毎日新聞 2013年03月05日 東京朝刊
就職活動(就活)がうまくいかず、精神的に追い詰められて自殺に追い込まれたとみられるケースが、近年増加傾向にある。死を選ぶ若者を思いとどまらせるには、どうしたらいいのか−−。【太田圭介】
2月末、東京都新宿区の早稲田大学キャリアセンター。何人もの学生が、就職に関する情報収集や、職員に進路相談をしていた。商社や大手銀行など人気の高い企業は、大半が3月末までに内々定を出すため、学生たちも追い込みに必死だ。
「4月になると、学生たちの進路相談が殺到します」と、同センターの鈴木義秀課長は話す。相談内容はエントリーシートの書き方や面接の受け方などが多いが、「精神的にかなり追い詰められた学生もいる」という。
同センターでは、精神的に不安定な学生から相談を受けると、学内の保健センターと連携してケアに当たる。うつ病などの症状が深刻化している場合は「いったん就活をストップするよう指導することもあります」と鈴木課長は語る。
警察庁によると、遺書の記述などから「就活の失敗」が原因とされた大学生の自殺者数は、10年が46人、11年が41人。警察庁が詳しい自殺原因の公表を始めた07年(13人)の3倍以上に達している。
留意すべきは「進路に関する悩み」が原因の自殺が、10年に73人、11年に83人いたこと。若者の就活事情に詳しい関西大学経済学部の森岡孝二教授(企業社会論)は「『就活自殺』と特定できている数字は氷山の一角。実際にはこの数倍はいるはずだ」と語気を強める。
「就活自殺」の恐れがあるのは、内定が取れない学生だけではない。選考を順調にパスしていく学生も危ないという。ある大学関係者は「他社の受験を阻止するため、企業が異常な頻度で面接を実施して、学生が疲弊してしまう事例もある」と指摘する。
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学生の就活は、過去に例がないほど難しい時代に突入している。
08年のリーマン・ショックは、日本の雇用環境にとって大きな分岐点となった。企業は内定者の数を確保することに重きを置かなくなり、本当に必要とされる学生しか採用しない「厳選採用」の姿勢を強めた。
景気の「底打ち」感が出てきたと言われる今年も、状況に大きな変化はなさそうだ。流通・サービス業などで採用意欲が高まっているものの、中国との関係悪化や新興国の企業との競争で経営環境が厳しいメーカーは、全般的に採用を手控えている。
さらに、企業が解雇しづらい正社員の採用に慎重になり、従業員の非正規雇用化に拍車がかかっている。自動車産業の製造現場などで多くの派遣社員が解雇・雇い止めされた「派遣切り」が社会問題化したのは、記憶に新しい。