東京新聞 世代をつなぐ 12衆院選 非正規労働のあり方

 東京新聞 2012/12/1

 「非正規で働く苦しみを、次の世代に残したくない」
 
弁護士や大学教授らでつくる「非正規労働者の権利実現全国会議」が十一月、福井市で開いた集会。パナソニックを相手取り、正社員としての地位確認などを求め訴訟中の元派遣社員、河本猛さん(34)=福井県敦賀市=は、必死に裁判を続ける理由を語った。
 
メーカーの仕事を請け負う会社の社員だった河本さんは、二〇〇五年二月からパ社の関連会社(現在は本社に吸収合併)の地元工場で電子部品の製造に従事した。〇六年十一月に請負会社が派遣会社に変わり、パ社社員の指示で働く派遣社員に。夜勤の十二時間労働を基本に、休日労働や残業もいとわずに働いてきた。しかし、リーマン・ショック直後の〇八年十一月、パ社の生産減少を理由に派遣会社から突然、解雇を通告された。
 
〇九年の総選挙後も、非正規労働者の割合は増えており、総務省の労働力調査によると、一一年は35・2%(東北被災三県を除く)。今や、三人に一人以上が非正規で働く時代だ。特に十五〜三十四歳の非正規の割合は、三十五〜五十四歳と比べても高く、むしろ拡大している=グラフ。

 景気後退の影響で真っ先にしわ寄せを受けるのが、こうした不安定な立場の非正規労働者。リーマン・ショック以降、全国で「派遣切り」が相次ぎ、数十万人が職を失った。

 市民団体や労働組合は〇八年末、東京・日比谷公園に「年越し派遣村」を開設。失業とともに家を失い、雇用保険などのセーフティーネットも乏しい非正規労働の実態が明らかになった。〇九年夏の民主党による政権交代の原動力の一つとなったのは、労働規制などで格差是正を求める市民のうねりだった。

 しかし、紆余(うよ)曲折を経て一二年三月に成立した改正労働者派遣法は、民主、自民、公明の三党合意で“骨抜き”に。看板だった登録型派遣、製造業派遣の原則禁止が削除されるなど、当初案から大幅に後退した。

 「民主党は真剣に取り組むと言っていたのに、政権を取ったら姿勢が変わってしまった。なぜ非正規だからと、こんな仕打ちを受け、苦しまねばならないのか」と、河本さんは憤る。

 派遣切りされた労働者が、派遣先を訴える裁判は全国で起こされている。ただ、こうした政治の動きを反映してか、最近は派遣先の雇用責任を否定するなど、労働者側に厳しい判決が続く。
 
河本さんの訴訟でも、正社員化と慰謝料を求める請求は棄却。現在、控訴審が進む。弁護人を務める海道宏実弁護士は「最近の電機業界のリストラでも明らかなように、非正規の問題を放置していたつけが、正社員にも及んできている。労働のあり方は、生活保護や貧困、自殺や過労死の問題にもつながる」と、さらなる法改正を求める。

 龍谷大の脇田滋教授(労働法)によると、日本型の雇用慣行に近かった韓国では、労働組合が中心になって非正規労働を規制する動きが見られ、十二月の大統領選挙でも主要な争点の一つになっているという。「今衆院選で各政党は、主要な争点に挙げるべきだ」と指摘する。(稲田雅文)
 
◆失業率 若者が高齢者上回る

 若年層の不安定な雇用が解消されない一方、八月に「改正高年齢者雇用安定法」が成立した。定年に達した従業員の希望者全員を六十五歳まで雇用することを義務付ける内容だ。

 ただ、総務省の労働力調査によると、二十五〜二十九歳の失業率は、二〇〇三年まで六十〜六十四歳を下回っていたが、以降逆転、〇九、一〇年は7%台に達している。全年齢の平均の5%を2ポイントも上回り、世代間の雇用格差は深刻だ。経団連が昨年行った調査では、退職者の雇用が義務化された場合、「若年者の採用数の縮減で対応」と回答した会員企業が四割に及んだ。若年層へのしわ寄せが懸念され、この世代の雇用対策にもっと力を入れる必要がある。

 

 

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