キャンパる:急増!「ブラックバイト」 学生「生活費のため、やめられない」

毎日新聞 2013年11月22日 東京夕刊

弁護士「おかしいと思ったら相談を」

 ◇過酷シフト要求、余り物を買い取らせる…

 今や学生と切っても切り離せないものになったアルバイト。そんな中、学生生
活に支障が出るほどに働かされる「ブラックバイト」にからめ捕られる学生が増
えているといわれる。今、学生のアルバイトに何が起こっているのか。その実態
を追った。【法政大・山本純哉】

 「入れるのは佐藤さんしかいないと思ったんだよね」

 北海道から出てきて、首都圏の大学に通う2年生の佐藤真奈美さん(20)=
仮名=は、9月にアルバイトをしている飲食店の店長からこう言われた。普段の
シフトは週3日。飲食店から試験のために事前に休みを申請していた日にちを含
め、週6日の出勤を求められた。最初は勉強ができなくなると思って断ったとい
う。しかし結局、週5回の勤務になった。1日の勤務は午後5時から10時まで
の5時間。6万円の家賃代を含め親からの仕送りはまったく無く、限度額いっぱ
いまで借りた奨学金とアルバイトで1人暮らしの生計を立てている。「生活費や
予定している留学費用は自分で稼がなくてはならないから、やめたくてもやめら
れない」と話す。

 「ブラックバイト」の言葉を作り出したのは中京大学(名古屋市)国際教養学
部教授の大内裕和氏。学生を苦しめるアルバイトの実態を、社員をサービス残業
などで酷使する「ブラック企業」に対応する「ブラックバイト」という言葉で表
した。

 大内教授は今年の6〜7月に中京大学の学生約500人を対象にアルバイトに
関する経験や意見について調査した。その結果、店で余ったおでんやケーキをバ
イト学生に買い取らせる「自爆営業」を強要されたり、契約とは異なるシフトを
強制的に入れられたりするといった被害が明らかになった。中には「君がいない
と店がダメになる」と言われ試験を休みバイトを続けた結果、大学を中退するこ
とになった人もいたという。

 かつては正規雇用の補助としての扱いだった学生のアルバイト。現在は企業の
人件費削減によって正社員の数が減り、彼らへの負担が急増している。また、
「バイトリーダー」や「バイトマネジャー」などの肩書を与えられ、重い責任を
持たされることも多いという。大内教授は「私たちが学生のころは、バイトは気
楽なものだった。不景気で親の収入も減り、やめたくてもやめられないバイト学
生も増えている。今のアルバイトは学生を追い込んでいる」と話す。

 昨年行われた全国大学生協連の調査では下宿生の仕送り額の平均は月6万96
10円と6年連続で減少。日本学生支援機構の学生生活調査によると、それに呼
応するように「家庭からの給付のみでは修学不自由・困難」と答える学生は40
・3%(2010年度)と、06年度から4・9ポイント増加している=グラフ
参照。減った仕送りの分はアルバイトや奨学金で賄われる。大内教授が指摘する
ように、現在の学生のアルバイトは「遊興費のための小遣い稼ぎ」ではなく「家
計の支え」になっているのが現状だ。

 アルバイトで生計を立てている学生にとって現在のアルバイトをやめることは
次に働く場所を見つけるまで無収入の期間ができることにつながる。たとえ「ブ
ラックバイト」であっても、学生生活を送るためにはそこにすがりつくしかない
ことが問題を起こしている。真奈美さんも「生活費のための収入が無くなるのが
怖くて、無理を言われてもやめることはできなかった」という。

 ブラック企業被害対策弁護団の団長を務める佐々木亮弁護士はこうした学生の
財政事情に加え、学生の労働法制に対する知識のなさも被害を増やす一因と指摘
する。

 東京都内に住む女子学生(20)が勤務しているカフェのアルバイトではサー
ビス残業が常態化している。正規雇用の社員は日中しか店舗にいないことが多く、
夜の閉店作業はアルバイトのみで行っている。午後11時半には退勤を打刻する
ことが義務付けられており、作業が終わらないときは退勤後に30分から1時間、
バイト代なしで働くことが普通になっているという。その学生は「入ってきたと
きは疑問に感じたが、店舗のルールになっていたため受け入れてしまった」と話
す。佐々木弁護士は「社会に出たことがなく、労働法制に関する知識のない学生
は企業から『社会ではこれが常識だ』とされると拒否する権利があっても受け入
れてしまう。ブラックバイトはそこにつけこんでいる。『おかしい』と思ったら
関係機関などに相談してほしい」と話す。

 今年9月にはこうした「ブラックバイト」の現状を受け、学生アルバイトのた
めの労働組合「首都圏学生ユニオン」が発足した。代表の法政大学2年の岩井佑
樹さん(20)は「アルバイトだからといって声を上げてはいけないわけじゃな
い。対処の仕方をしっかり知ってほしい」と話す。

 一方、国も「ブラックバイト」の状況改善に取り組み始めている。文部科学省
は、昨年8月から厚生労働省や各大学と連携して学生に労働法制について教える
課外講座を実施している。文科省は「学生の本分が勉強である以上、アルバイト
が負担になっている現状は問題だ。今後の取り組みも考えていきたい」(学生・
留学生課)としている。

 しかし大内教授は労働法制を学生に周知するだけでは不十分だと指摘する。
「根本的な解決には、学生がお金の心配をせずに済むように奨学金を拡充するな
どの金銭面での対策が必要だ。このままでは何のために大学に入ったのかわから
ない」

 学生の知識の無さと金銭事情につけいり、学生を苦しめる「ブラックバイト」。
学業との両立のためにも学生の身を守る必要があると感じた。

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