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Busines Journal 2013/7/21
前回記事『参院選の目玉・ブラック企業政策、各党の政策を検証〜企業名公表、取り締まり強化…』では、本日(7月21日)に投開票される参議院議員選挙における、各党のブラック企業対策に関する政策(ブラック企業政策)について解説したが、今回はブラック企業政策以外の各党の雇用政策を検証してみたい。特に今年は、雇用改革が経済財政諮問会議、規制改革会議、産業競争力会議などで相次いで議論されている。中心的な話題は解雇規制の緩和、労働時間改革、派遣規制緩和である。
具体的には、解雇規制を緩和し、金銭解決制度の導入や「解雇原則自由」であることを労働法に書き込むことなどが提案されていた。
また、労働時間改革については、裁量労働制の規制緩和や、管理監督者の要件緩和、「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入などを提案していた。これらは総じて「労働時間と賃金」の関係を切り離すことを企図する政策であり、「一定金額」を支払うことで、社員を無限に働かせることを可能にする制度設計になっている。「過労死促進法」と呼ばれるゆえんである。
さらに、派遣法についても規制を緩和し、非正規雇用の活用を促進することが求められていた。
これらの議論を踏まえ、各政党はどのような「雇用政策」を提案しているのだろうか。今回は、審議会で主に取り扱われた、労働時間改革と解雇規制緩和、非正規雇用対策を中心に整理・検証したい。
(1)労働時間改革:民主、みんな、共産、社民
・労働時間規制緩和反対:民主、共産、社民
労働時間改革からみていこう。冒頭に述べたように、政府は、裁量労働、管理監督者、ホワイトカラーイグゼンプションの導入を目指していた。
裁量労働制とは、裁量性の高い業務に就く社員にたいして、一定の労働時間働いたものと「みなす」制度である。だが、これは長時間労働の温床となる恐れがあるために、適用の要件に、労使委員会による議決や、労働者の健康へと配慮する措置などが求められている。
しかし、政府の審議会では、現行制度における労使委員会による5分の4以上の賛成や、対象者の健康状態を半年に一度労働基準監督署に報告する義務の撤廃を求めていた。もし、労働時間の管理が経営者の義務でなくなれば、過労死するような長時間労働が、社員の自己責任になってしまう恐れがある。
また、ホワイトカラーエグゼンプションは、実際に働いた労働時間に応じた賃金の支払いや、割増賃金の支払いをなくす制度である。
自民党は、政府の審議会で提案されている、これらの制度をすべてマニフェストに盛り込まなかった。その意図が、「本音を隠すため」なのか、審議会の方針は撤回するつもりなのかは不明である。
一方、これらの政策に対して、明確に反対を掲げている政党も多数現れている(表1)。社共に加え、連合を母体とする民主党が明確に反対しているのが目につく。だが、他の政党がすべて賛成であるのかは、マニフェストからはうかがうことができない。各候補者に、審議会に対する見解をただすことが必要だろう。
・サービス残業対策:みんな、共産、社民
また、長時間労働の対策として、残業代の割増率引き上げを掲げる政党も多い(表1)。より強力に、サービス残業根絶法を制定して企業名公表や不払い残業代の支払いを2倍にするという政策も登場した。
だが、これらの政策は長時間労働規制とは別に考えたほうがよいだろう。とくに、長時間労働が第一に「カネ」の問題としてとらえられかねないことには、注意を促しておきたい。
サービス残業は、もちろん労働基準法違反の犯罪であり、違法行為として取り締まられなくてはならない問題だ。だが、残業代を多く払わせることによって、長時間労働の抑制を期待することには限界がある。
日本の最低賃金は低すぎるために、時給を引き下げることで、合法的に長時間労働をさせることが可能になっているのだ。ブラック企業はこれが顕著で、基本給の中に「固定残業代」を含める手法を好んで用いている。「基本月給20万円に、100時間分の残業代が含まれている」という具合だ。これを計算してみると、1時間当たりの賃金は1000円にも満たないこともある。
残業代の割増が政策として効果を発揮するには、最低賃金の引き上げや、ブラック企業が用いる「固定残業代」制度の取り締まり(現在は違法ではない)を合わせて行う必要があるだろう。
(2)解雇規制緩和
・緩和:維新、みんな
・反対:民主、生活、共産、社民
