望まぬ非正規雇用の実態明らかに

NHK NEWS WEB 2013年5月15日

 

増加傾向にある、パートなどの非正規労働者。なぜ非正規で働いているのか。

総務省が、初めて実態を調査したところ、正社員の仕事がないため、望まずに非正規の仕事に就いている人が348万人で、非正規労働者の5人に1人に上ることが明らかになりました。

調査のねらいや詳しい結果について政治部の伏見周祐記者が、また現場の実態や新たな取り組みについて社会部の榎園康一郎記者が解説します。

増加傾向にある非正規雇用

パートや派遣社員、アルバイトなどの非正規労働者の数は、増加傾向が続いています。
総務省の労働力調査によりますと、労働者全体に占める非正規労働者の割合は、去年1年間の平均で35.2%。統計を取り始めた平成14年以降で最も高くなりました。

正社員と比べて、雇用が不安定で経済的に自立するのが難しく、職業キャリアを形成するのも困難など、さまざまな課題が指摘される非正規雇用。総務省は、その実態を詳しく把握し、今後の対策に生かそうと、ことしから非正規労働者を対象に、その仕事に就いた理由について調査することになりました。こうした調査が行われるのは、初めてのことです。

“5人に1人”が望まない非正規

調査の結果、非正規労働者の数は、ことし1月から3月までの3か月の平均で、1870万人に上り、ことしに入っても過去最高を更新しています。

そして、なぜ非正規の仕事に就いているか、理由を尋ねたところ、多い順に、「自分の都合のよい時間に働きたいから」が418万人、「家計の補助や学費などを得たいから」が390万人、「正規の仕事がないから」が348万人となり、5人に1人が正規の仕事がないという理由で非正規の仕事に就いていることが明らかになりました。

男女で異なる背景も
男女別に見ますと、1870万人の非正規労働者のうち、男性は600万人、女性は1270万人。非正規の仕事に就いている理由も、男女で異なることも分かりました。男性の場合、「正規の仕事がないから」が171万人で最も多く、次いで「自分の都合のよい時間に働きたいから」が120万人、「専門的な技能などを生かせるから」が67万人などとなっています。

一方、女性は、「家計の補助や学費などを得たいから」が324万人で最も多く、次いで「自分の都合のよい時間に働きたいから」が298万人、「正規の仕事がないから」と「家事や育児、介護と両立しやすいから」がいずれも177万人などとなっています。

望まずに非正規の仕事に就いている割合は男性のほうが高く、3人に1人がこうしたケースに当てはまります。また、「正規の仕事がない」と答えた男性の非正規労働者の半数に当たる84万人が、転職などを希望していることも分かりました。

雇用の厳しさ改めて裏付け

今回の結果は、「景気の調整弁」とも言われる非正規労働者の置かれている現状を浮き彫りにしたもので、総務省は、「非正規労働者の数が過去最高を更新するなど、厳しい雇用情勢が続いていることが改めて裏付けられた」と受け止めています。

10年以上非正規で働く人の現状は

東京・新宿区に住む井島亨さん(38)は、14年前に美術大学を卒業後、正社員を目指しながら10年以上、非正規雇用で働いています。井島さんは、大学で学んだ技術を生かしてゲームのデザインの仕事に就きたいと30社以上受けましたが、当時は就職氷河期ということもあり、就職できませんでした。

井島さんは、パソコンの技術を習得すれば正社員への道が開けるかもしれないと、パソコンのレンタル会社で非正規雇用として10年以上働きましたが、リーマンショックのあと、業績の悪化などを理由に会社から契約を更新しないと、突然、告げられました。今はスーパーで週5日、レジ打ちのアルバイトをしていて、手取りは月およそ12万円です。

正社員を目指して1年間、国の職業訓練を受け、ホームページの作成などを学び、50社以上に応募しましたが、いずれも即戦力にならないことを理由に採用されませんでした。
井島さんは「非正規雇用を続けても結婚や家族を持つことはできないので、どうしても正社員になりたい。

アルバイトでもいいから信用を積み上げて正社員になれるよう道を開いていきたいと考えているが、企業の求める即戦力のレベルに達するのはなかなか難しい」と話しています。

国の支援の現状は

国はこれまで、こうした人たちの正社員化を図るため、ハローワークでの支援や職業訓練を行ってきました。平成23年度に、国の職業訓練を利用した人は、およそ41万人。
しかし、ここでも企業が求める高いスキルが壁になって、正社員などの安定的な仕事に就けた人は、就職した人のうちの6割から7割程度にとどまっています。

委託を受けて国の職業訓練を行っている千葉県の専門学校では、きめ細かい面接や、企業への実習など工夫を重ねていますが、企業の求めるスキルとの差を埋めるのは簡単ではないということです。専門学校の校長は「授業で知識や技能を学ぶだけでは受講者が企業の求める即戦力になるのは難しく、コミュニケーションなども加えた教育を行う必要がある」と話しています。

企業の新たな取り組み

こうしたなか、即戦力としての高いスキルを会社の中で身に着けることで正社員に近づいてもらおうという企業の動きが出ています。

JR京都駅でカフェを運営する大阪・吹田市の企業では、1年契約ごとの非正規の人は3年以上働けばそのスキルを評価して契約更新なしに定年まで働き続けられる「無期雇用」に切り替える制度を導入しています。給与は正社員より低いままですが、これまでより安定した正社員と非正規労働者の中間的な働き方です。

さらに、一部の人には正社員の試験を受けられるようにしています。このカフェで働く藤井理恵子さん(29)は7年前に大学を卒業しましたが正社員にはなれず、アルバイトとしてこの職場に入りました。1年ごとにやってくる契約更新のことを考えると、いつ仕事を失うか気がかりだったといいます。

藤井さんは2年前、無期雇用に切り替わり、仕事への意欲が高まり、今は正社員を目指して、さまざまな工夫を打ち出しています。その1つが客足が鈍る寒い日などに店先で始めた暖かい飲み物の試飲サービスです。カフェは吹き抜けのため冬場は売り上げが落ち込みますが、それを食い止めるのに一役買いました。

藤井さんは、50人近いアルバイトの指導も一手に引き受けていますが、そこでも新しい試みを始めました。

職場のやる気を上げるため、お客さんにかけられてうれしかったことばを「ありがとうカード」と名付けた名刺ほどの大きさのカードに記して、その内容を共有しています。藤井さんは「正社員になれるチャンスをもらったので、チャンスをつかめるように、仕事を頑張るとともに、専門的なことも勉強していきたい」と話しています。

会社の人事担当者は「人を採用して教育すると企業もコストもかかるので、同じ人が長く勤めると会社にとっても採用や教育のコストが省けメリットを感じている」と話しています。

国もことし4月、法律を改正して同じ企業で5年を超えて働く場合、労働者が希望すれば契約更新なしに働き続けられる「無期雇用」とすることを企業に義務づけるなど後押しを進めています。今の日本では非正規雇用を続けるとなかなか正社員になりづらいという二極化が進んでいます。

不本意非正規の人たちが少しでも安定して働ける無期雇用に転換するという「階段」を設けることが、二極化の解消につながると感じています。

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