くらしナビ・ライフスタイル:派遣労働は今/下 不安定雇用増える恐れも

毎日新聞 2013年09月27日 東京朝刊

 ●規制緩和決まれば

 「単に派遣労働者を増やすだけなんじゃないですか」

 厚生労働省の研究会が8月にまとめた、今後の労働者派遣制度のあり方に関する研究会報告に目を通した千葉県在住の派遣労働者の男性(37)は、こう言って顔をしかめた。

 2008年まで自動車部品の製造業務の派遣で働いていたが、リーマン・ショックを受け「雇い止め」に遭った。仕事を失い、住んでいた寮も追い出された。仕事と住居を一度に失うことに恐怖を覚え、製造業務以外の派遣の仕事を選んで働いてきた。安定した仕事に就きたかったが、見つからなかった。

 派遣労働への規制が強まれば、正社員の雇用が増えるのではないかと期待していたが、男性は「期待外れ」と落胆を隠さない。

 派遣労働を巡っては昨年、日々または30日以内の短い期間の「日雇い派遣」の原則禁止など、規制を強化する法改正が行われた。しかし、自民党への政権交代後、同法は1年もたたずに再び規制緩和の方向で見直しの検討作業が始まった。労働者派遣制度の根幹に関わるような内容が、論点に挙がっている。

 これまでは、雇用の基本は期間の定めのない無期雇用(正社員)であり、派遣労働者に任せる仕事は「臨時的、一時的な業務」であることが原則とされてきた。「例外」が拡大して、一時的ではない恒常的な仕事にも派遣労働者が使われることを禁じていたのだ。これを「常用代替禁止」という。

 だが今回の見直しでは、実質的に「常用代替禁止」をやめ、派遣労働者の仕事の範囲や期間を広げる方向で検討されている。

 ●正社員ゼロ法案?

 
 現行制度では、派遣労働者が働く期間に制限がないのは、専門的な知識や技 術を必要とする通訳や翻訳、アナウンサー、財務処理など「専門26業務」に限られている。これら以外の業務では、派遣期間は最長3年まで認められるが、 3年を過ぎた業務に派遣労働者を使うことは認められない。3年以上仕事があ るということは「臨時的な仕事」とは言えないからだ。
 だが、見直し案では、この「専門26業務」を廃止して、派遣会社と無期契 約を結んでいる派遣労働者には、業務に限らず期間制限をなくす。
 また、契約期間が半年や1年など有期契約の労働者については、派遣期間の上限を「一律3年」とするが、労使が協議して「派遣を使うことに問題がない」との結論が出れば、労働者を代えて同じ業務に派遣労働者を使うことを可能に する。一般事務ではこれまで3年までしか派遣労働者を使えなかったが、人を代えれば延々と派遣労働者を使うことができるようになる。
 背景には「仕事を覚えた頃に、派遣として使えなくなる」という企業側の不満がある。派遣労働者側にも「安定した雇用にしてほしい」との思いもあり、見直しはこれを受けた形だ。
 しかし、無期雇用の契約を結んでいる派遣労働者は全体の20%程度に過ぎない。また、有期雇用の契約の場合は3年ごとに仕事が変わることになり、細切れの雇用であることは変わらないとの指摘もある。派遣が際限なく増え、正社員が減り、不安定雇用のみが増える「正社員ゼロ法案」との批判も出ている。

 現行制度では、派遣労働者が働く期間に制限がないのは、専門的な知識や技術を必要とする通訳や翻訳、アナウンサー、財務処理など「専門26業務」に限られている。これら以外の業務では、派遣期間は最長3年まで認められるが、3年を過ぎた業務に派遣労働者を使うことは認められない。3年以上仕事があるということは「臨時的な仕事」とは言えないからだ。

 だが、見直し案では、この「専門26業務」を廃止して、派遣会社と無期契約を結んでいる派遣労働者には、業務に限らず期間制限をなくす。

 また、契約期間が半年や1年など有期契約の労働者については、派遣期間の上限を「一律3年」とするが、労使が協議して「派遣を使うことに問題がない」との結論が出れば、労働者を代えて同じ業務に派遣労働者を使うことを可能にする。一般事務ではこれまで3年までしか派遣労働者を使えなかったが、人を代えれば延々と派遣労働者を使うことができるようになる。

●連合は見直し批判
 「常用代替禁止」の原則が崩れれば、企業による際限のない派遣利用が進み、不安定雇用がはびこりかねない。連合の古賀伸明会長は見直し案について「派遣の仕事は臨時的、一時的業務であるべきだ。到底理解できない」と批判する。
 だが一方で、労組に対する厳しい声もある。正社員の雇用を守るため、派遣労働者を犠牲にして雇用を不安定なままにしている、という批判だ。
 別の連合幹部は「派遣業務が原則自由化された時に止めることができず、不安定雇用が増えた悔いはある。だが、今回の見直しは派遣労働者の雇用の安定つながるかは疑問。これ以上雇用が不安定な労働者を増やしてはいけない」と訴えている。【東海林智】

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