大阪市職員を対象にした入れ墨調査で、回答を拒否して処分された市バス運転手の男性職員(55)が、市を提訴した直後、交通局長に訴訟の取り下げを要求され、断ったところ運転業務から外されていたことがわかった。男性は「違法な配置転換」として9日にも配転の取り消し訴訟を起こす。
大阪市の入れ墨調査は昨年5月、橋下徹市長の指示で、教育委員会を除く約3万4千人の職員に記名式で実施した。手足や頭部など目に触れる部分の入れ墨は申告を義務づけた。
男性は「プライバシー権の侵害」と回答を拒否。同様に拒否した5人と共に昨年8月に戒告の懲戒処分を受けたが、運転業務を外されることはなかった。勤務先の営業所の所長らには、腕や足に入れ墨がないことを見てもらったという。
しかし2カ月近くたった昨年10月、処分の取り消しと損害賠償を求めて大阪地裁に提訴すると、2日後に藤本昌信・交通局長から局長室に呼び出された。
訴状などによると、局長は「社長(局長)を訴えるということはどういうことか」「明日からしっかりドライバーしいや。提訴も取り下げて」と要求。従う姿勢を見せないと、「本局へ来たらどうや」と配転を示唆したという。
翌日、男性が上司を通じて訴訟を取り下げない意向を伝えると、その4日後、所長から交通局運輸課に通うよう命じられ、12月に同課勤務の辞令を受けた。 二重三重に圧力
男性は、市に配転の取り消しと慰謝料300万円などを求めて大阪地裁に提訴する。弁護士は「配転は裁判を受ける権利を保障した憲法32条に違反し、交通局長の裁量権を逸脱、乱用するもの」と主張する。
藤本局長は私鉄出身で、橋下市長の起用で昨年4月に就任した。朝日新聞の取材に訴訟の取り下げ要求や配置転換を認めたうえで、「会社(交通局)を訴えている運転手が事故を起こした時、そんな人に市民の命を預けているのかと批判が出るだろう。命を預かる仕事に就かせておくのはリスクがある」と述べた。
労働問題に詳しい森岡孝二・関西大経済学部教授(企業社会論)の話 入れ墨調査の回答を拒否し、そのうえで訴えを起こしたことを理由に、追い打ちをかけて配置転換をしており、報復的な狙いがあるのは明らか。二重三重に圧力をかけて強要している。
男性と局長との主なやりとり(※男性の録音記録による)
局長「全部水に流して、明日からしっかりドライバーしいやと、もう。だから、提訴も取り下げて」
男性「それはできないですね」
局長「ほんで、もし、まだぐだぐだするんやったら」
男性「ぐたぐたもしません、もうそんな」
局長「そやけど、社長を訴えるということはどういうことか、腹くくりあるやろう」
局長「一番はもう明日からきれいさっぱり、私と話をしたことを受けて、がたがたいうのはやめまっせと、しっかりバス回らせてもらいますよというのが私は最善やと思うし」
局長「それでもがたがたということやったら、1回、本局へ来たらどうやと。別のとこから職場をずっと見たげて。ほんで、最悪は、もうあんまり僕はそれは言わんわ。今、○○さん(男性)が全然話の分からんやつやったら、頼むから辞めてと言おと思ったけど、それはもうええわ」
男性「はい」