毎日新聞 2013年09月26日 東京朝刊
労働者派遣法の見直しに向けた議論が、安倍内閣で始まった。同法は昨年、規制を強化する方向で改正されたばかりだが、再び規制緩和にカジを切ろうとしているのだ。法改正に向けた動きを、派遣労働者が置かれている現状と合わせ、2回に分けて報告する。
派遣労働者は、正社員やパートなど企業から直接に雇用される形態に比べ、雇用関係が少し複雑な契約になっている=図<1>参照。正社員や契約社員が、会社と直接労働契約を結ぶのに対して、派遣労働者の場合、労働契約を結ぶ相手は、労働者を企業に派遣する派遣会社。だが、実際に働く時に指示を受けるのは、派遣された先の会社となる。このため、派遣労働は「三角雇用」とも呼ばれる。
複雑な雇用関係は、働く人ではなく、企業の需要に対応するためにある。企業側は、人を雇う責任を負わずに、人を働かせることができる。派遣で働く人は、派遣会社が雇用責任を持っているとはいえ、派遣先の都合で仕事がなくなったり、次の仕事が見つかるまで時間がかかったりするなど、一般的に雇用が不安定な状態にある。
実際にどんな人が派遣で働いているのか。厚生労働省の2012年の派遣労働者実態調査から浮かんだ派遣労働者の男女のモデル=図<2>参照=によると、男性は35〜39歳が16・5%と最多。次いで30〜34歳、25〜29歳と若年層が多い。女性も35〜39歳が最多(21・3%)で、次いで40〜44歳、30〜34歳の順だった。
男性で35〜39歳が最多なのは、就職氷河期時代に正社員の仕事が見つからずに派遣労働に就き、そのまま続けている人が多いため。女性は、出産などで仕事を辞め、仕事に復帰する際に派遣で仕事を探すケースが多いためとみられる。
●生計立てる主収入
平均賃金(時給)は1351円。男女とも、最も多いのが1000〜1250円未満だ。賃金に対して「満足していない」としているのは35・1%。「満足している」の34・9%をわずかに上回った。
男女で大きな差があるのは、生活をまかなう収入源だ。男性は91・2%が自身の収入なのに対し、女性は53・4%。女性は配偶者の収入が35・3%を占め、男性は1・4%だ。男性の多くは派遣の仕事で生計を立てている。
部品組み立てで派遣されている横浜市の男性(34)は「パートと比べ時給が高いと言われるが、通勤費は自腹で手取りは18万前後、ボーナスもない。貯金をする余裕もない」と言う。男性は正社員で就職したが、営業のノルマを達成できないと解雇された。正社員の仕事は見つからず、7年間派遣で働いている。男性は「いつ仕事が切れるか、次があるのか不安な派遣では、将来のめどが立たない。結婚にも踏み切れない」と明かす。
一方、東京都内在住の女性(37)は、子供が小学校の高学年になったのを機に仕事を探した。女性は「正社員より余裕のある働き方をしたいので、派遣で探した。正社員にこだわっていたらすぐには見つからなかっただろう」と話す。
派遣労働は、女性が再び仕事を探すケースなどでは有効な手法として機能している。だが、女性でも半数以上は派遣の仕事で生計を立てており、厳しい状況を抱える人も多い。
●正社員希望が半数
同調査で今後の働き方の希望を聞いたところ、正社員が43・2%で、派遣社員が43・1%と拮抗(きっこう)した。しかし、25〜29歳(52・5%)、30〜34歳(52%)など49歳までの働き盛りの年代では、正社員希望が派遣社員を大きく上回った。男女別では、女性の方が正社員を希望する割合が高かった。厚労省幹部は「やむなく派遣で働いているとみられる人が半数近くいることは重要だ」と語る。
調査結果から見える賃金や不安定な雇用への不安や不満。次回は、厚労省で検討されている派遣法改正は、どこをどう変えることが議論されているのかを報告する。【東海林智】