THE PAGE 12月2日(月)
[図表] 最低賃金の相対水準比較。各国の最低賃金が、その国の賃金の中央値と比べてどれくらい高いか低いかを示す(出所:OECD Economic Policy Reforms 2011)
政府が財界に対して異例のベースアップの要望を行うなど、このところ賃金の問題が大きくクローズアップされています。果たして日本の最低賃金は国際的に見てどの程度の水準なのでしょうか?また日本の最低賃金制度はうまく機能しているのでしょうか?
日本の現在の最低賃金は都道府県によって異なりますが、平均すると764円となります。海外と比較すると日本の最低賃金はかなり低い水準にあります。
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欧米の最低賃金より低い
例えばフランスの最低賃金は9.43ユーロ(約1311円)、英国は6.31ポンド(約1055円)と日本よりも遙かに高い水準です。弱肉強食のイメージが強い米国ですが、各州を平均するとだいたい8ドル(約818円)程度になります。ドイツではこれまで最低賃金がなかったのですが、総選挙の結果を受けた連立政権の樹立によって最低賃金の導入に舵を切ることになりました。今のところ8.5ユーロ(1181円)という金額で検討が進められています。
ちなみに最低賃金がなかったドイツでは、低賃金労働の場合6ユーロ(約834円)前後が相場といわれていました。日本の最低賃金は、最低賃金が導入されていなかったドイツよりもさらに低賃金ということになります。また企業の一部には最低賃金を守らないところもあり、実態はもっと低いという話もあります。
円高の時代であれば日本の相対的水準はもう少し高かったわけですが、円高は超デフレや不景気との引き換えですから、あまり意味はありません。
日本の賃金がこれほどまでに低いのは、賃金よりも雇用を優先してきたからです。国税庁の調査によれば、2012年の給与所得者数は4556万人と、ここ10年で2%近く増加しました。一方、給与総額は逆に7.2%減少しています。日本は20年間不況が続き経済は横ばいですから、給与の原資を増やすことができません。雇用を維持するためには給料を下げるしかなく、結果としてどんどん賃金は下がっていきました。
同じ期間、欧州や米国のGDPは1.6倍に拡大していますから、日本の最低賃金が先進各国よりも遙かに低いのは致し方ないことなのかもしれません。その代わり、日本の失業率は4.3%と、欧州の11%よりも低い水準に抑えられています(ただ日本の失業率の実態はこれよりもはるかに悪いという意見もあります)。
「相対的貧困率」は欧州の1.5倍
もっとも最低賃金については、生活保護の水準を下回っているのはおかしいとの指摘があり、少しずつではありますが引き上げられています。しかし、企業に賃金を支払う余裕がないという状況では、引き上げにも限界があります。
日本は貧富の差が少ない国と思われていましたが、それは昔の話です。OECDの調査では日本の相対的貧困率(全国民の所得の中央値の半分に満たない国民の割合)は15%を超えており、欧州各国の1.5倍近くあります。先進国ではもっとも貧富の差が激しいといわれている米国とほぼ同じ水準になっているのです。
経済のパイを大きくしなければ、雇用の絶対量を増やすことも、賃金を上げることもできません。経済が拡大しない中、賃金だけを無理に上げれば今度はインフレを加速させてしまいます。小手先ではない、抜本的な経済対策が求められているのです。
(The Capital Tribune Japan)