第166回 あまりにも「ブッラク企業すぎる」ワタミの冷酷非情な働かせ方に怒りの嵐

すでに報道で広く知られていますが、神奈川労働局は、去る2月、2008年に大手居酒屋チェーン「和民」で働いていた森美菜さん(当時26歳)の自殺を過重労働による労災であると認定しました。2009年、遺族は横須賀労働基準監督署に労災認定を申請しましたが却下されたために、神奈川労働局に審査請求をしていた結果、ようやく労災認定にいたったものです。

2月21日のNHKニュースが労災認定の決定書から伝えるところでは、美菜さんは2008年4月に入社し、横須賀市の店に配属されて調理を担当していましたが、最長で連続7日間に及ぶ朝5時までの深夜勤務を含む長時間労働や、休日のボランティア研修などが重なって精神障害となり、入社約2ヵ月後に自殺しました。2ヵ月間の時間外労働(残業)は227時間でした。美菜さんの両親によると、手帳に記された日記には亡くなるおよそ1か月前に「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます。早く動けません。どうか助けて下さい。誰か助けて下さい」と書かれていたと言います。テレビや新聞にはその手書きのコピーが出ていました。

こうした報道があった直後、ワタミ会長の渡邊美樹氏は、Twitterでつぎのようにコメントしました。

「労災認定の件、大変残念です。四年前のこと 昨日のことのように覚えています。彼女の精神的、肉体的負担を仲間皆で減らそうとしていました。労務管理できていなかったとの認識は、ありません。ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています。会社の存在目的の第一は、社員の幸せだからです」。
 
美菜さんの過労自殺が労災と認定されたのは「大変残念」、働かせ方に問題はないと言わんばかりの経営者の冷酷非情なコメントに、一斉に怒りの声が上がりました。渡邊氏は、従業員と消費者のあいだに批判が拡がることを恐れてか、その後のTwitterでは、次のように弁明しています。

「縁あって、ワタミの思いに、共鳴してくれて入社してくれた一人の社員を守れなかったのは、事実。命懸けの反省をしなければならない。彼女に、心からお詫びをしなくてはならないと考えるに至りました。もう一歩、寄り添うことが、出来ていれば…一層の法令遵守 社員に寄り添う会社づくりを約束します」。

「命がけの反省」などといういかにも軽薄な表現をしているところを見ても、これはその場逃れの口先対応であって、まともな反省とは考えられません。

 ワタミフードサービスが「ブラック企業すぎる」ことは、前々から言われておりました。2008年には、全国各地の「和民」の店舗で、アルバイト店員の勤務時間を1分単位で記録せずに30分単位などで端数を切り捨て、賃金の一部を支払っていなかったために、ワタミは労基署の是正勧告を受け、不払い部分を支給させられています。その2年前には、元アルバイト店員が残業代の不正を労基署に申告したために解雇されるという事件も起きています。

今年3月9日の「週刊朝日」に美菜さんと同期入社という元和民店長の証言が載っています。彼の残業は月300時間以上にもなることがあり、「仕事と会議で、寝ないで丸2日続けて働くことも。夜勤明けで渡邉美樹会長の講話へ行って、そのまま寝ないで出勤したこともある」といいます。「にもかかわらず支払われた残業代は月30時間、支給額は手取りで16万円。ボーナスもなく、寸志で1万円程度だった」そうです。

同じ外食産業の大庄グループ・日本海庄では2007年に新卒過労死事件がありました。この会社では、月80時間の残業を前提に、その残業代込みの支給額を「初任給」とする給与体系をとっていました。その事件の損害請求裁判では、京都地裁も大阪高裁も、会社と経営者の責任を厳しく咎める判決を出しました。

この裁判では、大庄は同業他社も同じような働かせ方をしていることを示す資料として、他社の「36協定」(時間外労働協定)の時間数を提出しました。それによると、大庄自体は「月100時間の時間外労働が年6回認められる」協定を結んでいましたが、ワタミは月120時間の時間外労働を認める協定を結んでいました。

美菜さんの入社後2ヵ月間の時間外労働227時間はワタミの36協定に盛り込まれた月120時間にほぼ対応しています。この一事をとってもワタミは「ブラック企業すぎる」と言われて当然です。

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