじめ社会保険
にも十分に加入で きない。授業中の講義室以外に大学に居場所もなく、常に雇い止 めの
不安を抱える不安定な立場だという。 (稲田雅文)

「学生も先生が週一度のパート労働者だと思っていないと思い ます。実情を話すわけにもいかない」。関西地方でフランス語や フランス文学を教える非常勤講師の50代男性は自嘲気味に話す。 

男性は関西の公立と私立の3大学で90分間の授業をそれぞれ 1週間に2コマ、計6コマを受け持っている。報酬は1コマ当た り月2万5千円、1回の授業だと6千円を上回る程度。あとは交 通費が出るだけだ。年収は2百万円に届かず、上がる見込みもな い。 

大学には講師控室があるのみ。じっくり作業できる場所はなく、 自宅が「研究室」になっている。いつでも学生の質問に答えたい が、授業後に講義室に残って対応するしかない。 

一人暮らしに必要な経費を切り詰めて、研究のため必要なフラ ンス語の本を月1万円ほど買うほか、教材にするためフランスの テレビ放送を視聴する経費もかかっている。働くため欠かせない パソコンやネット接続費用などもすべて自腹だ。  国民年金保険料は納めているものの、国民健康保険料は「毎月 払ったら生活できない」。過去に借りた奨学金の返済も求められ ており、話し合いで月5千円ずつ返済している。 

専任教員を目指し、募集があれば何度も応募したが採用されな かった。フランス語教員自体の需要が減っており、いつ雇い止め になるかも不安だ。「フランスの文化を普及させようと思う使命 感だけが支え。ボランティア活動と思っています」と男性。「ま だ自分はまし。今は大学院の定員が増え、若い世代は非常勤講師 の口も少なく、警備員や家庭教師などをしてしのいでいる」と語 る。 

「大学の授業の半分は非常勤講師が支えている。今の賃金では 暮らしていけず、労働時間を授業時間の四倍にみなすべきです」 と語るのは、首都圏大学非常勤講師組合の志田昇書記長。教員は 1回の授業の準備で3時間程度の時間を費やしているほか、試験 の採点時間なども必要だが、労働時間として考慮されていないた めだ。      ◇ 同組合や関西圏大学非常勤講師組合などが実施した2007年 の調査では、事例の男性のような専業の非常勤講師572人の年 収の平均は306万円。平均で週9コマ担当している。研究と教 育のバランスが取れる適正な数は週5コマとされ、生活のために 授業を詰め込んでいる現状が浮かび上がる。 

この調査で、専任教員との待遇差も歴然と出ている。常勤の職 を得ていて、アルバイトで非常勤講師を担う人の場合、年収の平 均は872万円で、倍以上を稼ぐ。  「1コマ月5万円を」という組合の要求で報酬を上げた大学も ある。しかし、深刻なのは、雇われている人が入る被用者保険に 入れないことだ。特に厚生年金の場合、現在は1つの職場で週に 30時間程度以上働くことが適用の条件となっているため、複数 の大学から報酬を得ている非常勤講師の働き方では、まず加入で きない。

志田書記長は「少額の報酬でも事業所に厚生年金の保険料を負 担させ、複数の事業所の保険料を合算する仕組みが必要だ」と制度改正を求めている。

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