解雇規制の緩和は、参院選後に議論が本格化すると目されているが、これについては、明確に推進を掲げる政党と、反対を掲げる政党がいる。
維新の会、みんなの党はそれぞれ、「事後的な金銭解決を含め解雇規制を緩和する」、「正社員の整理解雇に関する『4要件』を見直し、解雇の際の救済手段として金銭解決を含めた解雇ルールを法律で明確化する」と掲げており、この姿勢を隠そうとしない。
こうした解雇規制緩和は、労働者のためになるのだという議論がよく見受けられる。「使えない」中高年正社員が解雇できるようになり、若者が就職しやすくなるというものがその一例だろう。
だが、現在でも実際には解雇は多くおこなわれている。経営者が労働者を気に入らないなどの理由による不当解雇、パワハラによって退職を強要するようなケースも多い。現在でも労働者が納得する金額を解雇の際に支払えば、トラブルになることはほとんどない。このように違法状態が蔓延する状況では、解雇をしやすくすることで、さらにブラック企業が蔓延するだろう。「いつでもクビにできるんだ」と、パワーハラスメントやサービス残業の強要も、今以上にまかり通ってしまう。
自民党は安倍首相が国会答弁でも強調したように、参院選前の時点では、解雇規制緩和について否定している。自民党の政策集でも「雇用システム・求職マッチング制度を整備し、労働力の流動化による健全な競争を通じて人材が適切に配置される『適材適所社会』を目指します」と具体的な政策に踏み込んではいない。
だが政権下の各会議では盛んに議論されてきており、たとえば規制改革会議の大田弘子議長代理(政策研究大学院大学教授)は参院選後にも議論を始めるよう主張している。
参院選までは議論を隠しておいて、選挙後に一斉に議論をはじめよう、という作戦が透けて見えるというのが実情だろう。
(3)派遣規制緩和(緩和:みんな 活用:自民、反対:民主、生活)
6月5日の規制改革会議の答申では、これまで派遣労働は「常用代替防止」のために「臨時的・一時的な業務」「専門業務」「特別の雇用管理を要する業務」に限定されてきたが、その制度を抜本的に見直すとしている。
そのなかで具体的には、労働者派遣の派遣期間を検討していくとしている。現在では派遣期間は最長3年に制限されているが、秘書や通訳など「専門26業務」は例外として期限がなく、これを全職種に広げていくことが狙われている。
また、雇用ワーキングループの報告では、業務に応じて設定されてきた派遣期間の上限を、人を単位に転換すると議論されていた。派遣労働者を入れ替えることで、派遣先企業は労働者派遣を上限なく使用できるようになってしまう。
こうした議論を安倍政権下で進めてきた自民党だが、参院選を前にして、ここでも明確な緩和は掲げていない。ただし、政策集では「労働者派遣制度の活用によるスキルアップやキャリア形成支援」として、積極的な活用を掲げている。
より露骨なのが、みんなの党だ。「『無期・直接雇用=善』という固定観念を捨てて、労働者派遣法を派遣労働者のニーズに合わせて再改正。日雇い派遣の原則禁止を定めた条項等を見直し、女性や高齢者らの多様な就労の機会を確保する」とあり、規制緩和に積極的だ。
一方、民主、共産、社民は明確に派遣労働の規制緩和に反対を掲げている。特に共産、社民は規制強化を掲げている。共産は「派遣労働者保護法案」により、派遣労働を臨時的・一時的業務に厳格に制限するという。製造業派遣や日雇い派遣を全面的に禁止し、登録型派遣は真に専門的な業務にきびしく限定。派遣受け入れ期間の上限は1年とし、違法があった場合は派遣先に期間の定めなく直接雇用されたものとみなし、正社員化を進める。また、派遣先の正社員との均等待遇、グループ内派遣の制限をおこない、常用代替を規制。
社民党も、「労働者派遣法について、登録型派遣の原則禁止、製造業務派遣の原則禁止、専門26業務の見直し、派遣先責任の強化など」に、労働者保護の観点から取り組むとしている。
(4)まとめ
現在の雇用政策が複雑なのは、単純な「雇用重視か否か」で割り切れない議論が立てられていることだ。「ブラック企業をなくす」「長時間労働をなくす」としながらも、解雇規制や労働時間規制を緩和する「具体策」が提案されていることも少なくない。
非正規雇用の規制緩和にしても、労働者の就業機会の増加や、キャリア形成を促すと言われている。雇用の増加や安定化といった「同じ政策目標」に向かって、まったく異なる提案がされているわけで、これらの具体的な違いを見分けることが、有権者にとって大切になってくることになる。
(文=今野晴貴/NPO法人POSSE代表)