安倍政権の国家戦略特区 国民不在の「企業目線」

毎日新聞 2013年10月22日

 安倍政権は、経済成長のための手だての一つとする「国家戦略特区」の基本方針をまとめ、法案を今の国会に出す。特区で何がどう変わるのか。 (金杉貴雄)

 Q 特区って前からなかったっけ。

 A それは「構造改革特区」だ。小泉政権時代の二〇〇二年度から始まった。これまでに「どぶろく特区」「小中一貫教育特区」など二百三十三件が認められている。

 Q 国家戦略は何が違うの。

 A 「構造改革」は地方の工夫を生かした活性化が狙いで自治体が提案する。「国家戦略」は国が上から決める。

 Q 目的は。

 A さまざまな国民の権利や公平性を重視して決められているルールを、政府が狙いを定め、ある地域だけ緩める。「規制緩和」と呼ぶんだけど、その地域では企業がルールに縛られずに活動できるので、もうけやすくなるというのが政府の発想だ。企業を潤わせ、経済を上向かせようとしている。

 Q 具体的にどんなルールが緩和されるのかな。

 A 都市開発では、普通は地方自治体が決める都市計画を国がリードし、マンション建設の容積率を緩めたりする。例えば十階までしか建てられない土地に、二十階のマンションをつくれるようになるといった制度だ。

 医療の分野では「混合診療」の拡大がある。日本の医療制度は「国民皆保険」と呼ばれ、例えば承認されていない薬は、保険の診療と一緒には使ってはいけないんだけど、特区ではできるようになる。

 Q 問題はないのかな。

 A 心配はあるよ。今のルールより大きなマンションが次々と建てば、先に住んでいる住民の暮らしが脅かされるかもしれない。混合診療も、保険が使えない高額な医療が広がれば、低所得者も安心して医療を受けられる国民皆保険が影響を受けるとの声もある。

 今回、企業が従業員を解雇しやすくするルールも検討されたけど「解雇特区」などと批判され、政府は法案に入れることを見送った。政府内にも反対の声が強かったからね。ただ政府は今後、雇用の規制緩和は全国一律で検討する。特区の内容だけをチェックしても、安倍政権が「企業優先」なのがよく分かる。

 Q どの地域が特区になるの。

 A まだ決まっていない。政府は法案が成立すれば、年内にも複数の地域を選び、具体的な内容を決める。

 Q 決めるのは。

 A 首相や特区担当の総務相らと有識者がメンバーの「特区諮問会議」が決める。

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