毎日新聞 <中3労災死>「職場体験」学校に甘さ 群馬・桐生

毎日新聞 8月26日(yahoo)

 群馬県桐生市の工事現場で今月、アルバイトの栃木県足利市立西中学校3年、石井誠人さん(14)が事故死した。労働基準法は中学生の就労を原則禁じるが、学校は就労を容認し「職場体験」と位置づけていた。学校側は「教育的配慮」を主張するが「生徒指導の放棄」とも映る。中学生の死を追う。【角田直哉、田ノ上達也】
 
中学生雇用8年前から日当約5千円「学校や保護者も把握していたはず」
 
「陸上部に所属し、体育が得意」「授業中にAKB48の歌を歌ってみんなを笑わせる子」。同じ学校の生徒が石井さんを語る言葉からは「少しやんちゃだが、どこにでもいる中学生」の姿が浮かぶ。
 
群馬県太田市の建設会社で石井さんが働いていることを学校が知ったのは7月26日。前日に教頭が親友の同級生と作業服姿で歩く石井さんを見かけた。5月中旬から土曜日に働いていたことを認め、夏休み中は平日も働きたいと願い出た。
 
この同級生は5月下旬から平日も授業を休み、同じ会社で週4日働いていた。学校は学習活動の一環の「職場体験」と認定していた。このため学校は石井さんについても発覚時点で「職場体験」と事後承諾した。
 
学校は同級生の「職場体験」を認めた理由を「『(学校になじめない)今のままの生活を続けるくらいなら働いてほしい』と保護者から強い要望があった」と説明する。岩下利宏校長は足利市教委を通じ「働く体験を通して自信を持たせたかった。職場体験も本人にとって大切だと考えた」とコメントした。
 
学校と会社には以前からつながりがあった。
 
社長(45)は02年以降、足利市内の4中学から石井さんらを含め17人をアルバイトとして受け入れていた。社長によると、多くは授業になじめないなどの問題を抱えていたといい「違法なのは分かっているけど、本人が働きたいと言い、親とか学校に頭を下げられたら断れなかった」と話す。一つの問題点が浮かぶ。
 
教育活動である職場体験に賃金は発生しないが会社はこれまで賃金を払い続け、石井さんや同級生にも日当5000円を渡していた。社長は「学校や保護者もすべて承知していたはずだ」と言う。
 
これに対し学校は、6月8日に行った同級生と保護者との三者面談で「賃金は請求できない」と指導したと説明。一方で、同22日に校長と担任が会社へあいさつに訪れた際は賃金の話はしなかったという。足利市教委は「もらっていないことが前提で確認もしなかった」と話すが、追認を繰り返していただけとの批判は免れない。足利市教委も学校から事故前に「職場体験」実施の報告を受け、追認しただけだった。岩田昭教育長は「労働基準法と就学の義務に関する押さえが甘かった」と反省を述べる。
 
中学教師の経験がある鳴門教育大の阪根健二教授(学校教育学)は「就労先の実態把握が甘かった」と学校の問題点を指摘。「今回のような命にかかわる場合は、保護者にも『本当に大丈夫なのか』と強く再考を促すべきだった」と話す。
 
石井さんは6日、桐生市内の中学校体育館の耐震改修工事現場でがれきを撤去中、崩れた壁の下敷きになり、翌日死亡した。「両親はアルバイトに強く反対したが、本人が全然聞かなかった」。石井さんの自宅で、インターホン越しに兄と名乗る男性が語った。群馬県警と桐生労働基準監督署は労基法違反の疑いで、同社社長を任意で事情聴取するなど原因究明を進めている。
 
◇職場体験
 
生徒が事業所などの職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動。08年に新学習指導要領が公表され、中学校での職場体験活動の推進が盛り込まれた。足利市では学校教育活動の一環として、中学2年を対象に「マイ・チャレンジ」と呼ばれる職場体験事業を実施している。
 
◇労働基準法
 
勤労条件の基準を定めた法律で、中学生年代以下に当たる「15歳に達した日以後の最初の3月31日が終わるまで」の雇用を原則禁じている。就学に差し支えないとする学校長らの証明書を添え、労働基準監督署に申請して許可されれば、軽易な労働なら13歳以上、映画や演劇の仕事なら13歳未満でも修学時間外の雇用は可能。

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