若者に労働関連法の知識を
キャリア教育の検証必要
NPO法人あったかサポート常務理事 笹尾達朗
近年、若者の就職活動の厳しさとともに、就職先での定着率が問われている。卒業後
3年以内に離職する割合は中学・高校・大学でそれぞれ約7割・5割・3割。「七五三
現象」といわれているが、ここ数年、1年以内の離職者が増加する傾向にあるのが気掛
かりだ。
若者の就労支援としては、2000年代に入ってから高校や大学で「インターンシッ
プ」や「自己分析」を通じたキャリア教育が実施されてきた。だが、一向に改善されな
いのはなぜだろうか。
こうした事態に私たちのNPO法人は、06年から高校生や専門学校、大学生を対象
に、社会保険を含む労働関係の「出前授業」を実施してきた。京都府内を中心に「授業
」の要請は年々増え、最近は職業訓練校生や高校の教師を対象にしたものにまで広がっ
ている。
その背景には、高校や大学では卒業生から、「求人票」の内容と実際の労働条件に違
いがあることや、人権を無視したブラック企業の存在に対する相談が急激に増えている
ことがある。
そこから見えてきたものは、各企業が入社した若者をじっくりと育てるというゆとり
を失った一方で、労働法令を無視した企業経営や労務管理が横行している実態だ。そう
した現実に接しても、若者には対処する知識がない。
これまでのキャリア教育は、自己の振り返りを通じて自分に合った仕事探し、つまり
「自分探し」の旅に出る若者を少なからず輩出してきた。適切な職業選択という意味で
は有効かもしれないが、半面、現実の社会と向き合って生きることの厳しさは教えられ
ていない。
キャリア教育を否定するつもりはないが、検証が必要だ。毎日の新聞を読む習慣を持
たないなど社会との関わりの薄い若者は、いわば企業側が用意するインターンシップな
どだけでは、働くという現実を実感として理解できないからだ。
そこに欠けているのは、労働者保護諸法やセーフティーネットなど労働関連法の教育
である。解雇や賃金未払い、いじめ、いやがらせなど深刻な労働問題に遭遇した際の相
談先や、万が一病気やけがのために働くことができなくなった際の労働・社会保険の役
割など、現実にある「雇用のリスク管理」を組み入れる必要がある。
私たちの進める労働関連法教育に対し、「若者に権利を教えることは、いたずらに労
働トラブルを増加させることにはならないか」と危惧する意見もある。
しかし、例えば「空気を読め」と散々に教えられてきた若者が、職場における先輩が
年次有給休暇を余らせているのに、自分だけがその権利を行使できるであろうか。
経済のグローバル化が進んで企業間競争が激化する中、いまや働く人の3人に1人が
非正規労働である。労働や社会保険の分野におけるコンプライアンスの推進は不可欠な
課題である。それは企業経営者や人事・労務管理担当者には当然のこととして求められ
るが、若者を社会に送り出す教育機関の責任も大きいと強調したい。
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ささお・たつろう 51年大分県生まれ。京都中央郵便局勤務を経て05年、社会保
険労務士として弁護士や学者らとともに京都市に労働と社会保障のNPO法人を設立。