第205回 最賃制を廃止すれば日本は賃金奴隷の国になりはてるしかありません。

日本維新の会の石原代表と橋下代表代行は、11月29日、衆議院選挙の政権公約を発表し、そのなかで最低賃金制の廃止を打ち出しました。

最低賃金とは、使用者がそれを下回って労働者を雇用してはならない賃金の時間当たりの最低基準額のことです。日本ではこれは最低賃金法にもとづき、かつ時々の政府方針を受けて、中央および地方の最低賃金審議会が年々決めています。

日本の最賃制は地域別最賃制になっており、2012年12月現在、東京850円、大阪800円、沖縄653円(全国加重平均は749円)と地域間で大きな格差があるうえに、全体に最低額が低く抑えられてきたために、たとえフルタイムで働いたとしても、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことは困難です。年2000時間(約週40時間)働いても、年収(税引前)は東京で170万円、沖縄で131万円にしかなりません。

それでも最賃制があるために、労働者を法外に低い賃金で働かせることはできません。11月30日の記者会見で日本維新の橋本代表代行は「最低賃金のルールがあると、あと2、3人雇えるのに1人しか雇えなくなる。安く働けということではなく、賃金はできるだけ出して雇用も生んでもらう」と言いました。これを受けて、内田樹氏は「1人当たり時給800円のルールを廃止して、それで3人雇うということは、1人当たり時給267円になる……」と書いています。

鋭い指摘ですが、内田氏の解釈と違って、おそらく橋下代行は、大阪でいえば、現在の最賃800円でなら10人しか雇えないのに、最賃制が廃止されて市場最低賃金が600円くらいに下がれば、13人くらい雇えるようになると言おうとしたのではないかと思います。しかし、その場合でも、企業が雇用を増やす保証はまったくありません。また、また最賃制を廃止すると、賃金の歯止めが一切ないのですから、スポットでは市場最低賃金が600円どころか、400円、あるいは200円に下がる恐れもないではありません。いずれにせよ、橋下代行は賃金と雇用について知らなさすぎます。

最賃の廃止は低賃金時給労働者が多い非正規労働者の賃金だけでなく、正規労働者の賃金をも大きく下げずにはおきません。

就職情報サイトのマイナビによれば、2013年4月採用予定の日本郵便(株)の一般職の初任給は大卒/月給148,900円〜181,440円、短大卒・高専卒・専門卒/月給139,600円〜174,380円となっています。日本郵便の初任給が学歴別の同一額の表示でなく、勤務地によって幅のある表示になっているのは、同社の一般職の初任給が、地域別最賃に準拠しているからだと考えられます。

短大卒の下限13万9600円でいえば、所定労働時間は月172時間(1日8時間、週40時間)ですから、時間賃金は812円となり、東京の最低賃金850円を大きく割り込んでいます。大卒の14万8900円でいえば、時間賃金は865円で東京の最賃にへばりついています。これは東京の場合も含め、最賃すれすれの低賃金と言わなければなりません。これが民営化された郵便局の実態なのです。これに近い例はほかにもあります。

最賃制があってもこういう状況なのに、最賃制を廃止したらどうなるか。36協定のために労働時間の上限がないに等しい日本で、賃金の下限もなくなれば、日本は賃金奴隷の国になりはてるしかありません。

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